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キラーハウス狂騒曲  作者: 日暮晶
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第42話 黒原虹華の推薦


「……で? 何か申し開きがありますか?」

「……面目ねえ」

 霧を除く私たち四人の眼前、部屋のど真ん中で正座させられたヘッドが、目元をひくつかせる中峯さんに素直に謝った。

 ――気温も下がりがちになりつつある11月の頭、キラーハウスの集会所。

 印刷所の〆切も目に見えるところまで迫ってきている今日この頃、この場所には殺伐とした空気が漂っていた。

 その原因はもちろん、目に見えるところまで〆切が迫っていることによるもの――では、ない。いや、それも半分ほどあるけど。

 原因は、正座しているヘッド。

 ――その、吊り下げられた右腕を指さして、中峯さんはとうとう叫んだ。

「なんでこのタイミングで、綺麗にフラグを回収してんだあんたはぁーっ!!」

「俺だって折りたくて折ったわけじゃねえっつーの!」

 複雑骨折、全治一か月半。

 それが、ヘッドの右腕に押された烙印である。

 

『えっとなー……バイト中に荷物が崩れちまってなー……』

 今朝、ヘッドの右腕を見て固まったメンバーに対する、第一声がそれだった。

 ヘッドのバイトは引っ越し業者関係らしい。詳しくは知らない私でも、色々と重たい荷物を運ぶ仕事だろうなという想像ぐらいは容易にできる。まぁ筋肉野郎のヘッドらしいバイトだとは思うけれど、運悪くその一部が崩れて、ヘッドの腕がやられたのだとか。最近は絵を描く時間を確保するためにバイトの時間を減らしていたらしいけど、だというのにこの有様だ。

「笑いごとじゃないのは重々承知の上で言わせてもらいますけど……言霊ってのも案外馬鹿にできませんねえ」

「ほんとだよね~。なんだっけ? 『絵が描けなくなるほどの大怪我なんて滅多にしない』だっけ?」

 私――黒原虹華の言葉に、目を瞑ってうむうむと頷きながら、ときわさんが同調した。

「ここまで綺麗に回収されるとむしろ不気味だよね」

「お、お二人とも……ヘッドの心配とか全くしてないんですね……」

 そんな私たちの言葉を薄情と受け取ったのか、夕くんは若干引き気味に呟く。

「いやまぁ、心配しても仕方なくない? 意識不明の昏睡状態でもあるまいし」

「そうだよ。神経が千切れちゃって繋がるかどうかの瀬戸際ってわけでもないんだしさー」

「虹華さんも灰森さんも戦場帰りか何かなんですか!? この事態への認識が違いすぎて僕ちょっと不安ですよ!?」

 そうは言われても、だって……ねえ? と、私とときわさんは目を合わせる。

 ヘッドが骨折したのはすでに過去の出来事で、処置もすでに終えていて、治療期間もきっちり判明しているのだ。つまり、とときわさんが、私たちが落ち着いている理由をまとめる。

「これ以上私たちが騒いでも仕方ないじゃん。ヘッドの骨折が治るわけでもなし」

「思ってる以上にサバサバしてる……!」

「っていうかさ、実際今ヘッドにかまけてる場合じゃなくってね――」

 恐れ慄く夕くんへ現状の説明をしようとしたその時、玄関の方からがちゃりと音がした。多分ヘッドの幼馴染こと霧が来たのだろう。一体どんな反応をすることやら――

「ごめん、遅れ――ってえええええええええっ!? ちょ、どうしたのライその腕!? 折ったの!? 骨を!?」

「……あ、よかった。白砂さんが普通の反応をしてくれて僕、ちょっと安心しました」

「あー、安心してるとこ悪いんだけどね、夕くん。話を戻していい? 今、ヘッドにかまけてる場合じゃないのよ」

「そんな言い方は、少し酷いと思います」

「夕くんが年長者を敬うのも分かるし、男らしくはある。けど、真に男らしくありたいと思うなら常に冷静に、現状を理解することも必要だと思うわけよ」

「……と、言いますと?」

 男らしくというワードに引っ張られたちょろい夕くんが、不機嫌そうな顔を引っ込めて尋ねてくる。

「この場合は、ヘッドが骨を折ったことは問題じゃない。よりにもよって、利き腕を折ったことが問題なのね」

「――あっ」

 夕くんもようやく、現状に気づいたようだ。

「……同人誌の、ヘッドの手をつけてない担当箇所、どうするんですか? まだ相当数残ってましたよね?」

「それを、今から話し合わないとねってこと。どういう結論を出すにせよ、急がないとまずいかもね」

 

「万が一があるんだから早めにやっておけってあれほど言っていたのにまったく……!」

「いやー、悪い悪い」

 なおも苛立ちの収まらない中峯さんと、あっけらかんとした様子のヘッド。本当に悪いと思ってんのかこの人。

 ちゃぶ台を囲んで、ヘッドを頂点として時計回りに中峯さん、夕くん、私。ちょっと外側に、霧とときわさんが椅子に座っている。小柄なのが二人いても、六人全員が並ぶとさすがに少々狭いので、こんな形に落ち着いた。

「……で? どうするつもりなんですか、実際のところ」

 大体のまとめ役である中峯さんがあの調子であるのに加えて、他の面子が話しを進めようとしないので、仕方なく私が切り出す。

「選択肢ってどのぐらいあります? 第一にはヘッドが担当してるパート……茜とサラサの話を抜く。ぶっちゃけそもそもの話の数が多いので、ボリューム的には問題ないと思いますよ? ただ……」

「……きっつそうだよねぇ……」

 ときわさんの呟く意見に、全員無言の肯定をした。

 今回題材にしている『ブラッディ・フール』のメインヒロインである茜と、巨乳で可愛いサブヒロインであるサラサ。この二人は第一巻から登場しているヒロインであり、ヒロインズの中でも1,2を争う大人気キャラ。様々なヒロインたちの話を描くことをコンセプトにしている今回の同人誌だけど、この二人の話だけは外せない。

 外せば、おそらく売り上げはガタ落ちだ――今回の結果がサークルの存亡に関わってくるとなれば、なおさら外すことはできない。

「しかも、間の悪いことに、この間SNSの宣伝に表紙を載せたばかりなんだよね……」

「ああ、あのサラサの」

 どんよりした様子の中峯さんに、私は相槌を打つ。

 斜め上からのアングルで、ふんわりとしたサラサの上目遣いと柔らかそうな胸の谷間が強調された、「ああ、これは可愛い」って思ったやつだ。あの筋肉ヘッドが描いたとはとても思えない。

 が、なおさらこれで取り下げるという選択肢はなくなった。あの表紙で釣っておいて、中にサラサの話がないとか詐欺もいいところだ。

「となると、誰かが描くしかないわけだが……」

 ヘッドの言葉に、夕くんとときわさんが僅かに反応する。

「……二人とも、いけるか?」

「へ、ヘッドの代わりですか……? だ、だったら僕より灰森さんのほうがいいと思いますけど……」

 消極的な夕くんの言葉を受けて、ときわさんが「ん~」と顎に指を当てる。

「……えっとさ~、正直、わたしは――」

「ちょっといいですか」

 ときわさんの言葉を遮って、私は挙手して、自分の意見を述べた。

 この場の誰にでもなく、隣に座る夕くんを見て。

 この先に吹き荒れるであろう、嵐を予感しながら。


「ヘッドが担当してるパートを描くのは、夕くんのほうがいいと思う」



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