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キラーハウス狂騒曲  作者: 日暮晶
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第35話 黒原虹華の胸やけ


「――さて、それでは!」

 ヘッドが自分のグラスを掲げる。

「ときわが親に公認もらえた件、そして隼太郎と灰森が付き合いだした件を祝って、乾杯!」

「ヘッド、流石に恥ずかしいんでちょっと声押さえてもらえませんかね!?」

『かんぱーい!』

 中滝さんのクレームを無視して、私たちは各々の持つグラスをぶつけ合った。

 ――ときわさんと中滝さんの二人がくっついた、翌日のこと。

 私たちは、集会所から最寄りのファミレス――前に打ち上げをしたのと同じ場所で祝賀会的なものを催していた。

 名目はヘッドの口上通り。メンバー全員参加で、案内されたのは半円型のボックス席。男子は通路側から夕くん、ヘッド、中峯さん。女子は通路側から私、霧、ときわさん。半円型の席である関係上、中峯さんとときわさんは隣同士になる形だ――というとちょっと偶然っぽいけど、半ば強引に二人を(というか恥ずかしがってる中峯さんを)押し込めた感じだ。おかげで主役の二人は逃げ場がない。

 そんな中峯さんは恥ずかしそうにしながらも、隣にちょこんと座るときわさんをちらちらと嬉しそうに見ているし、ときわさんはいつも通りの無表情よりながらも、どことなくまんざらでもない雰囲気を出して、くぴくぴとジュースに口をつけている。

 あと個人的には、夕くんと対面の席というのが意識したいポイント。

 できれば今日、最近微妙に感じるわだかまりを、解消とは言わないまでもその理由ぐらいは探り出したい所存……!

「えと……中峯さん、ときわさん、おめでとうございます」

 そんな私の視線にも気づかない夕くんが、ちょっと遠慮がちに――でも、まるで自分のことのように破顔しながら、二人に祝福の言葉を贈った。

「あはは……ありがとな、夕」

「いやー、しかしまさか、隼太郎がときわを好きだったとはなぁ」

「ライ、その発言はちょっとおっさんくさい」

 思わずといった調子で、霧がヘッドに愛称で突っ込む。

「で、隼太郎はいつから灰森のことが好きだったんだ?」

「ぶふぁっ!」

 口に含んでいた飲み物を吹きだす中峯さん。

「ありゃ、汚れちゃったね~。じゅんたくん、ちょっとじっとしてて」

「えっ、ちょ、ときわ……!?」

 おしぼりを手に、中峯さんの口周りを拭い始めたときわさん。

「うん、綺麗になったよ~」

「う……あ、ありがと」

「ひゅーひゅー、熱いねえ」

「その発言もおっさんくさいからね」

 彼女の急接近にガチガチになった中峯さんを、ヘッドがからかう。まあそれに突っ込んだ霧も、もちろん私も夕くんも、ニヤニヤしてはいたのだけれど。

「〰〰っ! なんだこれ、新手の地獄か……!?」

「天国の間違いじゃないですかね」

 幸せが過ぎると、人間天国も地獄に感じるらしい。面倒くさい生き物だわー、と私は生ぬるい目で真っ赤になる中峯さんを見る。

「ふむ? じゅんたくん、わたしと一緒だと地獄なの?」

「うぇっ? い、いや、それは……」

 普段よりも幾分、悪戯っぽい表情を浮かべたときわさんに上目遣いで尋ねられ、しどろもどろになった後、消え入りそうな声で呟いた。

「……て、天国です……」

「んむ、よろしい~」

 満足そうにむふん、と息をついたときわさんは、ぽすんと中峯さんに寄り掛かった。

 …………。

「……もう私たち帰った方がいいんじゃないですかね」

「だな。じゃああとは若い二人にお任せということで」

「好き勝手にいちゃついてるといいよ、もう」

「せ、節度は守ってくださいね?」

「お願いだからここにいて!? もう人数分料理頼んじゃってるから!?」

 半ば本気で席を立ちかけた私たちを涙目になって引き止める中峯さん。仕方がないので座り直すと、ちょうど料理が来始めた。

 みんなで取り分ける用のサラダと、ポテトフライ。あとはこれを食べながら順次、各々が頼んだ料理が来るのを待つだけだ。

「で、さっきの質問だけど、隼太郎っていつから灰森のこと好きだったんだ?」

「うやむやになったかと思ったら! ヘッド意外と食い下がりますね!?」

「いやぁ、当然の疑問じゃね? だって俺はお前らにそういう気があるってまるっきりわかんなかったもんよー」

「あんたに心の機微なんて分かるわけないでしょうが」

 サラダを取り分けながら、ジト目で霧が言う。片思い中の幼馴染が言うと説得力が違うね。

「……い、言わないとダメですか……? 正直、そういうのは二人っきりでもあまり言いたくないぐらいなんですけど……」

「わたしも訊きたいな~?」

 付き合いたての彼女にも懇願されて、むぐ、と中峯さんが言葉を詰まらせ、観念したように天井へ息を吐く。

「……サークルで初めて会ったときからだよ。一目惚れでした」

「きゃ」

 わざとらしい悲鳴を上げて、ときわさんが両手を頬に当てた――が、何かに気づいたのか、目が真剣なものになる。

「……わたしに一目惚れって……じゅんたくん、やっぱりロリコンだったの!?」

「なんでそうなるんだ!」

 中峯さんが頭を抱えた。

「ああ、灰森って身長も胸もちっちぇえもんな」

「次それ言ったら殺すよ、ヘッド」

 躊躇なく地雷を踏み抜いたヘッドが、ときわさんに睨まれた。

「べ、別にときわの身体的特徴を見て一目惚れしたわけじゃないって」

「じゃあ何見て一目惚れしたんだよ」

「……なんなんでしょうね?」

 誤魔化している――わけではなく、どうやら本気で分からないように、中峯さんは首を傾げる。

「可愛いのは間違いないし、見た目も好みではある。夢に邁進する姿なんかは、これと言って大きな夢を持たない俺にとっては眩しく映るしさ――加えて、ほっとくと勝手に自滅しそうな危うさがあるのも、妙にくすぐられるんだよな」

 …………随分大胆な惚気話ね。さすがのときわさんも顔が赤くなってるし。

 そんな私たちの生温い視線と隣の高温にも気付かず、中峯さんは赤裸々に続ける。

「ただ、なんだろ……俺がときわを好きになったのはそういう理屈とかじゃなくてさ」

 うーん、と、自分の気持ちをどう言葉にしたものかと悩んでから、中峯さんは、ハッキリ言った。


「初めて見たあの時、俺は灰森ときわって女の子の存在を好きになったんだよ、きっと」


 私は思わず胸を押さえて俯いた。

「……おかしいな、ポテトフライ食べ過ぎましたかね。胸焼けするんですけど」

「虹華、あんた一本も食べてないでしょうが……でも正直同感」

「なんだよ、お前らポテト食わんのか? じゃあ俺もーらいっ」

「中峯さん……男らしいです!」

 中峯さんの大胆な告白に、私たちが各々反応を見せる中、ときわさんがふるふると震えながらぽつりと呟く。

「……じゅんたくんさぁ、狙ってやってるの?」

「へ? ね、狙ってって何が――」

「……なんでもないよ」

 体は中峯さんに寄りかかったまま、顔は全力で背けてジュースを飲んでいた。

 流石のときわさんもあれは照れるらしい。

 そのタイミングで料理がやってきた――そう言えば私はドリアを頼んだんだった。

 ……この胸焼けが収まるのを待ってる間に、冷めちゃいそうだなと思った。


「そうだ、みんな少しいいか?」

 いつもより少々時間をかけて食事を終えたころ、中峯さんがそう切り出した。

「折角だし、サークルの宣伝も兼ねてツイッターのアカウントでも作ろうかと思うんだ。特に今回は絶対に負けられない勝負だからね」

「……急に真面目な話になりましたね」

「俺はずっと真面目だよ!?」

 あの惚気も心の底からだったってことか……収まりかけた胸焼けが再発しそうだ。その前に話を続けてもらおう、と先を促す。

「それで、なんで今それを発表したんですか?」

「せっかくの宣伝なんだから、サンプル的なものを乗せたくってさ。イラストを描いてる三人に、一応許可をもらっておきたくて」

「なんだ、そういうことか――好きにしろよ。そういうのは一切合切お前に丸投げしてんだからよ」

「とうとう丸投げって言ったわね、ライ」

「んー……まあ、でも上に立つには意外と向いてるのかもね」

 人に仕事を割り振って、任せることは、纏める側の人間には必要なことだと思う。会社の社長が、一人で何もかもできるわけじゃないのと一緒だ。

 一方丸投げされた方は、慣れっこだと笑って言う。

「ありがとうございます。ではヘッド、近々上げてもらいたいラフがいくつかあるんですけど」

「……夕、任せた!」

「僕ですか!?」

 たらい回しを試みたヘッドだったけれど、中峯さんに押し切られて、どうやら二週間以内にラフを上げなきゃならなくなったようだった。

 そしてこの日は解散した――家路について少ししてから、私ははっとする。

「……しまった……! 胸焼けしすぎて夕くんと話すの忘れてた……っ!」

 どこぞのカップルがいちゃつきすぎたせいだな、と、根暗らしく嫉妬の念を飛ばした。



注 次話、いちゃつきが発生します

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