静葉の心の闇
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ヒイラギが退室すると、静葉はぽつぽつとイリスの質問に答え始めた。
「私が闇を抱えてしまった理由……。それは大きな未練を残して、病で死んてしまったからに他ならない。」
「その未練とは……いったい?」
「柊だよ。あいつを現世に残して死んでしまったこと……それこそが、私の未練だ。」
静葉の言葉を、イリスとカリンは静かに聞いていた。
「私は、私より強い男に柊を育て上げたかった……。そして、私より腕を上げたその暁には、この体を差し出そうと思っていたのだ!!」
「「へ?」」
大量の涙を流しながら、とんでもないことを語っている静葉に、思わずイリスとカリンの二人は素っ頓狂な声を上げる。
「柊がまだ幼き頃、私にこんな事を言ったんだ。『師匠よりも強くなって、師匠をお嫁さんにする!!』とな。」
「は、はぁ……。」
「私自身、自分よりも弱いものが伴侶となることは望んではいなかった。だが、まだ幼い頃の柊に特別な感情を抱いていた自分がいた。だからこそ、柊が私を超える日を心待ちにしていたのだ!!」
そう熱く語ると、次に静葉は少し悲しそうな表情になって、人生の歯車が狂った出来事を語り始める。
「だが、残酷なことに望む夢というのは、実現しないもの……。私の夢も忌々しい病に阻まれて実現はしなかった。悲しいことに、私が病に気づいた時には既に手遅れ。残る僅かな余生を大人しく暮らすことしかできなかった。」
「そう……だったんですね。」
「あぁ、そして恐らくは死ぬ間際この世界を恨み、自分の運命を恨んだ。その恨みは死んで尚収まらず、魂のみの存在となっても恨みは留まる事を知らずに、大きくなっていた。そうしたら、突然死の女神に拾われたんだ。」
静葉が語り終えると、イリスは一つ大きく頷いた。
「ありがとうございました。辛いことをお聞きしてすみません。」
「いや、構わない。それもこれも全て過去のことだからな。今、私はまた柊に会うことができて、とても喜ばしい気持ちでいっぱいだ。」
屈託のない笑顔を浮かべた静葉へ、イリスはある誓いの言葉を口にした。
「私が、あなたを必ず解放してみせます。ですから、もう少しだけ……時間をください。」
「ふふ、期待して待つよ。」
イリスの言葉に静葉は嬉しそうに笑うと、彼女のお腹から空腹を知らせる悲鳴が鳴った。
「おっと、腹が悲鳴を上げているな。長く語りすぎたようだ。」
「それじゃあ、ヒイラギさんに作ってもらいましょうか。」
「あぁ、とびっきり美味いものを頼もう。」
そして、ヒイラギには聞かせられないようなことをイリスに打ち明けた後で、静葉は腹ごしらえに美味しい料理をヒイラギに注文するのだった。
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