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「えっと、あなたの依頼って村に出た魔物退治だよね?」
赤髪の少女は笑顔で俺の方を見た。
でもそれは作り笑いに見える。
さっきの件の暗い雰囲気を何とかしようとしているのか。
「はい、そうです。俺の故郷が魔物に襲われました。ルージュさんという方と一緒にいて『お前は街から助けを呼んでい!』そう言われたんです」
「なるほど。ならその方の期待に応えれるように頑張らないと」
そう言ってキリッっとした顔になった。
「それから、あなたのお名前を聞いても?」
確かに俺らは自己紹介がまだだった。
「俺はソラ。さっきも言ったけどリールの村の住人」
「私はウミ。冒険者ギルドの一員で……うん、そんな感じ」
赤髪の少女、名前はウミというらしい。
ウミは何かを誤魔化すようにはにかんだ。
『冒険者ギルドの一員で……』の続きが気になるがむやみに詮索するのは野暮だろう。
「じゃあ、君の村、リールの村だっけ? そこに行こうか」
そう言ってウミは歩いていく。
俺はウミについて行って街の外に出た。
「さて、こっからはソラに付いていくから案内してね」
村の方向に向かって歩いて行く。
草原から森に向かって進んでいくと背筋がゾゾっとする。
「ウミ、魔物がいる。気を付けて」
この感じ、殺気だ。
森にいた魔物より小さな殺気でも油断はできない。
もし森であの強力な殺気を感じていなければ多分腰を抜かしていただろう。
現に隣に居るウミは尻もちをついている。
確かウミは魔物を見たことが無いんだっけ。
まあそれはいいとして辺りを見回しても魔物の姿はは見えない。
もしかして透明になる魔物もいるのか?
そんなことを考えながら弓を構えた。
―ガサッ
音がした方を見る。
そこには蜘蛛の足をもって、胴体が葉っぱの魔物がウミにとびかかっていた。
「くそっ!」
俺はとっさに弓でその葉っぱの魔物を殴った。
「キュイ!」
魔物はそんな声を出して地面に落ちた。
そのまま近寄って矢を持ちとどめを刺した。
「キュアァ……」
殺気が静かに消えていった。
どうやら魔物は死んだようだ。
俺はウミの様子を見る。
「な、なるほどね…… あれが魔物」
ウミはお尻をパタパタとはたいて立ち上がった。
「大丈夫?」
そう言って声をかけるが、正直ウミと一緒に村に向かうのは不安だ。
今の魔物は殺気の小ささから弱い魔物だろう。
森の魔物はもっと殺気が強かった。
ウミを連れて森に入れるのか、そんな心配をする。
でも俺の不安もお構いなしに彼女は笑顔でいた。
「助けてくれてありがとね。初めて魔物を見たから驚いたけどもう大丈夫。次からはきちんと戦力になるから」
俺はジト目でウミを見る。
「な、なによ。信用していなさそうね」
「だって森にいる魔物は今のよりはるかに強いんだ。今のは背筋がゾクッとする殺気ですんだけど、森は今の数倍恐ろしい殺気がする」
脅すつもりはないけどウミの為に伝えた方がいいと思って話した。
「なるほどね。でも、まあ、見ていて。邪魔だと思ったら私を見捨てていいからさ」
俺はウミをジーっと見つめた。
彼女の腰には細い剣をさしてるから一応戦えるのか?
そんなことを考える。
「そ、そんな見つめてどうしたの? ……恥ずかしいんだけど」
「ああ、ごめん」
そんなウミの声を聴いて目を背ける。
チラッとウミを見ると耳が微かに赤くなっていた。
……そんなに恥ずかしかったのか。反省だな。
俺は難しい、気まずい雰囲気の中リールの村に向かって歩いた。
「へー、こんな所に村なんてあったんだ」
俺らは森を進んで村の近くに来た。
「そう…… ここがリールの村」
もう燃え尽きてしまったのだろうか。
煙は立っていない。
そして、殺気が感じない。
「ど、どういうことだ?」
「どうしたのソラ?」
ウミが俺の顔を見てきた。
「いや、殺気が感じないんだ。という事は魔物がいないということ…… それに物凄く静かなんだ」
俺の言葉を聞いたウミはう~んっと考える。
「考えてもしょうがないから村に入って見ましょ」
確かにウミの言う通りだ。
俺たちは村に入っていくことにした。
「うわ…… なんてひどい」
ポツリとウミが感想を漏らす。
そこには燃え尽きて真っ黒なった村があった。
数時間前まで人が住んでいたとは思えないありさまだ。
「だ、誰か! 誰かいませんか!?」
俺はウミを置いて村人がいないか全力で探し回った。
燃えて真っ黒なすすになった村を走る。
「ま、待って!」
ウミが俺の後を付いてきたようだ。
でも今はウミに構っている暇はない。
一人でも早く村人を助けなければ。
その思いでひたすら動く。
しばらく村を回った。
「ね、ねぇ。ソラ気になったんだけどさ」
「……なに?」
必死に探したのに誰一人も見つけられなくて不機嫌になった俺は、少し強い返しをしてしまった。
「村人一人もいなかったよね?」
そんなのわかっている。
「死体も、血痕も何もなかった…… という事は村人皆どこかに避難したんじゃないかな?」
俺はウミのその一言にハッとなる。
確かにウミの言う通りだ。
魔物に襲われたなら血の跡があるはず。
「ありがとうウミ。確かにその通りかもしれない」
なら俺は今から何をしようか。
住む場所がなくなった。
そんな俺の顔を見たウミは悲しそうな表情をした。
「私たちが住む、ドーテリの街に住んだらいい。大丈夫、良い所だから!」
ウミがそう言って励ましてくれる。
「一旦街に戻ろう」
ウミがそう言って俺の手を引いてくれる。
その時ウミの背後から急に強い殺気を感じた。
「ウミ!!」
俺はその手を思いっきり引いてウミを抱きしめた。
そして横に転がる。
「ちょ、ちょっと!? ソラ!? 急に何よ!?」
ウミがいた場所を見ると地面が切り裂かれていた。
それには見覚えがある。
「グオォオ……」
俺の目の前に現れたのはルージュさんと一緒にいるときに襲われた人狼だった。