タニシ狩り 前編
ウィットと正式にパーティを組んで、クエストを受けるようになった。目下の目標は、ネオス級へと昇格することだ。
「今日は、このクエストを受けましょ!」クエストボードから、ウィットがウキウキしながら勧めてきた。
「どれですか、ギガントタニシの討伐?タニシって、あのタニシですか?」
「田んぼとかにいるタニシのことに決まってるでしょ。まぁちょっと大きいけど。」
「はぁ、タニシを倒しに行くって、農家じゃないんですから。」
「タニシと言っても魔力を蓄えて大きくなったタニシだから、甘く見ないほうがいいわ。本当なら、ヘーリオス級のあなただけなら、このクエストは受けられないんだからね。」
そんなに危険なのか?タニシが??
「取り敢えず、目的のバラールの森の中の大きな池に行きましょうか。」
バラールの森へと2人で入っていく。もうすでに、いくつかクエストをこなしてきたので、ある程度は協力して戦うことができるようになってきた。
「早速、来たか。」20匹程度のオオカミが僕らと対峙する。この魔狼と呼ばれているオオカミはバラールの森では珍しく、人間に積極的に襲い掛かってくる。あまり強くはないとはいえ、20匹も相手するのは、こっちもただでは済まないかもしれない。
ウィットの魔法が物を投げて攻撃するという性質上、多対一には向いていないので、僕がその分多くのオオカミを倒す必要がある。
「ウィットさん、鼻つまんでてくれますか?」
「え、何するの?」
「まぁいいじゃないですか。」少し離れた場所でこちらの動きを伺っている魔狼たち目掛けて、EtSH:エタンチオールを浴びせた。
「じゃあ、ウィットさん、逃げますよ!」急いでウィットの手を引き、走って逃げる。とにかく走って逃げた。勝てないから逃げたわけではない。僕があそこから逃げた理由は・・・
「くっさ!え、ゲホゲホッ。うぇっ!くっさ!」ウィットもそのにおいに気づいたらしい。
エタンチオールは、世界一臭い物質だ。ほんの少量でも、においが分かるのに、撒き散らすように放ってきたのだ。少し離れただけでにおいが収まるものでもないだろう。
「はぁはぁはぁ。臭いし、走りつかれたし、もうなんなのよ!」
「すみません、あんな数の魔狼、僕では相手できないので、強硬手段です。」
「それで、あのにおいで魔狼は倒せるの?」
「高濃度のエタンチオールをあんな量かけられたら、中枢神経が麻痺してそのまま死に至ると思いますよ。まぁしばらく、においが凄すぎて魔石を取りには行けませんけど。」
「倒した意味ないじゃない!」ウィットは僕の頭を叩いた。
「今回の目的はタニシだからいいじゃないですか。ほら、もうすぐタニシがいるとされる池ですよ。」
話を逸らそうとするが、ウィットはまだ納得がいっていない様子で、
「今後、あのくさいの使うのは禁止ね!お姉さんとの約束だからね!!」
「どこに、お姉さんなんかいるんですか?」
「あ!?誰がチビだって??」
誰もそんなこと言ってない。被害妄想が過ぎる。
「もうエタンチオールは使いませんよ、多分。そんなことより、池には着きましたけど、池の中にタニシがいるとしたら、どうやって倒すんですか?」
「釣るのよ!!」
「釣る?タニシって釣るものでしたっけ?釣る時の餌の間違いじゃないんですか?」
「見てなさい。」そう言ってウィットはそこらへんに落ちていた木の棒の先に糸を括りつける。
「そんな急ごしらえの釣り竿で釣れるんですか?」
「百聞は一見に如かずね。糸の先に小さい魔石をつけてっと。出来たわ。じゃあ、オーラムこれ持って池に投げ込んで!」
投げ込んでと言われて、半信半疑のまま、池に投げ入れて待ってみることにした。
魔石のおかげで糸が少しずつ沈んでいった。釣り自体は、まだ田舎に住んでいたころよく川魚なんかを釣っていたなぁと感傷に浸っていたそのときだった。
バッシャン!
「えっ、えええええええええええぇぇぇぇぇ!!!」
釣り竿に食いついて池から飛び出してきたのは、3mは優に超えるサイズの巨大なタニシ?だった。
「デカすぎんだろ・・・」
「私も最初は驚きのあまり、腰を抜かしたわ。この固体は、私が前戦ったものより大きい気がするけど。じゃあ、早速倒しますか。」
倒すって、こんな大きいサイズの魔物を?
「その体、貫いてあげるわ。」ウィットがお得意の投擲魔法で、ダガーを投げつける。
ダガーはギガントタニシの体に突き刺さるが、あまりの体の大きさに全くダメージを受けていないようだ。
「そんな、ビクともしないなんて!」
ギガントタニシは、ウィットの方に迫っていった。
なんとかして、タニシをこっちにヘイトを向けなければ。しかし、何を生み出すべきか。恐らく、池の泥の中に生息する関係で、タニシは嗅覚が発達しているはずだ。つまり、エタンチオールをもう一度、と思ったがまた魔石を得られないはめになってしまう。
「こっちだ、タニシ。」H2SO4:硫酸を浴びせた。
ギガントタニシは、身をよじるようなモーションをした。少しは効いているようだ。さらに、硫酸のにおいで、こちらの位置を把握しづらくなっているようだった。
「ありがとう!オーラム。だけど、まだ全然気は抜けないわ。」
さらに、硫酸を放ちタニシの動きを止めようとする。
「くらえ、硫酸!」手のひらから、硫酸が・・・・・え?出ない?
魔力切れというわけでもないのに、なぜか硫酸が出ない。
もしかしたら、まだこの魔法には僕の知らない欠点があるのかもしれない。
・解説コーナー
エタンチオールは本文中にもある通り世界で一番臭い化合物です。そんな臭いものにも使い道はあります。それは、ほんのちょっとでも異臭がするので、ガスに微量に混ぜて、ガス漏れしてる時に分かるようにしているんですね。みなさんがガスのにおいだと思っているものは、実はガスそのもののにおいではないという訳です。
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