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04-4.女公爵と騎士団団長は初対面である

「三大公爵家との関わりをもちたいのならば、ダックワース公爵家の令嬢を紹介しよう。ダックワース公爵はああ見えても融通の利く人でね。第一騎士団の騎士団長がお相手だと知れば、快く婚約を引き受けてくれるだろう」


 ダックワース公爵家の令嬢は二人いる。


 上の娘は婚約者がいたはずだが、下の娘はまだいなかったはずだ。


 年齢は私よりも十歳下だが問題はないだろう。政略結婚の多い皇国では年齢差のある婚約者と結婚をするのは珍しい話ではない。


「貴方が望むのならばその条件に該当する令嬢を探してみよう。だから、スプリングフィールド公爵家との個人的な関わりを持つことは諦めてはくれないか?」


 自分の話を無視して進めるなと怒ればいい。


 都合のいい相手を見つけてくれるのならばいいと言えばいい。


 どちらにしてもバカにされていると怒り出せば、話は早く終わる。見切りをつけて破談へと誘導をすればいいだけの話だ。


「それはできません」


 オリヴァー卿の表情は動かない。


 少しは感情的になれば良いと思っていたのだが。


「なぜ? 条件が足りないというのならば付け足そう。ブルースター伯爵家への金銭的援助を低利息で引き受けてもいい。本来ならば金貸しはしていないが、今回だけは引き受けよう。お望みならば実家だけではなく、オリヴァー卿の援助も引き受けてもいい」


「そのようなことを望んでいません。公爵家との関わりをもちたいのではなく、貴女様と個人的な関わりを望んでいます。恋い慕う女性と関わりをもちたいと望んでいるだけです」


「そうか。そういえばオリヴァー卿は私の見た目に惹かれたと口にしていたな」


 堅物だ。


 恋い慕われる理由がわからない。


 私はオリヴァー卿と関わったことがない。いや、遠目で何度か目撃をしたことがある。その時に会釈をした程度の関係だ。


 その際に恋に落ちたとでも言うのだろうか。


「それでは分家のエインズワース侯爵家の令嬢を紹介しよう。私の従妹である令嬢だ。物静かで可愛らしい娘だ。オリヴァー卿も気に入ることだろう」


 この手は正直出したくはなかった。


 しかし、ブルースター伯爵家の内情を知っていると揺さぶっても効果はないようだ。幼い頃から可愛がっている従妹を生贄に捧げるような真似をしたくはなかったが、それで納得するのならばそれでいい。


 祖父母も文句は言わないだろう。


「公爵閣下、貴女はそこまでして破談に持ち込みたいのですか」


「そうだ。理解をしていただいてなによりだ」


「その理由を伺ってもいいでしょうか? 公爵閣下には利益のない条件を上げてまで破談させようとする理由を聞かせていただきたいと思います」


 なんだ。表情が変わらないものの、感情的にはなっていたのか。


 顔を合わせた時から表情が変わらないからわからなかった。


「婚約や結婚に対する興味がないからだ。必要性も感じない。なにより興味がないことに時間を費やす暇はない」


 心の奥底に鍵をかけてしまっていた想いを捨てることはできないだろう。


 私はセバスチャンが好きだった。過去の話だ。今ではその想いも擦り切れ、笑い話にもできる。


 セバスチャンの次に好きになったのは、アイザックだった。


 こう見えても恋の多い人間だ。いつも傍にいたアイザックに好意を抱いたが、アリアを邪険にする時点で婚約者の候補にあがっても、結婚をすることはないだろう。


 私はアリアが一番だ。最優先しなければならない。


 恋心など優先順位が低いものだ。


「公爵家の繁栄の為に子が必要ならば、分家から引き取ればいい。それだけのことだろう」


 それを捨てなければならないのならば、公爵として求められていることであったとしても、婚約をしたくはない。これは公爵家のことを考えていない行為だ。


 誰もそのようなことを望んでいない。


 心の奥底に仕舞い込んだ想いを忘れなければならない。


 それを理由にし続けてはならない。そのようなことはわかっている。


「破談に持ち込ませようとするのには充分な理由だろう?」


 政略結婚には愛はない。


 だからこそ母は愛を求めて逃げ出そうとしたのだろう。足掻いたのだろう。その結果、母は病に倒れ、父は愛人とその間にできた子だけを家族として愛した。


 そのような真似をするつもりはない。


 アリアがいればいい。


 セバスチャンやディアたちがいればいい。


 家族のような真似をしなくても心を許せる者たちがいるのならば、それでいい。それ以上のことを求め、心身ともに壊れていった母のような醜い姿になりたくはない。


 私は母の最期の姿のようにはなりたくはない。


「公爵閣下のお気持ちはわかりました」


 オリヴァー卿は立ち上がり、私の座っているソファーに近づいてくる。


 この男、距離感がおかしいのではないだろうか。


 わざわざ話をする為に距離を詰めようとする必要はないだろう。


 オリヴァー卿の後ろには、少し離れたところで見ていたセバスチャンが慌てたような顔をして近寄って来る姿が見える。


「しかし、私も恋い慕う女性を前にして引き下がることはできません。メルヴィン元第一騎士団団長が設けてくださった一年の猶予をお許しいただけないでしょうか。一年の月日をかけて貴女様の凍り付いた心を溶かして見せましょう。私の想いが本物だと信じてくださるように努めましょう。どうか、その時間を与えてくださらないでしょうか?」


 この男はなにを言っても無駄なのだろうか。


 侮辱をしていると怒るだろう言葉ばかりを選んだというのにも関わらず、まだ婚約を諦めていないのか。


 そこまで好かれる理由はないのだが。


「私は貴女を愛しております。公爵閣下、どうか、愛おしい貴女に愛を告げることをお許しください」


 許してもいないというのに、私の手に触れるのは止めてほしい。


 騎士の誓いをするかのような自然な流れで手の甲に口付けをしようとするオリヴァー卿の手を振り払う。


 手を握られていた時とは違い、簡単に振り払えたことには驚きを隠せない。


 それでも自然と膝をついて乞うような姿をしてみせるオリヴァー卿の姿は、あまり、見ていいものではないだろう。


「……私の心が変わらなければ破談の申し出をすると約束をできるか?」


 オリヴァー卿の背後に立っているセバスチャンは、今にも護身用に持たせているナイフを振りかざしそうな顔をしている。


 そのような顔をするのならば、執事としての矜持など捨ててしまえばいいのに、バカな男だ。


「必要ならば騎士の誓いをしましょう」


「それは皇帝陛下や皇太子殿下に捧げるべき誓いだ。公爵に対するするものではない」


「私が守りたいのは貴女だけです」


「騎士団長がそれではいけないだろう。私は仕事を疎かにする人間は嫌いだ」


「肝に銘じておきましょう」


 一年の月日はあっという間に流れていくだろう。


 その間になにかが変わるとは思えない。


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