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謎の力

「オーラムくん、今のは?」

「自分でもわかりません。」


 周りを見ると、手から出た液体は地面に落ちたのだが、床が濡れているわけでもない。水ではないという予想をすることはできた。


「それに君は魔法が全く使えないんじゃなかったのか?」

「そうなんですよね。ちょっと教授に聞いてみます。」教授は魔法ができない人を集めてこの研究所を開いたらしいが、教授自身は賢者と呼ばれるほどの魔法使いだったと先輩に教えて貰ったので、魔法のことなら一番詳しいだろう。


 教授に事情を説明し、もう一度試してみることになった。あの時は確か、ジエチルエーテルが欲しいと思いながら、手を見つめて・・・。


 すると、再び手から透明の液体が湧き出てきた。


「わっ!これです。これ!」教授は懐からガラス瓶を取り出し、手から出た液体を回収していった。


「もう止めてもいいよ。」そう言われ、手を握る。流れ出していた液体は止まった。とにかく、手を握ることで湧き出てくるのを止められるということは実証された。教授がガラス瓶の液体の匂いをかぐ。


「うん、この匂いはジエチルエーテルだろうな。確認のため、解析してみるか。」


 教授が扱う魔法の一つに教授が触れたものがどのような化学式か解析できるというものがある。それで検証するのだろう。


「オーラム、これは確かにジエチルエーテルだ。他のものも手から出せるかどうか試してみてくれ。」 


 教授に言われ、試してみる。液体ではなく固体を手から出すことは出来るのだろうか?気になったので、ブドウ糖でも思い浮かべることにした。手を見つめるがいくら待っても何も起こらない。


「何も起こらんな。因みに何を思い浮かべたんだ?」

「固体を出すことができるのかを確かめるためにブドウ糖を出そうと思ってました。」

「ブドウ糖か、ジエチルエーテルは出るのにブドウ糖は出ないとなると・・」


 教授がしばらく唸るように考えている。しばらくして、

「オーラムはブドウ糖の構造は知ってるか?」

「六員環があって、」僕は近くにあった紙にブドウ糖の構造を書きだした。


「この部分の立体配置が違うな。正しくはこうだ。」僕の書いたものを訂正する。

「それに、正式名称はブドウ糖じゃなくて、β-D-グルコースだ。もしかしたら、それも関係しているかもしれん。」


 直された構造を頭に思い浮かべ、再び手を見つめる。すると、手から白色の粉末が溢れ出してきた。


「これは!?」教授は居ても立っても居られないようで、手の上の白い粉を口に入れた。もし、口に入れられないものだったらどうするんだと思っていると。


「甘い!こりゃすごい!」楽しそうで何よりです。

「次は何試してみますか?」

「金を作ることができるかどうかは試しておいた方が良いな。」


 もし金を作ることができれば、億万長者にもなれるかもしれない。しかし、しばらく試してみたが手から金が現れることは無かった。しかし、金を生み出す魔法は錬金術と呼ばれる禁忌魔法らしく、出来なくて良かったのかもしれない。


「教授そもそも、この力は何なんですか?」

「俺の知る限りでは、自分の思い描くものを手から出せる魔法はあるにはあるが、化合物を出す魔法というのは聞いたことがない。」


「魔法?これは魔法なんですか!?」

「流石に無から有を想像する力は魔法に間違いない。しかし、お前さんの魔法はすごいな。恐らく今まで魔法が使えなかったのも、その魔法があまりに強大だからかもしれないな。」


 『魔法』、今まで自分には縁が無いと思っていた存在なのに、急に身近なものとなってしまったことに戸惑っている自分がいる。


「結局、金属を生み出すことは無理なのか?」

 試してみたが、鉄や銀を出すことは叶わなかった。


「リチウムやナトリウムは手に触れると危険だから試さない方が良いだろうな。」


 リチウムやナトリウムは腐食性が高く、そのまま触れば手がただれてしまうだろう。マグネシウムは手で触れても安全なため、マグネシウムを想像してみることにした。マグネシウムは単体では六方晶系の形をしているはずだ。

 すると、手から銀色の金属が現れた。


「この軽さはマグネシウムっぽいですね。」


 その後もどのような条件で手から原子を生み出すことができるか調べた結果、次のようなことが分かった。


1.現状では周期表の第3周期までの原子しか出すことができない。(つまりArまで)

2.自分が立体配置も含め完全に構造、名称を知っているものしか出せない。

3.手からしか出すことができないが、生み出す時点では手に触れているわけではない。

4.無限に出せるわけではなく、どんどん疲弊していく。(魔力を消費しているかららしい)


「それで、どうする?」魔力が枯渇し疲れ切っている僕に教授が声をかけた。

「どうするとは、何がですか?」

「冒険者にならなくていいのか?」教授は全てを見透かしたような眼をむける。


 僕は何も言えずに逃げるように帰った。


・解説コーナー

 単体のリチウムやナトリウムを手で触れると、やけどみたいな症状になるため、すぐに水で洗い流しましょう。(そもそもLiやNaを普通の人は手に入れられないけど)

 他の化学やけどを起こすものとしては、薄めて使用する強塩基性の洗剤などがあり、手袋をしていないと危険なので、気をつけましょう。


面白い、続きが見たいと思っていただけたら、是非評価の方お願いします。

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