悪役令嬢(本物)と遭遇しました!!!
「殿下たち、来ないのかな?」
ぽろっと呟くわたし。
そろそろ入学式が始まる時間だというのに、攻略対象組は誰も来てない。
初日から遅刻か?遅刻なのか?なんなら来なくていいんだが???
「あ~ら?ハナってば、昨日の話を聞いてなかったのかしら?」
うん、自分が百合ゲーのモブじゃなくて、乙女ゲーのヒロインだったことに対するショックであんまり話きいてなかった。
ゲームも広告でみた程度で設定知らないし。
まぁ、そんな話はできないのでこくりと頷き返す。
得意げにふふんっとしながら橙和ちゃんが説明してくれる。
どうやら攻略対象組が登校してくるのは週1日らしい。
剣など男子のみに許される教えについてはもとの所属であるルジャポン皇国學院で学ぶため、こちらの学校・・・ルジャポン皇国女學院には月数回の登校になるとのことだった。
ラッキー!!
っていうか自分の学校名、いま知った。
ぶっちゃけ、いままで皇国でただひとつの女學院という認識しかなかったから。
私の好きな神百合ゲー(ただし配信停止済み)「女學院物語」では具体的な学校名は出てなかったから、あんまり意識してなかった。
なにはともあれ!
とりあえず、女子のみの空間を週5で味わえるのはよかった!!!
(この世界は昔の設定なので休みは週1だ。)
このクラスはルジャポン皇国學院と交流するクラスという意味合いだったようだ。
ちなみに、ルジャポン皇国學院の文化祭や体育祭みたいなイベントに私たちが行くという交流もあるようだ。
ひ、ひぇ~!!!
男だらけの空間・・・!
乙女ゲーだったら逆ハーみたいな感じで楽しめるのかもしれないけど、私には苦行すぎるー!
女學院が楽園だし、一歩も出たくない!!!
まぁ、この時代は男女が学ぶ内容は全然違うはずだしね。
アラサーの私でさえ、小学校のときは家庭科やらなんやら男女別の授業があったくらいだし。
学ぶ内容は違って当然の時代だ。
「そうはいっても入学式くらいは来そうなもんなのに。」
またまたぼそりと呟く。
いや、まぁ来ない方がいいけども。
「今日は儀式の日なのだから入学式を優先させるはずないでしょう?まさかご存知ないの?仕方ないから教えてさしあげてもよろしくってよ。」
またまた声に出た言葉を拾ってくれる橙和ちゃん。。
悪役令嬢(仮)のはずなのに、面倒見がいいな橙和ちゃん。
斜め上に顔を向けたまま、ちらちらと私をみるあたりがなんかこう憎めない系ツンデレだな橙和ちゃん。
教えてほしいって言って欲しいんだね、橙和ちゃん。
かわいいよ、橙和ちゃん。
聞こうとしたそのとき。穏やかなのに厳かな声が響く。
「剣神の降霊式じゃ。」
「み、宮さま!宮さまにおかせられましては・・・」
「良い。妾もそちも學院内では学友じゃ。」
「畏くもそのような言動は・・・。」
橙和ちゃん・・・ポンコツンデ令嬢と思ってたけど立派なご令嬢なのね・・・。
っていうか宮さま?!?!皇族?!
ひ、ひぇえええ!
とりあえず秘技✩90度お辞儀をしとこう!
ふつうさ、平民と皇族ってクラス別じゃない?!
そんな方と私のようなド平民が同じクラスでいいのか?!
成績トップだとしてもそこは分けてもいいのでは?!
っていうか分けてください!
いや、まぁすでに皇太子殿下と同じクラスというか所属だけどさ・・・!
最高敬語とか話せないよ?!ただの敬語も危ういし!前世も含めて!!
「ふふ、ハナさまったら。紫允さまのお言葉に甘えたらよろしいのに。」
「おぉ。久しぶりじゃな、緑都江。伯母上は息災か?」
「お久しぶりでございます。母上も私もお陰様でこのとおり。」
緑都江さん?!え、伯母上とか母上とかってもしかして緑都江さんは皇族の従姉妹?!
っていうか皇族の血をひいてるの?
ひ、ひえええ!
橙和子ちゃんの従者っぽいから平民とはいかないまでも、そんな高貴な存在とは思わなかったよー!!
昨日の態度、大丈夫だったかな?!?!
「紫允さま、紹介させてくださいませ。こちらは二条 墨花さまです。身分は平民ではございますが、類まれなる才媛でございます。ハナさま、こちらに有らせられるは安居宮 紫允内親王でございます。紫允さまは皇太子殿下の婚約者のうちのお一人でございます。」
「ほう、そちが例の・・・。顔をあげよ。妾のことは紫允で良いぞ。學院内では妾らは学友じゃからの。」
れ、例のってなにー?!
めっちゃ気になるー!!成績?平民のくせに成績トップってことか?!
っていうか殿下の婚約者?!
婚約者のうちの一人ってなにそれどういうことー?!
候補とはちがうの?!
情報が過多・・・。
うぅ・・・乙女だけのクラスで青春したかった・・・。
っていうか顔をあげよって言ったよね。
どうしたものか・・・。
でも、命令に背くのも恐れ多い・・・よね?
そう思った私が盗み見るように顔をあげるとそこには艶やかな紫髪からのぞく紅い眼を細め、たおやかに微笑む紫允さま。
う、美しすぎる・・・!
なぜか後光がさしてる!!!!
艶やかな紫髪は床につきそうだ。
かぐや姫みたいな雰囲気を持つ紫允さま。
っていうか実際に高貴すぎるお方だ。
「緑都江、橙和子。そちらが仰々しくするものだから墨花が萎縮しているではないか。そちらも気をらくにせい。妾は学友なるものができることを楽しみにしておったのじゃぞ。」
「ふふ、では紫允さまのお言葉に甘えさせていただきます。橙和子さまもよろしいですね。」
「宮さま・・・いいえ、紫允さまがお望みとあらば。」
「良い。して、そちらはなぜ墨花をハナと呼んでおるのじゃ?」
「お友達、だからですわ。仲の良い子はハナと呼ぶときいて、初対面にも関わらず橙和子さまがそのようにお呼びになられたのです。」
「ちょ、ちょっと緑都江?!なんだかトゲがあるように感じるのは気のせいかしら?!・・・って私ったら紫允さまの前ではしたない姿を!」
「ほほほ。良いのじゃ。妾らはお友達、じゃ。妾もハナと呼ばせてもらってよいか?」
「も、もちろんでごじゃいます!!」
か、噛んだー!!!!
「ふむ。妾のことを名で呼ぶことを許すぞ、ハナ。橙和子、それに緑都江も改めてよろしく頼む。」
にこりと微笑む紫允さま。
・・・って、あれ?
もしかして悪役令嬢っててっきりポンコツンデ令嬢の橙和ちゃんだと思ってたけど・・・。
皇太子殿下の婚約者ってことは、悪役令嬢(本物)は紫允さま?!?!
っていうか内親王ってもはや令嬢じゃないよね?!
やば、勝目ないやつやん・・・。
いや、まぁ私はお姉さまルート一直線だし?
乙女ゲー的な勝負しないから勝ちも負けもないやつやけども!
ん?っていうか・・・
「剣神の降霊式ってなに・・・?」
そんなのがあるなんて全く知らなかった。
いや、今世だけじゃなくて前世のゲームも含めて。
百合ゲーと同じ世界観の乙女ゲーってことは知ってたけど、百合ゲーにはファンタジー要素なんて特に出てこなかった。
ルジャポン皇国って、ただの大正ロマンじゃなくてファンタジー要素もあったんだ・・・。
大発見だ。二次創作が捗る。
いや、まぁいまの私にとっては現実だけども。
まぁ、実際の日本も神がつくった国だといわれているから十分ファンタジーっちゃファンタジーかもしれないけど。
明治大正の世界をゲーム化したこの世界にファンタジー感があるのは二次創作として盛り上がるかも!
「ハナ!剣神の降霊式というのは、己の剣に神の分霊を賜ることですわ!」
嬉嬉として教えてくれる橙和ちゃん。
ルジャポン皇国では高貴な男性は帯刀が必須だ。
武官はもちろん、文官もだ。
ルジャポン皇国學院の入学式は剣神の降霊式がメインとのことだ。
ルジャポン皇国において刀は神聖しされているようだ。
刀は神そのものであり、降霊式に神の御霊を分け与えられることで皇国男子として一人前として扱われるようだ。
降霊式の際に刀身に己が血を捧げることで、刀神の梵字が彫刻として刻まれるとのことだ。
なお、どの神の御霊を分け与えられたかは本人にしかわからず、他人がみてもただの模様のようだ。
生涯の伴侶にだけ、どの刀神の御霊が分け与えられるたかを伝えることができるそうだ。
ただし、その際は伴侶も刀身に血を捧げ、刀神つまり持ち主である夫との永遠を誓うことになるのだという。
ロマンチックだが、持ち主である夫が命を落としたときに刀神も天に還る。そのときに刀神に永遠を誓った妻も天に召されるという。
ひ、ひえ~~~!
ちょっとした心中では・・・?
でも、この要素は乙女ゲーで盛り上がりそう・・・。
乙女ゲーの中だったら実際には死なないしね。
ってかたぶんそう。
これは乙女ゲーのための要素なんだろうな。
百合をめざす私には関係ない話なはず。
「ハナさま、その様子だと殿下たちの名前もご存知ないのでは?」
緑都江さんが話しかけてくれる。
こくこくと頷く。
「あら、じゃぁ私が教えてさしあげるわ!感謝なさい!」
得意げな表情で橙和子ちゃんが殿下たちの名前を教えてくれた。
ありがたや~~~!!
呼ぶことはないだろうけど、情報として知っておかないとだもんね!
会う前に把握できてよかった。
まず殿下の名前は狭野宮白慶さま。
基本的に名前は親しいものだけに呼ばれるものなので、ここでは狭野宮さま呼びが正しいようだ。
クール腹黒系な青髪は水無瀬 青爾さま。
公家の御子息で、お父上は海軍総帥だ。ご自身も海軍士官を目指しているそうだ。
ヤンチャ脳筋系な赤髪は久我 赤臣さま。
士族の御子息で、お父上は近衛師団長。ご自身も実力があり、すでに軍学校を卒業し、近衛兵として殿下の側近としてついているそうだ。ちなみに近衛兵の隊長は殿下とのことで護衛対象であると同時に直属の上司にもそうだ。
小悪魔ヤンデレ系な黄髪は持明院 黄榮さま。
華族の御子息でお父上は宰相。ご自身も政務に携わりたいとのことでお父上の秘書として研鑽しているとのことだった。
・・・いや、まぁ性格はしらんけども。
私の勝手なイメージだけども。
まぁ、そこはおいおい知って・・・いかなくてもいいか。
私は先日の90度お辞儀をしながら後進するという方法で戦略的撤退をし続ける予定だから。
そんなとことよりも!
私は新たな発見をした。
なんとモブに属することになるだろうその他の女子生徒たちはみんな黒髪黒目だと思っていたが微妙に違った。
髪に陽が透けると青系やピンク系など様々な印象を受けるのだ。
主要キャラのような派手な色ではないが、もともと日本人な私としてはこの方が親しみやすいし、慎ましい美しさを感じる。
そして瞳。パっと見ると黒っぽくみえるが、よく見ると太陽の光があたるとまるで宝石のような様々な色合いをしている。
とても綺麗だ。
そして正真正銘の黒髪黒目はどうやら私だけのようだという事実。
ヒロインが一番モブっぽいんですが・・・?
たしかに顔立ちだけなら主要キャラにも勝てずとも劣らずくらいには可愛いけど。
いや~、どうなることかと思ったけどこの學院生活、結構楽しめそうでよかった!
不敬にならない程度に攻略対象との接触を避け、フラグを折続ければ楽しい生活が送れそうだ!
百合ゲーのモブではなかったけど、乙女ゲーのヒロインではなくただの私として生きていくことを心に誓うのだった。