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キラーハウス狂騒曲  作者: 日暮晶
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第48話 黒原虹華のガールズトーク(輪堂天音編)

 会話の食い違いに気づき、ひとしきり気まずい空気を味わったのち、コンビニまで行き温かい飲み物を買い、それを飲みながらの帰り道で私は切り出した。まぁまぁ責めるようなイントネーションで。

「なんでわざわざ主語を曖昧にして話し出したんですか」

「だって、し、仕方ないでしょ……あ、あいつのことを好きとか、わざわざ言うのも恥ずかしいじゃない……」

 私の隣を歩く輪堂さんはといえば、気まずさと恥ずかしさで赤くなっている顔を逸らしながらそう答えた。どっかで見たことある反応だと思ったら、ああ、これ霧の反応に似てるのか。霧もちょっとツンデレなとこあるからなー。

 ヘッドはツンデレ寄りの人間に好かれるのかもしれない。ゆくゆくはツンデレハーレムとかいう超面倒くさいものを形成しそうだな、とぼんやり考えていると、会話のない状況がお気に召さなかったのか、焦ったように輪堂さんが再び口を開く。

「だ、だけどそっちこそ、別にあいつのことが好きなわけじゃないなら、なんであんなことしたのよ」

「あんなこと……?」

 はて、記憶にございませんが。

「『コミックラフト』のあと! 街中で会ったときにデートみたいなことしてたじゃない! 会ったとき、明らかに『私たち、仲いいですよ』アピールまでして!」

「……ああー」

 そんなこともあったなぁとおぼろげに思い出す。そうそう、確か霧が片思いしてる相手のことを知ろうと思ってヘッドを誘ったときのことか。

「あの時のことは、『サークルの存亡を賭けた戦いの火蓋が切って落とされた』以上の印象がなくてすっかり忘れてました。そういえばそんなこともしましたね」

「おかげで私、あれからずっとあなたも大井手のことを好きなんだと思い込んでたんだからね!? だから主語をぼかしても通じるだろうって思ってたの!」

「あっはっはー、なるほどそういうことでしたかー」

 へらへらと笑っている私を見て、輪堂さんの表情はむすっとしたものになっていく。

「……で、そっちはそっちであの子が好きなんだって?」

「この場合のあの子とは?」

「この話の流れでさすがに間違えないでしょ。小野木くんよ小野木くん」

 じとっとした目で見てくるので、笑いながら返す。

「ええ、好きですよ? まだ付き合っちゃいないですけど」

「お、おお、否定しないんだ……なんか悔しいな。えっと、さっきの話から察するに、可愛いから好きだって……可愛いから好きって何?」

「文字通りです。女子と見まがう可愛さ、男らしさが極限まで抜けた男の子! あれは私の好みにドンピシャなんです」

「えーっと……え、なに、あんたショタコンなの?」

 ちょっと引き気味に訊ねてくる輪堂さんへ、私は即答する。

「違います。どっちかっていうと最近百合気味です」

「…………」

「無言で距離取らないでもらえます? さすがに輪堂さんを取って食いやしませんよ」

 こんなセリフを人に言うことになるとは思わなかったが。

「安心してくださいよ、年上のバ……女性は対象外なんで。輪堂さんみたいなたくましいのは論外です」

「その基準は基準で腹立つわね……っていうか今ババアって言いかけなかった?」

「エーキノセイデスヨー」

「棒読み! しかもたくましいって。こんなか弱い女捕まえてよく言うわ」

「そういうことを自分で言っちゃうからたくましいってんですよ。言っときますけどたくましい云々って外見じゃなくて中身の話ですからね?」

 互いに牽制するような沈黙。会話に間が空くかと思ったが――

「――話は変わるけど」

「はい?」

 意外と会話が続く。絵を描いて集中してるときは特に無駄口を叩くタイプではないらしいので、作業中以外の沈黙は苦手なのかもしれない。それとも単に、疑問が多いだけなのか。

「あの子――小野木くん、師匠って言ってた時に黒原さんの方を見てたけど、あんたが小野木くんの師匠なの?」

「あー……まぁ、一応は」

「何、その煮え切らない反応……でも何の師匠なわけ? 作業に参加してないってことは、絵の師匠ってわけでもないんでしょう?」

 どうやらこれは純粋な疑問らしい。まあ分かるわけがないか、と特にもったいぶることもなく答える。

「男らしさの師匠、らしいですよ?」

「…………はぁ?」

 至極真っ当な反応だった。

「……黒原さん、性別は?」

「男に見えます?」

「胸薄いから、女に見せかけた男というパターンも……?」

「張り倒しますよ。その乳そぎ落として同じ体型にしてあげましょうか」

「おっそろしいこと言うわねあんた……ああでも、男らしさってそういうこと……確かに話した感じ、思い切りのよさっていうのか、変なところで確かに男らしいからね」

「え、マジで? 滲み出ちゃってます?」

「加齢臭気にし始めたオジサンみたいな反応ね……」

 まともに話したのが二回目かそこらで伝わるほど、私は男らしいのだろうか。いよいよ私は自分の振る舞いについても考え直さなければならないのかもしれない。

「……ていうか、なんで男らしさの師匠になんてなっちゃったのよ?」

「紆余曲折ありまして……」

 そうなった経緯をざっくり話す。天然記念物モノの可愛い男の子、夕くんにサークル見学の日に一目惚れしてしまったこと。もっと筋肉とかつけて男らしくなりたいという夕くんを、『真に男らしいというのは外見ではなく中身』と諭したこと。その結果夕くんから男らしさの師匠と崇められてしまったこと――

「うん、話を聞いても意味わかんないわね」

「デスヨネー」

 私だって話しててちょっと意味わかんなくなってきてたとこだ。なんで今、こんな状況に……。

 しかし、そこでふと気づく。

 ……なんか、私ばっかり話してない?

「……これは少々不公平では?」

「は? 何よ突然」

「私側の事情を聞き出し過ぎでは? という意味です。情報とは等価交換であるべきです」

「えー、なんか面倒くさいこと言い出した……つまり?」

「輪堂さんも、ヘッドとの初対面エピソードを話してしかるべきだと思うんですよ」

「げっ」

 明らかに嫌そうな顔をする輪堂さんに、私はぐいぐい詰め寄る。

「さぁさぁ、私ばかり話すだなんて許しませんよ。今すぐ吐くんです」

「ガールズトークにしては押しが強すぎじゃないかしら……まぁいいけど、そんなに面白い話でもないわよ?」

「休憩中の茶飲み話の、お茶菓子ぐらいにはなるんじゃないんですか? 甘いかは知りませんけど」

「……じゃあ、期待はしないでよ」

 ――この話が。

 同人サークル『キラーハウス』の創設に繋がるものだとは露ほども思わずに、私は冷め始めたホットコーヒーに口を付けた。

 どこか懐かしむような表情で、少しはにかんだ輪堂さんの横顔を見ながら。


「そもそも、あいつと初めて会ったのは高校のころなんだけどね――」



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