オークション
都内某所にある森のそのまた奥の奥の奥に知らない人はまったくらない、けれども知っている人は知っている秘密のオークション会場がある。
そのオークション会場で取り扱われる品物は、天然記念物であったり、ごく一部の人間しか知らない秘宝であったりと様々である。
しかし、今回開かれるオークションは物品ではなく人。
今回取り扱う「もの」は将来世界を動かすであろう人物、超一流スポーツ選手、大富豪の息子等の未婚の男を商品として扱ったオークション。
一般人には手の届かない男達を手に入れたいという女とごく少数の男達との口にするのもおぞましく、それでいて熾烈な争いが今始まろうとしていた!!
「皆さんこんばんは、今宵の月は満月です。満月には魔力が秘められていると云う話があります。今晩は満月の魔力で皆さんの身が滅びない事をお祈りさせていただきます。申遅れましたが私このオークションの司会をさせていただきます、ショーン・オークです」
私はいつも通りの前口上を言ってから偽名を名乗った。
このオークションは色々な種類の世界で生きている人々が参加しています。
なので取引で何らかの問題が発生したり、お客様が逆上などして後日私の命が危険にさらされるなどという事があるかもしれません。
なので偽名を使って身を守っています、もっともどのような手段を使ったとしても私を含めてオークションを主催した組織にそのような事は絶対に出来ないのですけれどね・・・。
「それでは本日最初の品者のご紹介です。現在メジャーで前人未到の記録を創り続ける男、白野 球太選手!!」
商品の名前を口にするとアシスタントが本人から型を取った人形を持ってくる。
観客がその人形を見て悲鳴にも似た歓声をあげる。
それもそのはずです、商品のサンプルは全て本物と変わらない精度で作っているのですから商品が人間であろうとそれは変わりありません。
商品の説明を始める。
「こちらの方をご存じない方はいらっしゃらないと思いますが説明させていただきます。白野 球太は高校卒業後、日本ドッグスに入団後自身の持っている才能を開花させ、投げる球は165キロ、盗塁は失敗知らずとその能力をチームで遺憾なく発揮しチームの優勝に大きく貢献しました。その後『世界で打撃力を鍛える』と言う言葉を残して突如アメリカに渡りアメリカのプロ球団マウンテンズに入団、自身の目的であった打撃力強化を見事に果し、その才能から宇宙人と呼ばれています。因みに彼の年収は現在20億ドルほど稼いでいるとの事です」
年収を聞いて更に声をあげるお客様達。
その中で一際目立っているのはどこからかこのオークションが開かれる事を知って急遽来日したトップデザイナーの長様でした、性別は男性でいらっしゃいます。
「白野さまぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!」
いつものテレビに出ている時のような感じの乙女のようにかわいらしい声とは違い完全に男の野太い声で商品の名前を呼んでいる。
お忍びで来ている事とそのテレビとは違う声のせいで周りには気づかれていないようですが、事前に参加されるお客様の事を把握している私ですらその変わりようにはいささか恐怖を覚えます。
「それでは競りを開始したいと思います。先ずは10万からのスタートです」
チリンと鈴を鳴らして競りを開始する。
「100万!!」
10倍の値段まで吊り上げたのは45番の長様、急激な値段の吊り上げで競争相手の競う意欲を一気に奪い去るつもりでしょうか。
「200万!」
倍の値段を提示してきたのは中小企業のOL36番の吉野様です。
中小企業に勤めているお方が2000万もの大金をお持ちなのかいささか疑問であります。
会社のお金手を付けたか、それとも通貨を間違えているか、はたまた白野選手の年収で払おうとしているのかどちらなのでしょうか、通貨を円と間違えているのでしたら購入してしまったらそこで人生が終わってしまいます、後者ならば彼女はオークションの規約を読んでいないという事になります、このオークションは前払いですので。
そんな事を考えている間にいつの間にか金額は1億4千万まで釣り上がっていました。
1億を超えると一般の方はグッと減り中級レベルお金持ちの方々の出番となってきます。
「2億!」
コールしたのはハリウッドで活躍する女優23番のハーマン様。
45番の長様がハンカチを噛んでいらっしゃいます、トップデザイナーもハリウッド女優には叶わないのでしょうか?
「5億ぅ!!!」
会場がどよめきました、コールしたのは45番の長様です。
5億ともなると中級レベルのお金持ちでも手を出しにくいのでしょう。
上級の方々はこの商品には目もくれていません。
更に上の値段をコールするお客様もいないようですので決定のようですね。
「5億!!45番決定」
決定の鈴を鳴らします。
「やったわぁぁぁ〜!!!」
その大変なお喜び様に提供した我々も大変嬉しく思います、ですが彼の総資産は5億でしたので今後ちゃんと生活していけるのか少々不安ですね。
白野選手と良い関係になれる事を祈っています。
「続いての商品は将来は国連事務総長確実と言われるトリグ・タント・クエヤルです。」
歓声は聞こえますが一般のお客様にはいささか覚えが悪いようですね。
「彼は現在ロシア連邦の連邦院の議長をしており、優れた交渉能力は歴代議長で並び立つ者はいないとされています、また彼は人々の心を放さない優れた話術を持っています。」
反応が薄いですね、これはかなり低い値からスタートした方がよろしいようですね。
「2000からのスタートです」
鈴を鳴らします。
「2100!」
「2300」
今一つ値段があがりません、これは早々に買い手を決めた方が良さそうですね。
「2600」
2600のコールを聞いて鈴を鳴らそうとした時「3000」と36番の吉野様叫びました。
これは中々熱い展開が予想されます。
吉野様のコールによって会場の空気が変わりました。
「4000」
「4500!」
値段がどんどんあがっていきます。
吉野様も対抗しますが競争相手が高倉チェーンの社長令嬢である24番の高倉様とあっては勝負が見えています。
「190万」
コールを聞いた吉野様の顔色が見る見る内に変わっていき中々面白いです。
「…200万!!!」
そうコールする吉野様は苦虫を潰したような顔していました、どうやら彼女は200万が限界のようですね。
高倉様が勝利を確信して「201万!」とコール。
これで決まるかと思いきや「210万」と言う声が出ました。
声の主は有名車会社の若き女社長13番のポール様です。
どうやら今度は高倉様とポール様との戦いになるようですね。
値段はどんどんあがっていき9000万まであがりました。
「9050万」高倉様の顔に焦りの色が見えてきました。
それとは反対に不敵な笑みを浮かべるポール様。
「9100万」
高倉様のあの疲れきった顔を見るとどうやら勝者はポール様のようですね。
ポール様に挑戦しようという方もいないようなので鈴をならし宣言します。
「9100万、決定!13番」
オークションは進んでいよいよ最後の競りになりました。
今回お集まりになったお客様は結婚相手を探していると思っていたのですがどうやら人材探しに来ている方が御2人ほどいらっしゃいました。
その御2人というのは13番のポール様と24番の高倉様です。
今回の優れた商品はどの会社に入っても十二分に力を発揮してくださいそうですから仕方ありませんね。
36番の吉野様がどうなったかというと全ての競りに参加するのですが全てポール様と高倉様によって競り負けてしまいました。
今回ご用意した商品は最初の品以外をポール様と高倉様が4品づつ競り落としています。
吉野様は御二方を目の敵にしているようです、これはオークション終了後に一波乱ありそうですね。
「10品目、本日最後の商品です!」
本日最後という言葉を聞いてお客様の表情から笑みは消え真剣な顔になりました。
「オーストラリアに住むIT長者の息子、シップマンです!!」
名前を聞いたお客様達は皆顔をしかめてしまいました、それもそのはずです、シップマンについては悪い話しかないのですから。
一見商品にならないように思われますがそこは私の腕の見せ所です。
「こちらの商品は世間では浮気性で暴力的だという話ばかりです。しかも世間体ばかりを気にする家柄といささか人間性に問題があるように思われますが、結婚したならば離婚などという世間に悪い噂が流されないために商品の家が全力であなたに尽くすでしょう。競り落とした方は浮気をするような者を許す心の広いご婦人と落札者の評判がグンッとあがる事間違いありません」
説明を聞いた悲劇のヒロインになりたいお客様達の心に火がついたようです。
「それでは10万からのスタートです!!」
競り開始の鈴を鳴らします。
「12万」
「15万」
値段がどんどんあがっていきます。
「200まんっ!!!!!」
コールしたのは今回見ているこちらが泣けてくるお客様の吉野様。
「210万!!」
吉野様の限界である200万の上をあっさりと言われてしまいました、吉野様はもう現実を見ていただくしか無いような気がします。
「300万よっ!!」
一気に値段を吊り上げるコール。
会場に居た皆様の視線は声の主に集中しました、その声の主は本日一番可哀想なお客様の吉野様だったのですから。
今までの競りで彼女の限度額が200万というのはこの会場に居る皆様にとってもはや周知の事実です、それなのに一気に100万上乗せの300万ですから視線が集まるのも無理もありませんが私の目には彼女は本当に愚かな事してしまったとしか映りません。
もう一度言いますがこのオークションは前払いです。
前払いで支払う事が出来ない、または支払う能力が無いと解った時点で厳しい罰を与えなければなりません。
その罰を受けた方はもう人として人生を終える事が出来ないのです。
吉野様は明らかに嘘のコールをしました、他のお客様の視線が自身に集まった事を自覚して挙動不審になっている事が何よりの証拠です。
「320万!」
別の方がコールした事により吉野様は九死に一生を得ました、良かったですね。
値段がどんどんあがり5000万台になりました。
商品の価値から考えるともうそろそろストップでしょうね。
「5600万!!」
今回はポール様と高倉様は興味を示していないようなのでこれ以上値段があがる事は無いでしょう。
「決定!!5600万!3番」
全ての商品に買い手が付いて私も肩の荷が下りました。
けれども本当に面白いのは閉館後でしょうね。
「皆様、本日は我がオークションに御参加くださいまして誠にありがとうございます。商品は後日御購入金額と交換でお渡しいたします。皆様御気をつけて御帰りくださいませ」
閉館後、本日のメインイベントのために集まった皆様と警護室で外にある監視カメラの映像を見ます。
「早速始まりましたよ」
監視カメラには2人の女性に何かを言っている女性の姿が映っています。
「これは…13番と24番に36番が文句を言っているようですね」
お客様が居る前ではプライバシーに関することなのであえて番号で呼びます。
ポール様が吉野様を突き飛ばして高倉様が吉野様を踏んでいる様子が画面に映し出されます。
その様子を見てお客様達は見てはいけないものを見てしまったかのように顔を蒼くしています、皆様まだまだお若いですからね。
踏んづけられていた吉野様が高倉様のドレスを掴み破き、敗れた部分を高倉様の顔に投げつけました。
それを見たポール様はレディらしからぬ笑い方をしています。
「御二方が13番を突き飛ばしましたね」
ポール様の着ていた超高級なドレスが土で汚れてしまいました、ポール様はそれに激怒し2人に罵声を浴びせているようです。
高倉様は語学が堪能ですのでポール様の言葉に反論しているようですが、吉野様は1人手持ち無沙汰になっていますね。
「今度は36番以外の2人が叩きあっていますね。13番が24番の顔を引っかきましたね」
商売に置いて大事な御顔に傷をつけられた高倉様は拳でポール様の顔を殴りに行きました。
「36番が止めに入りましたね」
お客様の1人が蒼いを通り越して紫に近い顔で私に「本当に大丈夫なのか?」と尋ねてきました。
「ご安心ください、ここで死者が出るような事はさせませんので」
「止めに入った36番も殴られましたね」
御三方の御顔から血が出てきていてそれはそれは恐ろしい形相になってきました。
ですがもうしばらく放置してお客様に確認しなければなりません。
「皆様の中で彼女達とお会いしたいと思う方はいらっしゃいますか?」
お客様の顔を見ると皆さん今にも泣きそうな顔をしていらっしゃいました。
オークションの商品として参加した彼らは会う事を拒否しました。