歌劇団とやらをするそうです。
殿下と早口トリオの初登校の日。
その日は小雨だったからだろうか。
殿下と早口トリオはインバネスコートを着ていた。
インバネスコートというのはシャーロックホームズとかがよく着ているケープ付きの外套だ。
現代でも着物と合わせて着る人はいるけど、滅多にお目にかかれない。
明治大正ヲタの私にとって、テンションがあがるイベントだ。
やっぱいいね、大正浪漫ファッション!!!
特別クラスは白學ランに白セーラーワンピースで和装ではないけど、これはこれで気に入ってたりする。
「ハナ、お顔が緩んでいてよ?」
橙和ちゃんがツンっとした表情で声をかけてくる。
「あら、橙和子さま。仕方がないことですわ。殿下たちは見目麗しく、大変優秀であられますもの。見蕩れてしまうのも当然ですわ。」
緑都江さんがフォローしてくれるけど、残念ながらそうじゃない。
見とれていたのはファッションであって、本人たちではない!!!
「いえ、私が見ていたのは外套ですわ。こちらでは初めて見ましたから。」
「ほぅ。ハナはグリッシュ帝国のファッションが好きなのかぇ?」
紫允さまがたおやかな笑みを浮かべる。
「私、詳しく知らないのですが、あの外套はグリッシュ帝国のファッションなのですか?」
グリッシュ・・・イングリッシュ?イギリスがモデルの国かなぁ?
「そうじゃ。あれはインバネスコートというのじゃ。赤臣の奴がグリッシュ帝国の兵学校に留学していた際に見つけたそうじゃ。あちらの国では洋装に合わせて着るが、我が国の着物との愛称が非常に良いのでな。我が国でも生産を始めているところじゃ。あの外套の良さが分かるとは、ハナは良いセンスをしているのじゃな。」
「もったいないお言葉でございます。」
「我がルジャポン皇国は神々に守られていることに加えて島国だったからのぅ。これまでは諸外国からの交流を閉ざし、侵略を免れてきたが・・・いまは遠く離れたグリッシュ帝国やメリーク連合国など我が皇国とは比べ物にならない戦力を持った国から狙われておる。あれらの国に侵略、合併されぬようにするには我が皇国の力を文化で示す必要があるからのぅ。彼らも新しい文化を取り入れるのに必死なのじゃ。」
「そ、そうなのですか?」
「えぇ。紫允さまの言われるとおりです。かの国は侵略したら属国扱いにして搾取しているようですわ。ルジャポン皇国がかの国と同等・・・いえ、それ以上の価値がある国だと示す必要があるのです。武力も必要ですが、我が皇国は神々の御霊に守られ続け、平和な時代が長かったことから戦力は諸外国と比べると赤子のようなものですわ。せめて文化で我が皇国の価値を示そうとしているところなのです。今回の学院と女学院の男女共学クラスの実現もその一貫ですわ。」
「なるほど。」
ふむふむ。そういう背景で乙女ゲーとして男女共学でのドキドキ学園ライフの舞台が整えられたわけだ。
ただの思いつきじゃなくて、ちゃんと設定があるわけね。
百合モブしたかったとかの文句は心の中に秘めておかなくては・・・。
「ハナ、あなた理解が早いのね。・・・そうだわ、緑都江!例の計画にハナもいれたらどうかしら?」
・・・えっ?!
乙女ゲーの背景を受け入れてただけなんですけど?!
橙和ちゃん、なんか勘違いしてない?
「あぁ、それはいいかもしれませんね。平民の女子がスターとなることがあれば、皇国全体が盛り上がるでしょう。文化は民がつくるものですから。」
さわやかな男声が聞こえてきて、振り返る。
で、でたー!!殿下&早口トリオ!!!!
「ご機嫌麗しゅう、殿下。」
紫允さま、橙和ちゃん、緑都江さんが殿下に挨拶をする。
「ご、ご機嫌麗しゅう殿下。」
私も真似して90度お辞儀。
このまま去っていきたいけど、まだ美少女たちとの会話の途中ー!
しかもなんか壮大な話になりそうな雰囲気がある!!
「殿下、例の計画というのは・・・」
「あぁ、青爾。そうだ、歌劇団の計画だ。」
「そうですね・・・。たしかに彼女は美しいですし、平民でありながらトップの成績で入学をしている才媛でもあります。話題性もありますし、良いかもしれませんね。」
「おお、ハナなら妾も大歓迎じゃ・・・おい、ハナ?いつまで頭を垂れているのじゃ。おもてをあげよ。」
「二条殿、私も気にしませんよ?学友ですから、遠慮は無用です。頭をあげてください。」
ひ、ひぇえええ!
遠慮じゃなくて、本気で頭あげたくないんですけど!!
しかし、殿下と宮さま二人に言われたら頭をあげるしかないよね・・・。
おそるおそる頭をあげる。
銀髪に紅眼の殿下と紫髪に紅眼の紫允さまさま。
こ、神々しい美しさが逆に目の毒!!!
殿下ってなんていうかジェンダーフリーな美しさがあるよね・・・。
女装しても似合いそう・・・。
うわ、銀髪紅眼の美少女!なにそれ!みたい!!!
「・・・では、例の歌劇団の計画にハナさまにもご協力頂くということで。詳しいことは私からご説明いたします。」
はっ!
妄想している間になんか話の流れが引き返せない方向で進んでる・・・?!
「緑都江!私が説明するわ!なんていったって私は主演の娘役なのですから!」
「橙和子さま、話をきいていました?流れ的に主演はハナさまに変更ですわ。」
「そ、そんな!!」
あらら?もしかしてこれは私がなんか歌劇団の主演を橙和子ちゃんから奪うフラグ?
娘役ってことは現代にも残るあの例の女性のみの歌劇団のことだよね?
創立100年って聞いたことあるし、某歌劇団の設立がこの乙女ゲーのイベントのひとつなのね?!
でも、これは乙女ゲーだし、相手の男役に攻略対象が選ばれて好感度高める系のイベントなんでしょ?知ってる。
そうしてツンデレ悪役令嬢橙和子ちゃんが乙女ゲーヒロインである一条花墨に嫉妬してイジめちゃうみたいな乙女ゲー的展開なストーリーなのね?!
・・・ん?
ってか橙和ちゃんが主演の娘役なの?!
な、なら…!!
「お、男役がいいです!!橙和ちゃんが主演にピッタリですから!!」
半泣きの瞳をパァっと輝かせて私をみる橙和ちゃん。
天使!かわいい!!
「あれれ~?男役も女がするなんて誰か説明したのかな~?どうして知ってるの?」
可愛いはずなのになぜか怖くなるような笑顔に甘えるような口調で話す黄髪。
いや、私が主演の娘役の相手になりたいからですけど??
ついえでにいえば私が男役になれば、あなたたちがお呼びでなくなるから神回避しただけですけど???
・・・なんて言えるはずもないので、困ったように笑ってみる。秘技愛想笑い!
「黄榮、細かいことを気にするな。どちらにしろ、近いうちに皆が知ることになるのだろ?」
「赤臣の言うとおりじゃ。むしろ察しがよくて助かるというものじゃ。ハナの言うとおり、女子だけで歌劇団をやろうと思っているのじゃ。歌舞伎は男子だけじゃからの。グリッシュ帝国やメリーク連合国では男女が歌と踊りを交えるミュージカルというものがあるそうじゃ。かれらの国に迎合されつつ、我が皇国独自のものを生み出そうと思うての。妾が考えたのじゃ!男役をしたがる女子がいるか危惧しておったのじゃが、ハナがしたいというのであれば任せてもよいぞ。」
おお!やっぱり!!みんな女子の例の歌劇団ね!!!
私は例の歌劇団はあまり詳しくないけど、アイドルには詳しいから少しは役にたてるかもしれない!
私の好きなアイドルは演劇女子部もやってたからね!
もちろん、男性役も女の子のアイドルがしてたから!!!
むふふ!
私が男役を勝ち取ったということは、女子の羨望は私のものといって過言ではないのでは?!
妹が大量にゲットできちゃうやつでは?!
たぶん、乙女ゲーでは歌劇団のヒロインを任されて、攻略対象と仲を深めていくんだろう。
でも、私は無事に男役を勝ち取った!これは乙女ゲーのフラグを完全に折ったのでは?!!!
やったことないからしらんけど。
「ハナさま、今日の放課後お時間よろしいですか?私から細かなことを説明します。」
「ありがとうございます、緑都江さま。お願いします。」
「・・・ハナ、あなたが男役を選んでくれてよかったわ。ありがとう。」
そっと近寄ってきた橙和ちゃんが私のセーラーワンピースの裾をそっと握って真っ赤になりながら小声でお礼をいう。
ああああ!!天使!可愛い!!!!
「・・・私もヒロイン役が橙和ちゃんなら安心です。」
私がなんとか笑顔で返すと、橙和ちゃんが真っ赤になって俯く。
「あ、当たり前ですわ!感謝なさい!!」
強気な声が聞こえるけど、うつむいている橙和ちゃんの耳が真っ赤。
あー!この世界に生まれてよかった!!!
無事に攻略対象とのフラグも折れたし、橙和ちゃんルートも開かれたことだし、これからの人生を楽しむぞ!!
攻略対象の名前を覚える気がない乙女ゲーのヒロイン。
それがハナちゃんクオリティです笑