初めてのクエスト達成
「それで、オーラムは何のクエストを受けたの?」
「アマトキシンタケを3つほど手に入れるクエストです。」
「え、アマトキシンタケって超危険な毒キノコじゃないの?食べたら死ぬって言われてるあの?」
「そうですね。まぁ名前にアマトキシンって付いてるくらいですから、毒キノコでしょうね。」
「そんなのも欲しがる酔狂な人もいるんだね。」
「まぁギルドの話では、毒について研究している研究者が欲しがっているという話でしたけど。」
「毒の研究をしている人って・・・碌な人間じゃないわね。」
「それが実はそうでもないんですよ。毒と薬って本当に紙一重で、多量なら毒、少量なら病に効く薬みたいなものばっかりですよ。」
「じゃあ、アマトキシンタケも薬になるかもしれないの!?」
「まぁアマトキシン類は毒性が強すぎて、10 mgも摂取したら死ぬんで絶対薬にはならないですけどね。」
「ならないのかよ!」いいツッコみだった。
「まぁ何に使うかは置いといて、さっさと見つけてギルドに持っていきましょうか。」
アマトキシンタケを持ってギルド本部へと向かう。ウィットは苦い顔をしながら、ギルド本部内に付いてきた。
「はい、依頼通りの3つのアマトキシンタケ、受け取りました。これは報酬の5000カイザーです。」はじめてなら、報酬はこんなもんかと思いながら、精算を済ませるとウィットが3人の冒険者たちに囲まれていた。
「久しぶりじゃねーか、ウィットゴードちゃん。どうだ、俺様とパーティ組まねえか?アーゴン級の凄さってやつを俺が手取り足取り教えてやるよ。」
「いやいや、そんなむさくるしいオッサンじゃなくて、俺と組みたいよね、ウィットゴードちゃん。」
「お主らは礼儀がなっておらぬな。どれ、儂が嬢ちゃんの手ほどきの方をしてやろう。」
モテモテだった。というか、パーティメンバー選り取り見取りって感じだった。しかし、ウィットは心底嫌そうな態度で、
「あんたらとは、絶対パーティ組むもんか。それに私にはもう他の人とパーティを組んでるの!」
「「「なんだって!!」」」「誰だ!」「どこの馬の骨だ!」「俺のウィットゴードちゃんだぞ。」
三者三様の反応を見せる。いや最後のやつおかしいだろ。そう思っていると、ウィットはこちらに近づいてきた。
「この人が私とパーティを組んでくれる、オーラムよ。」
「どうも、オーラムです。」鋭い視線が向けられる。すると、
「なんで、こんな男なんだ!俺の方が筋肉多いじゃないか!」いや、筋肉量関係ないだろ。
「そうだ!絶対儂の方が脊柱起立筋鍛えてるぞ!」いや、どこの筋肉だよ。
「しかも、まだヘーリオス級じゃん。こんなのがパーティにいていいの?」お前だけ意見がまともすぎてビックリするわ。
「私が決めたことに邪魔しないで、とにかく、そういう訳だからもう構って来ないで。」
「そりゃないぜ、ウィットゴードちゃん。こんな男と2人きりだなんて納得できないぜ。そうだ、おいそこの男、表でろよ。どっちがウィットゴードちゃんにふさわしいか、このベリル様と勝負しようぜ。」ベリルと名乗る筋肉だるまの男が僕に喧嘩を吹っかけてきた。
「そんなにウィットさんと組みたいなら、僕は別に譲っても、って、痛っっっった!」途中でウィットに思いきり太ももに抓られた。
「良いわよ!オーラム、あんな奴追い返してやりなさい!」
「ちょっと待って。」ウィットにしか聞こえない声で相談する。
「なによ?戦いなさいよ。」「嫌だよ!」「あいつは自分の筋肉を硬化させる魔法の使い手だから、打撃や斬撃はまず効かないわ。」
戦う前提で僕にアドバイスをしないで欲しい。
「なんだ、俺様の筋肉に怯えて怖気づいちまったか?まぁ冒険者になったばかりってことは18だろ?ウィットゴードちゃんと同い年の俺様にビビってしまってもしょうがねえか。」
まさかの年下だった。そう考えるとなんか少しイラっときた。そもそも、逃げられなさそうだし、諦めるしかないようだ。
「あの、戦うってそもそもどうしたら負けなんですか?」
「そりゃ、逃げだすか、降参したら負けだろ。」
「わかりました。じゃあやりましょうか。」それなら、僕にも勝ち筋がありそうだ。
「死なないように手加減できなかったらすまんな。」指をボキボキと鳴らし始める。
「早く終わらせたいんですけど。まだですか?」わざと煽るようなことを言う。
「てめぇ!」大男がこちら目掛けて走ってくる。
現状、この魔法の欠点の一つに生み出す物質の濃度を変えることが出来ないということがある。それはつまり、危険な薬品も薄めることが出来ないため、人体に悪影響を及ぼす化合物を戦闘で使いづらいということだ。
「いくぜ、俺の超硬質ストレートパンチ!」大男が近づいてきた所で、僕は手のひらを地面に向けた。
想像するのは最も単純な構造をしているケトン。CH3COCH3:アセトンだ。
地面に大量に放たれたアセトンは蒸気となる。
「水なんか地面にかけてどうした・・・あ?」どうやら、異臭に気が付いたようだ。流石に顔にかけるのはまずいので、衣服をアセトンで少し濡らす。
「冷たい!それに、なんだ、この匂いは、う・・・。」
「降参するなら、やめるけどまだやる?」正直、これ以上アセトンをかけるのはヤバそうなのでもうやめて欲しい。
「降参だ。頼むからこの匂いを止めてくれ。頼む。」僕はすかさず手から水を放ち、地面と体中のアセトンを洗い流した。
「はぁ、はぁはぁ。いったい、どんな魔法なんだ。」
「それは秘密ってことで。」僕は人差し指を口に当てた。
すると、ウィットが僕のもとに駆け寄ってくる。
「流石じゃない!見直したわ。子どもっぽいと思っていたけど、頼りになるところもあるのね。」
「子ども?それはあなたじゃ「なんだって??」なんでもないです。はい。ほんとです。
とにかく、一件落着、なのかな?
・解説コーナー
前半で述べられている、少量なら薬、多量なら毒というのは、現在市販されているほとんどの薬に言えることです。だからこそ、薬は用法用量を守って正しくお使いくださいと言われているわけですね。まぁ、アマトキシン類は毒性の高さから、全く薬に使えませんけどね。
後半で出てくるアセトンは、マニキュアの除光液などに使われている有機化合物で、結構キツイ匂いがします。実際、嗅ぐとめまいなんかを起こす人もいるくらいです。ただ、筆者は実験でアセトンをよく使うので、嗅ぎ慣れてしまって、あまり匂いに刺激を感じなくなってしまいます。それはそれで良くないですね笑。
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