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キラーハウス狂騒曲  作者: 日暮晶
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第38話 黒原虹華の待ち伏せ


「――何が原因だと思う?」

 秋も深まってきた十月中旬――とある平日の放課後のこと。

 私は体面に座る霧へとそんな質問を投げかけた。

「何がって……ああ、なんか小野木くんが虹華を避けてるって話のこと?」

 長袖のブラウスにカーディガンを羽織った霧の返事に、私は頷く。

 なんだか夕くんがちょっとよそよそしくなってしまったと、うだうだ言い始めて一か月ほどが経ってしまった。

 同人誌の製作自体は比較的滞りなく進んでいるらしい――まぁ、ヘッドの担当している部分が少々遅いと、以前中峯さんが愚痴っていたが。

 まあそれはさておき。

「よそよそしく感じるっていうのがたまたまじゃないかとも思ったんだけど、やっぱりこう……意図的に避けられてる感じがするというか」

「例えば?」

「極力私と二人にならないようにしてる気がするのよ。前に私とヘッドと夕くんの三人だけが部屋にいたことがあって、ヘッドが休憩してコンビニに行くって言い出した途端、夕くんも一緒に行くって立ち上がっちゃって。夕くん、その十分前に休憩終わったばかりだったのに」

「ふむ……その夕くんが休憩してた間には何か訊かなかったの?」

「訊けなくもなかったけど……ヘッドの前ではちょっと訊きにくいじゃん」

 ヘッドに余計なところに頭使ってほしくないし。

 机に突っ伏して、思い当たる理由を探る。

「……やっぱ引かれたのかなぁ……」

 微妙な空気が漂いだしたのは、椎が例のアルバムを送り付けてきた日以降のこと。

 自分の見た目も顧みずにはしゃいでしまった私の写真集を見てドン引きされたのかもしれない。

 そう思うとあの魚の目フェチを殴り飛ばしたくなる。

「いや……まあ、虹華は否定すると思うけどさ、あのアルバムの虹華、可愛かったよ?」

「あぁ?」

 突っ伏した姿勢から顔だけを持ち上げて、霧を下から睨み上げる。

「霧と言えど、あんまりつまんないこと言うと怒るよ」

「つまんないって……虹華は自己評価が低すぎるんだって。あんた、自分で思ってるよりは可愛い顔立ちしてるんだよ?」

「いいとこ普通でしょ」

 霧に可愛いと言われて悪い気はしないものの、自分で自分が可愛いと思ったことはない。

 可愛いと思いあがると、ろくでもない目に遭う可能性が増える。

 似合いもしない髪型や服に手を出して、痛い奴だと思われるのは嫌だし。

「はぁー……もやもやするわー」

「……あはっ」

「あん? なーに笑ってんのよ霧。親友の不幸がそんなにおいしいか」

「いや、あの虹華が恋愛関係でここまで悩むなんて思わなくってさ」

「お悩みナシの能天気娘だってか」

「そこまで言わないけど……ま、遠からずかな。前までの虹華なら、面倒くさくなったら放置するか、直接問いただすかのどっちかだったじゃん」

「……えっ、そんなに極端だった、私?」

「まあね。でもその虹華がどっちにも傾かずにぐらついてるんだから、本気で小野木くんのこと好きなんだなぁって」

「……あ、あんまり恥ずかしいこと言わないでくれる?」

 実際小野木くんのことが好きではあるけれど、人からそう言うことを言われるとなんかこう……もにょっとするから。

「どうしてもっていうなら、あたしがそれとなく探ってきてもいいけど」

「それは結構」

 私は即答した。

「そういうのは卑怯だと思うわけよ、私は」

「またそういう男らしいことを言う……」

 霧の提案を否定した私の中で、急速に決意が固まっていく。

「――誰かに頼るぐらいなら、自分で直接問いただす」

 ……そうは言っても、中々そのタイミングなんてないと思うけど……。第一二人きりになりかけた時点で逃げられるし、うまく二人きりになれたとしても、夕くんがちゃんと質問に答えてくれるかどうか……。

 ……いや、と私は閃く。

 タイミングがないなら、作ればいいじゃないか!

そのためには……。

「……いーいこと思いついちゃった……フフフフフフフフ」

「うーわ、悪い顔浮かべてるなー……」

 

 三日後、土曜日――早朝。

「うー、さぶさぶ……」

 十月も中旬となると、流石に朝は寒いというレベルまで冷え込む。一応上着はちゃんと着てきたけど、いやもうほんと……筋肉もない私には堪える寒さだ。

手をこすって微かながらも暖を取りながら、集会所となるアパートの前に、私は立っていた。

 学校が休日である土日は、基本的にみんなサークル活動へ来る。大学生組は、まれに午前中だけ講義があるとかで午後から来る人もいるけれど、少なくとも高校生組は確実に午前から参加する。

 とはいえ、太陽が昇って間もない時間帯にやってくることは普通ない。そう、普通なら。

 今日の私は、夕くんを待伏せるためにこんな早朝からやってきたのだ。

「さて……腹が減っては戦が出来ぬ、と……」

 片手に下げたコンビニの袋から、私は待伏せのお供とも言える朝ごはん、あんパンと牛乳を取り出してエネルギーを補充した。

 

 ――それから、およそ二時間後。

 シャァァ、というタイヤが空気を切る音を耳にして、来たか、と声を出さずに身構える。

「……ふぅ、涼しくなってきたなぁ。今日も一日、楽しもう!」

 何今の可愛い掛け声。思わず頬がにやけてしまう。声の主は言わずもがな、夕くんだ。冷え込んできた朝の空気の中を自転車で突っ切るために、やや厚手の上着に身を包んでいる。小さいシルエットが丸みを帯びて驚きの可愛さを発揮していた。今すぐ撫でまわして愛でたいが、全力で我慢する。

 ――サークル活動の際、基本的に自転車を使ってこの場所へやってくる夕くんは、驚くべきことにメンバーの誰よりも早く来ているらしい。そんなに早く来て何をしているのかというと、なんとテーブルやちゃぶ台を拭いたり、簡単な掃除なんかを行っているらしい。大体最後か、ケツから二番目に部屋を訪れる私からすれば頭の下がるというか、眩しすぎて見てられない。掃除とか、本来はやることがない私あたりの仕事だろうに、それを自分からやる夕くんの真面目さよ。

 例外として、中峰さんに送迎をお願いしている場合はその限りではないらしいけど――今日の天気予報は晴れ。自分で来るだろうと踏んだけど、どうやら当たりのようね。

 自転車をアパートの脇に止め、施錠――カンカンと階段を上って、我らが集会所に入ったのを確認したあとで、私もこっそりと階段を上って、ドアの前で耳をそばだてる。

「……よし」

 玄関近くで音が立っていないことを確認し、極力音を立てないように侵入――目に見える場所に夕くんがいないことにホッとしつつ、施錠。

「……っ」

 思ったよりも鍵が大きな音を立てたので肝を冷やしたが、部屋の方から水を流す音が聞こえる。おかげで今の音もよく聞こえなかったようだ。

 ――私の作戦はいたってシンプルだ。二人きりになると逃げられるのなら、逃げ場を初めから塞いでおけばいい!

 そのために、夕くんがくるのを早朝から待ち構えていたのだ。

 これで夕くんの逃げ場は断った。さて、ここからどう距離を詰めたものか……。

 抜き足差し足忍び足、頭の中で思索しながら部屋へと接近していると。

「さっき鍵が締まるような音がした気が……?」

 ひょこっ、と。

 夕くんの顔が、廊下へ出てきた。突然のことで隠れる暇などなく、そもそも隠れる場所もないので、当然のように目が合う。合ってしまう。

 夕くんの目が驚きに見開かれるそのわずかな間に、私は腹を括った。ここまで来たら後戻りなんてしてられない。

「にっ、虹華さん? えっと、その……今日は早いんですね?」

 普段はもっと遅い時間にやってくる私がいることにどことなく動揺した風の夕くんに、私は返す。

「ちょっと気になることがあってね」

「し、シナリオですか? じゃあちょっと待っててください、僕、コーヒーを入れてくるので――」

「外れよ」

「わっ!?」

 部屋へ引っ込もうとする夕くんの手を掴む。夕くんの体が硬直したのが、掴んだ手から伝わった。

「に、虹華さん……?」

 どこか怯えたような調子で、夕くんが私の名前を呼ぶ。そんな彼に不覚にもゾクゾクしつつ、私は彼の目をまっすぐに見て訊ねた。


「――ねえ、夕くん。最近私を避けてる理由、教えてよ」


虹華と夕の関係性にも、ようやく変化が訪れる……かもしれない話です。続きます。

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