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04-5.女公爵と騎士団団長は初対面である

 本当ならば面倒な事は早々に終わらせてしまいたかったのだが、一年、我慢をすればいいのならばそれで妥協しよう。


「オリヴァー卿の申し出を受け入れよう。一年の猶予を与える。その間、私の気持ちを変えることができなれば、この件は破談とする。証人はセバスチャンだ、問題はないな?」


 これは祖父母が求めていた対談ではないだろう。


 もしかしたら、こうなることを理解しながらも退室したのかもしれない。あの人たちのことだから、私の行動を読んでいてもおかしくはない。


「それで構いません。公爵閣下、一年の間に貴女の心を掴んでみせましょう。ご覚悟をしていてください」


「オリヴァー卿も破談となる覚悟をしておくといい」


 懲りずに私の手に触れようとするオリヴァー卿の手を振り払う。


 三度も同じ目に遭うとは思うな。


「では、早速なのですが、公爵閣下の名を呼ばせていただいてもよろしいでしょうか? 婚約者候補として認めていただいたのならば、是非とも、その間だけでも貴女と対等でいたいのですが」


「好きにするといい。対等でありたいと言うのならば、その姿勢を直せ。私は騎士がほしいわけではない」


「それは失礼しました。――イザベラ、隣に座ってもいいですか?」


「嫌だと言っても座るのだろう。私に触れない距離を保つのならば好きにしろ」


 ソファーから落ちるのではないというくらいに移動をすれば、オリヴァー卿は驚いたように眼を見開いた。


 そうか。この男、表情は変わらないが、眼には多少の変化が現れるのか。


 眼を合わせたくなくて逸らしていたから気付かなかった。


「セバスチャン。古文書があっただろう。なんでもいい。二冊とってくれ」


「かしこまりました。……こちらをどうぞ、イザベラ様」


「ありがとう」


 差し出された古文書を受け取る。


 客人を通すために用意されている応接間に置いてあるものは何度も読んだものだ。客人が来るまでの時間を潰す為に置いてある古文書は誰が読んでも問題はないものばかりだ。


「読書家だとは聞いたことがありましたが、随分と難しい本を好まれるのですね」


「簡単に読める本しか応接間には置いていない」


「簡単ですか? 古文書は古代語で書かれているものばかりでしょう」


 オリヴァー卿も多少知識があるらしい。


 古文書そのものを知らない貴族も多いというのに、珍しい。


「内容は魔法に関連するものが多いと聞いたことがあります。私は魔法関連には疎いものですから読んだことはありませんが……」


「知っている。オリヴァー卿は魔法が苦手なのだろう。剣の才能だけで騎士団長に上り詰めるとは素晴らしい御仁だよ」


 魔力は生まれ持った体質だ。


 皇族や貴族には魔力を持つ者が多い。


 平民にもいないわけではないが、魔力を持つ者は少ない。こればかりは子が生まれてみなければわからないことである。


 騎士団には魔法を使える者が多い。


 剣術と魔法を組み合わせた独自の技術が発展しているのもその所為だろう。


 剣術か魔法か、どちらかに才能が偏ってしまうことが多い中、彼らは双方の良いところを上手く使っている。


「古代語は貴族の教養にふさわしいものだ。読んだことがないのならば、これもなにかの縁だ。読んでみるといい」


 セバスチャンから受け取った古文書を一冊、オリヴァー卿に差し出す。


 会話をすることに疲れたわけではない。趣味が合わないと知れば、多少は興味が薄れるだろうと思ったからこその行動だ。


「ありがとうございます。イザベラ、こうして隣で本を読むのは不思議な感覚なのですが……」


「そうか。それはよかったな。私は静かに読書をするのが好きだ。この場にいても構わないが、読書の邪魔だけはしてくれるなよ」


「え? あの、イザベラ? 話をする為の時間ではないのですか?」


 戸惑った声が聞こえるが、知ったことではない。


 時間を潰す為のものは用意をしたのだからそれでいいだろう。そのような扱いが耐えられないというのならば、一年という月日を待たずに破談の申し出をしてくれても構わない。その方が助かるというものだ。


 客人に対する行動ではないと窘める者もいない。セバスチャンもなにも言わずに古文書を渡したのだから同罪だ。共犯者ならばなにも言えないだろう。



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