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キラーハウス狂騒曲  作者: 日暮晶
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第72話(最終話) 黒原虹華と輝かしい未来

というわけで、ひねくれ者の同人誌製作ラブコメと銘打って書き始めたこの物語りもいよいよ最終話です。

まずは、お楽しみいただけると幸いです。



 夕くんと恋人関係になった。

 ――からと言って、私の生活や人生が爆発的に変わったかというと、そんなことはない。

 相変わらずラノベは好きだし、若干百合気味。死んだ目もひねくれた性格も変わっちゃいない。

 毎日メール♪ とか、毎日電話♪ とかいうキャラでもないしね、私。

 だからまぁ、変わった点があるとすれば――

「夕くん、お疲れ―」

「お疲れ様です、虹華さん……あれ? クマが出来てますよ! 寝不足ですか?」

「あー……うん、ちょっと話を考えてたら止まらなくってさ、ちょっと夜更かししちゃった」

「……大丈夫ですか?」

「大丈夫。むしろ、きついのは今日より明日かな……経験則的に。心配してくれてありがと、夕くん」

 ――こんな何でもないやり取りを交わす距離が、ほんの少し縮まったぐらいかな。


 冬休みが明けて一週間ほどが経った。既に一月も半ばが過ぎている。

 今年に入って二回目のサークル活動だ。今日はぜひともみんなに提案してみたい話があるので、私は少し気合が入っている。

「あれ? 中峯さん、なんだか楽しそうですけど、どうかしました?」

 パソコンの画面を眺めて柔らかい表情を浮かべているサークルの何でも屋に訊ねると、「これ見てくれよ」と返してきた。

 中峯さんの肩ごしに見たパソコンの画面に映っていたのは――

「あ、これ、こないだのウチの同人誌の……?」

 冬のコミックマーケット。そこで冊数を見誤ってかなり凹んだ同人誌、『みっくすぶらっど!!』の感想だった。SNSでエゴサでもかけたのか、上からずらっと並んでいる。

 そう、並んでいるのだ。読んで、感想をアップしている人が、まぁまぁいるのだ。

「まぁ、十件ほどだけど――ほらほら、話監修した黒原さんも見てみな」

 ざっと見た感じ、褒めが七割、貶しが三割――あとはそれらのコメントに付随して、買ってないけど気になるとかいう声もちらほらある。

「……ちょっと、嬉しいですね」

 じわじわと。

こみ上げてくるものに、思わずにやけてしまう。どういう形であれ、自分の関わった物が褒められると言うのは、とてもいいことだ。例え売れた絶対数が少ないのだとしても。

「次も、頑張らないと」

「その意気だ」

「虹華……ちょっとこっち」

「ん?」

 霧に廊下に呼ばれた。なんだろう……? と、嬉しさの余韻に浸りながら廊下へ。

「虹華と小野木くん、付き合い始めたの?」

 …………。

 小声での疑問に、思わず体を硬直させる。

「なぜバレたし」

「いや、まあ、なんとなくかな……ここ数日やたら機嫌がいいのと、さっきも距離がちょっと近かったし」

 なんとなくと言いつつも、ちょっとした様子の違いからそれを推測するとは……その洞察力こそ、霧のコミュ力の高さの所以なんだろうなぁと思う。

「みんなに言ってないのって、何か理由あるの?」

「いや……わざわざ報告するのもこっぱずかしいじゃん」

 みんなの前で付き合うことになった中峯さん・ときわさんペアでもあるまいし。

「ふーん……じゃあ、とりあえずは黙ってた方がいいのかな?」

「できればね。別に知られてもどうってことないんだけど」

「はいはい、りょーかい。おめでと、虹華」

「ありがと。でも、霧の方は何か進展ないの?」

「あー……ちょっといろいろあって、輪堂さんと手を組むことになったかな」

「ちょっとじゃ済まされない異常事態だと思うんだけど何それ!?」

 何がどうしてそうなった!?

 まぁ、あまり長々と話していても仕方ないので、そのあたりについてはまた今度訊ねることにして、部屋へと戻った。


「う~ん、やっぱりうまいな……」

 ときわさんがパソコンの画面を見て唸っていたのが気になったので、近づいてみた。

「ときわさーん、うまいってなに、がっ」

 18禁サイトでも覗いてるのかと思った。

 ときわさんの前の画面いっぱいに映し出されていたのは、まごうことなき乳の画像だったからだ。柔らかさと形の同居したエッロいやつ。乳首も修正なしでやんの。

「と、ときわさん……なにを……?」

「あ、これ? この間のコミケで胡椒ミルさんって人と知り合ったって言ったでしょ~? その人から艶っぽい絵の描き方教えてもらってるんだ。これ、メールの添付画像ね」

「いや、あの……さすがにここで見るのはいかがなものかと……」

「いーじゃん、そんなにウブな子、ここにはいないでしょ? これは資料だよ資料」

「……言っちゃなんですけど、ムラムラしません? 私から見てもめっちゃエロいんですけどこれ」

「したらじゅんたくんに付き合ってもらうよ~」

 …………。…………!?

 私は思わず中峯さんを見る。

「ん? どうしたんだ、黒原さん」

「いえ……なんでも」

 ……手、出しちゃったのかー……まあ、大学生だもんね。しかし、そうか……んん。

 この話題は突っつくとやばい方向に話が転がりそうだ……藪を突かなきゃ蛇も出ない。触らぬ神に祟りなし。

 今日は、ここに来た一番の目的を果たすとしよう。

「ヘッド、今暇です?」

「急ぐようなことは何もないけど、どうした?」

「ちょっと見てほしいものがあるんですけど」

 私はルーズリーフの束を取り出す。

「これは……?」

「このサークルに来てすぐ、ヘッド言ってたでしょ? 『自分で考えてみたいっていうなら全然オーケー』って」

 だから、考えてみたのだ。

 私の、オリジナルのキャラを。設定を。――物語を。

「これ、うちの同人誌にできないかと思って、持ってきました」

「くっくっく……まさか、ガチで持ってくるとは思わなかった」

 パラ、パラ、とその資料集を見ながら、実に楽しそうにヘッドは笑う。

「ハマっちまったか? 創作の楽しさに」

「まだまだ入りかけですけどね」

「いやいや、いいじゃねえか……まさかここまでがっつり来てくれるとは思ってなかった。やってみるか?」

「いいんですか!?」

「たーだーし……まぁそのままってわけにもいかんわな。みんなで多少話し合って設定を練るのと――夕! これ、お前がメイン作画やってみ」

「えっ、僕ですか!?」

 突然呼ばれた夕くんがぎょっとする。

「デザインの決まってる同人誌と違って、一からデザイン描き起こしてみるのもいい勉強になるぞ? せっかくだし師弟コンビでやってみな」

「に、虹華さんは……僕で、いいんですか?」

「嫌なことなんてあるもんですか。夕くん、お願い!」

「は、はいっ!」

 がしっ! と私たちが握手する横で、中峯さんはやや呆れたように息をつく。

「……いいんですか? ヘッド。オリジナル同人誌って、よっぽど有名な人でもないとそんなに売れないですよ?」

「売るためじゃなくて、作りたいから作るってのが同人誌の醍醐味だからな」

「そりゃそうですけど、次の売り上げ対決に響くかもしんないですよ?」

「それはそれだ。ま、次こそは俺も全力を――」

「余計なこと言ってフラグ回収しないでくださいよ?」

「へーい」

「ま、確かに全力は出してもらわないと困りますけど」

「任せとけ! あ、ところで黒原よ」

「はい?」


「お前、夕と付き合ってんの?」


 ばさっ、と手に持っていたルーズリーフを取り落とす。しん、と静まり返った部屋の中、私は普通に訊ね返す。

「……え、なんでですか?」

「なんでって……なんとなく?」

 霧と同じと見せかけて、その後に続く理由がない。つまりガチでなんとなくそう見えた、ということなのだろう……怖っ。

 二人揃って固まってしまったので、肯定したに等しいが……文句ぐらいは言わせてもらわねばなるまい。

「いやヘッド、百歩譲って勘付くのはいいですけど、それをみんなの前で堂々と訊きますかね普通」

「いいじゃねーか、減るもんじゃなし。で、どうなんだ?」

 その場にいる四人の視線が、私と夕くんに集中していた。多少恥ずかしくはあるが、こうなった以上は誤魔化すわけにも行くまい。

 私は、傍にいる夕くんとわずかに視線を交わし――お互い、観念したように笑って、つないだ手を挙げ、みんなに示した。

「ま、こういうことです」

 すると、周りからパチパチとまばらな拍手が送られた。

「おめでとう……でこの場合はいいのかな」

 とは、中峯さん。

「じゃあ、今日の帰りはファミレス会だな。俺の時も散々根掘り葉掘り訊かれたから、二人のあれこれについてはその時のお楽しみだ」

「意外と根に持ちますねー……」

 くくっ、と珍しく悪そうな顔を浮かべて、中峯さんは言う。

「それだけ恥ずかしかったからな。覚悟しておきなよ? 二人とも」

「が、頑張ります」

「や~、想いを遂げられたみたいでよかったよ~、虹ちゃん」

「ありがとうございます、ときわさん」

「あとは一人だけ……って感じだね~」

 ときわさんが流し目を送った先には、幼馴染の軽率な行動を咎める私の親友がいた。

「ったくもう、ほんとにライはデリカシーがなさすぎ! 勘が外れてて変な雰囲気になったらどうすんの! 思い付きで言葉を口にしない!」

「合ってたんだからいいじゃねーか……しっかしまあ、うちのサークルからカップルが二組も出ちまうとはなぁ」

 幼馴染の説教もどこ吹く風で、ヘッドは何の気なしに爆弾を放り投げた。

「残りもん同士、俺らもくっついとくか?」

「……そんな理由でくっつきたくないですぅー」

「何で拗ねてんだ?」

 霧の言い方は、残りもの同士という理由以外でならくっついてもいい、と言う風にも聞こえるんだけど……愚鈍なヘッドには気づくべくもないか。

「まぁさておき、じゃあさっきの黒原の企画は、二人がくっついて初めての共同作業になるわけだな!」

 共同作業!?

 何その響き、めっちゃ素敵! まるで結婚式みたい!

「共同作業どころかさ~、作品って作者にとって子供みたいなものでしょ~? 主に二人で取り掛かるんなら、これはもはや子作りと言っても過言じゃないよね~」

 子作り!?

 何その響き、めっちゃ素敵! まるで初夜を迎えるみたい!

「よし夕くん、子作りに入るわよ! 最高の子供を育て上げましょう!」

「虹華さん、その言い方はとってもシャレになりませんよ!」

 悪ノリに悪ノリを重ねた結果、夕くんが真っ赤な顔でストップをかけると言う事態にまで発展した。いかん、流石にやりすぎた。

「いや~、初々しくていいね~?」

「ときわにはなかった初々しさだけどな」

「あ~、そんなこと言う~? じゃあわたしたちも二人に負けないように子供でも作ろっか~」

「……作品だよな?」

「……ふふふ♪」

 その明言を避ける笑い方に、中峯さんはむしろ蒼ざめていた。ときわさんはやると言ったらヤる人だけど、流石に冗談だよね……? 半年後にお腹が膨らんでなければいいけど……。

「……でも、夕くん」

「? なんですか?」

 こればっかりは耳元で、彼にだけ囁く。

「……子供、いずれは欲しいからね」

「…………っ!」

 ぼんっ、と夕くんの頭からきのこ雲が立った。そんな彼の肩をぽん、と叩く。

「そのためにも頑張ってよ。お金のためだけに絵を描けとは言わないけど、お金も結構大事なんだから」

「は、はい! 僕、全力で務めさせていただきます!」

 夕くんの張り切り方を見た霧が、目を丸くして私に訊ねる。

「……何言ったの、虹華?」

「秘密」

 私は私らしからぬ、歯を見せる笑い方で親友に答えた。

「ねえ、霧」

「ん?」


「私、このサークルに来てよかったよ、ほんと。ありがとね」


 このサークルは私に、数えきれないほどの得難いものをくれた。

 まだ一年にも満たないが、それほどに濃い日々だったと断言できる。

 この先どんな苦悩に直面しても、それが馬鹿馬鹿しく思えるほどに、ここで得た全てのものは、私の人生を騒がしくギラギラときらめかせてくれるだろう。

 私のような死んだ魚の目にも映る、輝かしい未来へ向かって――まずは我らが子供について、夕くんと全力で意見を交わしあうのだった。


                     (おしまい)


 お楽しみいただけましたでしょうか。

 キラーハウス狂騒曲、これにておしまいです。ここまでお付き合いくださった皆様、ありがとうございます!

 人との出会いって大事ですよね、と、人とまともに会わない人間が思った結果、こんな作品が出来上がりました。ラブコメのつもりで書いていたんですが、果たしてこれはラブコメだったのか。その判断は読者の皆様にお任せしたいと思います。ちなみに個人的な判断基準で言わせていただければ、辛うじて主人公(女)とヒロイン(男)がくっついただけの「名状しがたいラブコメのようなもの」という認識が関の山です。

 ただ、書いてて楽しかったのは間違いありません。様々な個性をキャラ達に持たせた結果、思いの外物語が膨らんでしまったのは誤算でしたが、これが文庫二冊分ぐらいに収まってるのは奇跡だと思ってます。

 改めまして、ありがとうございました!

 また何か書けたら投稿するかもしれませんので、その際はよろしくお願いいたします!


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