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01-4.穏やかな日々は長くは続かない

「十九歳にもなって婚約者がいないのはありえません」


 祖母の言い分は貴族として正しい。


 卒業と同時に結婚する者も珍しくはないのは、私も知っている。


「あの憎たらしい男が――、あなたの父親が生意気にも口を出さないでほしいと言うから黙って見守っていましたが、さすがに我慢の限界です。イザベラ、あなたに相応しい婿候補を探してきました。この二人のどちらかと婚約をして結婚をしなさい」


 祖母は机の上に二枚の写真を並べる。


 ……婚約か。今すぐにでも逃げ出していいだろうか。


 公爵代理人を務めていた父がなにも言わなかった為、今までいなくても問題がないこととして通ってきた。逃げてきたとも言えるだろう。


「結婚をするつもりはないのですが」


「バカなことを言うのを止めなさい。これは女性にとっての幸せであり、公爵としての義務ですよ。メルヴィンと話し合いをして二人に絞ったのです。どちらかを婿に貰いなさい。それ以外の相手は認めません。この件に関しては、祖父母として仕切らせていただきます」


「私の意思は無視ですか」


「あなたの意思を聞く必要はないでしょう」


 言い切られた。


 このまま私が結婚をしなければ、いずれは公爵家の跡継ぎ問題を抱えることはわかっていた。その対策として分家であるエインズワース侯爵家の三男を養子として迎え入れようと思っていた。


 年の離れた従弟ではあるが血筋には問題ないだろう。


 そこまで考えていたことが台無しにされた。


 結婚をするつもりはない。


 母のように愛を求めながらも愛されずに死ぬのは嫌だった。


「安心しなさい、私たちも娘の時のような失敗をするつもりはありませんわ。イザベラの暴走を止められそうな人柄と実力を持った人を選びましたのよ。優しいおばあさまがいて嬉しいでしょう?」


 優しいと自称するのなら婚約者候補を探すのを止めてほしい。


 机の上に置かれた二枚の写真に目線を落とす。見知った顔を見た途端に口元が引きつるのを感じた。


「アイザックは友人だと何度も伝えたはずですが?」


 婚約者候補にアイザックを出してくるのは卑怯だ。


 アイザックは親友だ。悪友でもある。しかし、それ以上の関係にはならない。


 たしかにアイザックに恋をしていた時期もあった。しかし、二度目の人生ではその恋心はどこかにいってしまった。恋をしている暇があるのならば、アリアを救わなければならないという義務感が、恋心を消し飛ばしたのかもしれない。


「父がスプリングフィールド公爵代理人を務めていた頃、縁談は断っているはずです。私自身も何度も断ったことがあります」


 父によって散々断られていた縁談だろう。


 それなのに手のひらを返して受け入れようとするのは失礼ではないだろうか。


 いや、相手が受け入れてしまえばそれでいいのか。


 断ったことをなかったかのように振る舞えば問題はないということだろうか。


 祖母ならばやりそうだ。


「ウェイド公爵はそれでも構わないと言われました。それどころか私たちの条件を無条件で受け入れるとも言われましたよ。問題はないでしょう」


「それは厄介者を押し付ける時のやり方と似ているのではないでしょうか。この縁談は考え直すべきです」


「厄介者を一人抱えても問題はないでしょう? あなたのお気に入りを手放せばいいではありませんか。それだって、公爵家にとってはお荷物ですわ。そのようなお荷物よりもイザベラを愛してくれる人の方がいいでしょう?」


 祖母の話を聞いていると頭が痛くなってくる。


 第五皇女として甘やかされて育ったからだろうか。祖母は愛されていることが当然だと考える癖があるのに違いない。


 今、アイザックが好意を抱いているというのならば、それは友情としての感情に違いない。


 エイダを守ることが当然だと言われた時に感じた胸の痛みは、昨日のことのように思い出せる。


 意地を張るのが疲れたとその場の勢いで和解に応じたものの、なにかあれば再び衝突をすることだろう。


 学生の頃からアイザックに振り回されていた。唯一無二の親友だと言っていても、なにかあれば、エイダを優先する男だった。


 親友よりも平民の少女を優先する男だった。


 それでも恋をしていた頃の私は、おかしかったのだろう。


 アイザックはアリアを傷つけるだろう。


 以前のことで心に傷を負ったのだ。それを忘れたかのように振る舞うだろうアイザックの姿は想像できる。


 お前は自分がなにをしたのかも覚えていられないのかと、何度、声を荒上げて喧嘩をしたことか。あまりの多さに数えることを放棄したくらいは喧嘩したはずだ。


 そもそも、私に対して他人からの好意が向けられているとは思えない。


 両親にすら愛されなかったのだ。


 それなのに他人から好かれるわけがない。


 アリアだけが例外なのだろう。閉ざそうとしていた心の中に入り込んできたアリアだけは信じられる。私も彼女のことを家族として大切に思っている。


 それだって家族としてなのだ。


 半分しか血のつながりがなくても関係はない。

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