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03-3.女公爵は婚約をするつもりがない

 祖父母が一方的に話を付けたとはいえ、婚約者候補として二人があげられている。それは承知した。先々代公爵と公爵夫人の暴走とはいえ、こちらから提案した話をすぐになかったことにするわけにはいかないだろう。


 あくまでも候補であるということから、相手側もどちらかは断られると承知の上だ。


 それでも構わないとこの話を引き受けたそうだ。


 公爵家との関わりを持つ為に必死になる理由もわかる。


 だが、そこまでして関わりをもたなければ、危ない家に交渉を持ち掛けたのではないだろうかと祖父母を疑ってしまうのも仕方がないだろう。


「……それはおじい様たちから聞いたのか」


「当たり前ですわ」


「お前は私の婚約に賛成なのか?」


 アリアが賛成ならば、私は結婚をするべきだろうか。


 貴族としてはそれが正しいのはわかっている。


「いいえ。貴族として婚約をするべきだとは思いますが、個人的にはお姉様に相応しい人なのかを見極めるのが異母妹としての使命だと思っておりますの。わたくしの大好きなお姉様を簡単には殿方に差し上げるわけにはいきませんわ」


 それが使命だと胸を張って言うアリアの頭を撫ぜる。


 この子はどうしてこれほどにも純粋なのだろう。貴族としての在り方を理解していながらも、なぜ、無邪気であり続けられるのだろうか。


「そうか」


 貴族として婚約をするべきなのはわかっている。


 尊い皇族の方々を守るべき貴族の血は次の世代へと継ぐべきものだ。これは貴族の義務の一つだ。


 それを私情で拒むのは貴族として間違っている。


 そのようなことはアリアだって知っている。異母姉の私が拒むべき話ではないこともわかっている。それでも、心の整理がつかないのだ。


「アリアが見極めてくれるというのならば安心だな」


「お任せくださいませ、お姉様。わたくしよりもお姉様のことを大切にしている人はおりませんのよ!」


「そうだな。アリアが誰よりも私のことをわかっているよ」


 本音を口にすることが許されるのならば、私はアリアが笑っていてくれるのならばそれでいい。アリアが一緒にいてくれるのならばそれでいい。見知らぬ他人にそれが普通ではないと否定されたとしても、気にしない。


 その考えは公爵としてふさわしいものではないだろう。


 それでも今だけは一緒にいたい。ようやく願いが叶ったのだ。


「アリア」


 頭を撫ぜるだけで嬉しそうに笑ってくれるのを知らなかった。


 アリアが嬉しそうに笑ってくれるだけで心が軽くなるのは、気のせいではないだろう。


 アリアが幸せになってくれるのならば、私はそれだけで幸せだ。


「私はお前がいるだけで幸せだよ」


 祖父は一年の猶予を与えると言っていた。


 その間は婚約から逃げていてもなにも言われないだろう。もちろん、祖父母のことを考えれば、その間、なにかを仕掛けてくるだろう。それはそれで乗り越えるべき壁だと思えばいい。


 私は婚約をしたくはない。


 それが公爵としての義務であったとしても、変わらない。


 今はアリアと一緒に過ごしたいのだ。それを邪魔されたくはない。


「わたくしもお姉様と一緒にいられて幸せですわ。お姉様、お姉様の好きな花を教えてくださいませ。わたくしと一緒に選んでくださいませ」


 それでも、アリアが私の為になにかをしたいと意気込んでいるのは見てわかる。


 見極めるのが使命だと胸を張って言っているのだ。


 それを迷惑だからと止められるはずがない。可愛い異母妹のすることだ。それを拒否する選択肢はない。


 アリアが飽きるまでの間、好きなようにさせておこう。


 いつものことを思えば、すぐに飽きてしまうだろう。


「そうだな。品種は詳しくはないのだが……、この赤いバラは好ましい。香りもきつくないのがいいな」


「クリスチャン・ディオールですわ。ミーヤ、何本か切ってちょうだい。赤いバラがお好きなら、カーディナルはいかがでしょう? 香りはしますが、綺麗な色と形をしていますのよ」


「違いがよくわからないが、違う品種なのか?」


「違いますわ。ふふ、お姉様も知らないことがありますのね」


 アリアは得意げな顔をして次々に品種名をあげていく。


 なんてかわいらしいのだろう。


 中庭に関しては庭師に丸投げをしていたからどのような品種があるのか把握していない。


 購入する際には許可を出していた筈だから、倉庫を調べれば品種名が書かれた書類があるだろうが。


 父や祖父の代から育てられている花も多く、新しいものは予算内に収まり、景観を維持できるのならば好きにしろと放り出してしまったからよくわかっていない。


 もしかしたら、アリアが気に入った品種を植えるように強要したこともあるかもしれない。


 その辺りは予算内で従うようにと言ってあるから、臨機応変に対応しているのだろう。


「アリアはどのバラが好ましく思う?」


「わたくしですか? ……そうですわね。赤色のバラなら、ダブル・デライトですわ。可愛らしい赤色と白色が混ざっていて素敵でしょう? ピンク色のチェリッシュが一番好きなのですが、十一月にならないと咲きませんの。残念ですわ」


「そうか。覚えておこう」


「ふふっ、ありがとうございます。ミーヤ、ダブル・デライトも何本か切ってちょうだい」


 ピンク色のチェリッシュか。話の流れからするとそれもバラの品種なのだろう。この後、その花を調べさせて取り寄せよう。


 屋敷では咲いてないとはいえ、他国まで探せば咲いている地域もあるだろう。花束にすれば喜ぶだろうか。


 バラを題材にしたドレスを仕立てるのもいい。


 新しいドレスを仕立てるのならばアリアが好きな花を題材にするのも良いだろう。試しにアマリリスの花を題材にして作らせよう。


 アリアならば似合うだろう。


「イザベラ様!! 探しましたよ!!」


 アリアと花を愛でているというのに空気が読めない声が響いた。


 息抜きと称して執務室から離れたことに勘付いたのだろう。


 振り返れば汗を流し、息を切らしているセバスチャンが立っている。


 いつも完璧な振る舞いをすることに拘っているセバスチャンも珍しいことがあるものだ。


 私が息抜きと称して中庭にいることは少ない為、屋敷中を探し回っていたのかもしれない。


「貴女様という人はこのような場所でなにをしているのですか! 紅茶の準備をさせている間に執務室を抜け出してしまうなど、公爵としての自覚が足りませんよ。そのような行動は慎んでいただきたいものです」


 セバスチャンが怒っている。


 珍しいこともあるものだ。


 そういう時は嫌な予感がするものである。


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