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Birthday crawler(バースデイ・クロウラー)  作者: sai-b(サイバー)
2/2

08:00 午前

私の名前は安倍尊(あべのみこと)。人前で名乗るときは安倍暦(あべのこよみ)と名乗っている。今日で齢13、数えで14になった。実家は今時珍しい陰陽師(おんみょうじ)の家系で、分家にあたる。序列も末席に近い家であるが、何故か本家との繋がりは強い。

そんな家系故に、通う学校も通常とは異なる。小中高一貫の山奥にある私塾のような所だ。国に認可されているので、体裁(ていさい)上も問題はない。

土御門家(つちみかどけ)(本家)と賀茂家(かもけ)が運営するそこは通称、繚乱(りょうらん)と呼ばれている。陰陽寮(おんみょうりょう)の卵を略して寮卵(りょうらん)。陰陽師の卵が数多入り乱れている様の意味をかけ、字を変えて繚乱にしたらしい。

そんな繚乱の特徴と言えば、通常の学科以外に陰陽師になるための授業があることだ。暦学(れきがく)天文学(てんもんがく)漏刻(ろこく)陰陽道(おんみょうどう)、この四科目である。通常の必須科目のように、堂々と時間割りに鎮座している。

その中でも今日は、陰陽道の授業が午前を占めている。担当の教師は土御門家の後継者である清晴(きよはる)様だ。粗相のないように真剣に取り組まねば、末端に近いとはいえ、分家としての面目がたたないだろう。


「おはよう、(こよみ)。」


私に声をかけてきたのは賀茂実(かもみのり)。賀茂本家の第一子である。本当の名前は、もちろん知らない。陰陽師の卵が集まるこの場所で真名(しんみょう)を名乗ることは誰もしない。後々命に関わる可能性があるからだ。

実に挨拶を返し、一限目の準備をする。朝のHR(ホームルーム)は特別な日にしかやらないため、すぐに授業が始まってしまう。


「あんた今日、物忌(ものい)みしてるの?」


怪訝(けげん)そうに言う実に、うん。と適当に頷いた。彼女は私に対して何故か過保護なところがある。そのせいか私に変化があるとすぐに気付き、何かしら行動を起こす。それも清晴様と一緒に。婚約者である二人の仲が良いことは結構だが、そこに私を関わらせないで欲しいのが本音である。

どう誤魔化そうかと思案していると、狙ったかのように絶妙なタイミングで清晴様が教室に顔を出した。


「さて、準備はできているかな?授業を始めるよ。」


私と実に対し、お茶目に片目を瞑ったことから、わざと話を遮ったことがわかる。相変わらず私に甘いようだ。そんな清晴様に対して、実は不満を隠そうともせずに鼻息荒く自分の席に着席した。

クラスには私と実を含めて六名の生徒がいる。賀茂分家の賀茂哲(かもさとし)と、賀茂寿(かもひさし)。この二人は陰陽師には珍しく、双子である。そして土御門分家の安倍榊(あべのさかき)安倍欅(あべのけやき)。榊は母方の、欅は父方の従姉妹でもある。


「今日は身固(みがた)めについて勉強する。」


身固めという術は、安倍晴明(あべのせいめい)蔵人(くろうど)少将(しょうしょう)を助けたという話で有名だ。元は密教(みっきょう)の術ではあるが、現代では密教の術も陰陽術として組み込まれている為、今回の授業の題材となったのだろう。

午前の授業は身固めの術の由緒(ゆいしょ)の説明、使い時、使い方、そして練習の時間になった。

私は実と、哲は寿と、榊は欅と二人一組になる。一方が正座をし手を合わせて目を閉じる。もう一方が正座した相手を抱き込み、耳元で必要とされる言葉(ことのは)を紡いでいく。

本来であれば、それを相手が諦めるまで、もしくは術を返すまで続ける必要があるが、練習ということで一通り言葉を紡げば終了となる。

立ち位置を交換し、何度か練習を重ねたところで授業終了の時間となった。

各々が昼食をとるために席を立つなか、私は清晴様と実に捕まってしまった。予想していたとはいえ、毎度飽きないものだなとため息を吐きたくなる。


「暦、何故物忌みをしているのか教えてくれるね?」


有無を言わせない笑顔で清晴様は言った。

■人物紹介

安倍尊(あべのみこと)(偽名:(こよみ))

・土御門家の分家の第一子。分家の序列は末席に近い。何故か実と清晴に過保護にされている。


賀茂実(かもみのり)

賀茂本家の第一子。尊の同級生。清晴の婚約者。


土御門清晴(つちみかどきよはる)

土御門家の後継者。繚乱の教員。実の婚約者。


賀茂哲(かもさとし)

賀茂の分家。寿の双子の兄。尊の同級生。


賀茂寿(かもひさし)

賀茂の分家。哲の双子の弟。尊の同級生。


安倍榊(あべのさかき)

土御門家の分家。尊の母方の従姉妹。尊の同級生。


安倍欅(あべのけやき)

土御門家の分家。尊の父方の従姉妹。尊の同級生。


■用語

物忌(ものい)

一定期間、飲食・情交などを慎み、身を清めること。

本来は部屋に閉じ籠ったりするが、今回は飲食・情交を慎んでいる状態を指しています。

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