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キラーハウス狂騒曲  作者: 日暮晶
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第27話 黒原虹華のプロット相談 霧編②


「……さて、落ち着いたところで話し合いでもしよっか、霧」

「そうだね、虹華」

 ――廊下ダッシュという、きょうび小学生でもやらないようなマネを教師に見咎められてからおよそ一時間後。

 私たちは、学校から比較的近くにあるファミレスへとやってきていた――遅めのお昼ご飯もすでに済ませた。ドリンクバーでとってきたアイスコーヒーで一息入れて、私は気分を切り替える。

 霧を誘った目的は、当然――サークル活動。

 私はボックス席のテーブルにルーズリーフを広げ、右手にペンを持つ。

「プロットを作ろうか。霧の推しキャラは樹奈だったよね」

「うん」

「……しかしまあ、ヘッドの前でよく幼馴染ヒロイン推しとか言えるよね。霧、実はヘッドが好きってこと隠す気ないでしょ」

「べべべ、別にそんなつもりはなかったんだけど!?」

 私や霧も所属する同人サークル『キラーハウス』、そこが今回題材にするライトノベルが『ブラッディ・フール』。樹奈というキャラは、その中に登場する、いわゆる幼馴染のサブヒロインだ。

 ライトノベルにおいては女子キャラ比率を高めるためによく『幼馴染』というポジションが使われ、かつサブヒロインというまぁまぁおいしい役どころで登場することが多いのだが、しかしそれと同時に不遇の象徴であるともされている。

 なぜなら、所詮サブはサブ。恋愛面を盛り上げるために随所随所でぐいぐい主人公に迫るものの、その行動が起爆剤となって主人公にメインヒロインへの思いを確立させてしまうというピエロみたいな役割になることも少なくない。

 というか、その幼馴染にどういう役割があろうとも、恋愛面においてはかませ犬的な存在であるのは間違いない。振られるか、主人公のメインヒロインへの想いを察してそっと身を引くか――例外もなくはないが、まぁ少ない事例と言っても差支えないだろう。事実、『ブラッディ・フール』においても、既に幼馴染は振られている。

「幼馴染が振られるあの話、あたしボロボロ泣いちゃって……」

「あんたは感情移入しすぎだから。そんなんだとハーレムもの以外読めなくなると思うんだけど。しかしまぁ、約束された不遇のサブヒロインをどう料理するか……」

「虹華の認識が酷過ぎてあたしもう泣きそうなんですけど」

「私の認識じゃなくてラノベ読者の大体の共通認識だからね。百人に聞いたら百人がこう答えるよ」

 可愛くて、主人公のことを誰よりも支えられそうなのに、恋の実らない立ち位置。

 まぁ、『不遇だから』みたいな理由があるから、一定の人気を得るのかもしれないけれど……。

「でもまぁ、だからこそ、逆に樹奈とくっつく話も好かれるかもしれないわね。で、霧はどんな話にしたいわけ?」

「んーっと……樹奈が幸せになる話かなぁ」

「だいぶざっくりした構想ね」

「し、仕方ないじゃん! 別にあたし、考えるの得意ってわけじゃないんだし……そういうのを考えるのが虹華の役目でしょ?」

 むくれたようにマスカットジュースに口をつける。

「ま、確かにそれはそうね。でも幼馴染キャラで萌えるシチュエーションに関しては現役幼馴染の霧の意見も欲しいから、ちょいちょい口は出してよ?」

「なにその現役幼馴染って」

「天然記念物の一種」

「はっ倒すわよあんた」

 軽口もそこそこに、本格的に作業に入る。

「そもそも、幼馴染キャラをヒロインに起用する以上は『幼馴染ならでは』みたいなイベントを組む必要があるのよね。じゃないと他のキャラと差別化できないし」

「幼馴染ならではのイベントって何……?」

「文字通りよ。まぁ、なんていうの? 気安い雰囲気を感じさせるっていうか……例えばやたらめったら距離の近い、胸とかが当たるスキンシップとか」

「ただの痴女じゃん!」

「あとはそうだな……勝手に家の中に入ってるとか」

「幼馴染って不法侵入するキャラって思われてるわけ!?」

「それも言い方ひとつ……だけど曲がりなりにもこっち側に身を置く霧なら分かるでしょ」

「な、何が?」

「――美少女なら、何をやっても大体許されるって」

「それは創作の中の話だよね!? 確かにライトノベル、そういう雰囲気あるけども!」

「それだけ分かってるなら十分十分。でも霧はヘッドの家……っていうか部屋に忍び込んだこととかないの?」

「……………………な、なくもない……で、でも、それだって昔の話だし!」

「いや、いいのいいの。幼馴染の習性は大体わかってるから」

「言動の端々に滲む天然記念物への対応感!」

「忍び込んだときにヘッドの服か枕あたりの臭いをくんかくんかしちゃったんでしょ?」

「ししししししてないし!」

「じゃあパンツをしゃぶるぐらいは?」

「臭いかぐよりより高度な変態! 幼馴染の主食は想い人のパンツじゃありません!」

「幼馴染としては割と鉄板の流れなんだけどなぁ……」

「そんな幼馴染がいたらガチの天然記念物だよ! ただの変態じゃん! そんな高レベルの幼馴染はラノベでもそうそう見かけないよ!」

 幼馴染という存在に対する互いの認識の齟齬を確認した後、ふむ、と一息ついて、私はちぅー、とアイスコーヒーを吸う。

 結論。

「……もしかして、幼馴染って変態じゃないの?」

「えっ、あたし今まで変態だと思われてたの!?」

「まぁそれはさておき」

「さておかないで? 先にあたしを安心させてほしいな虹華さん?」

 無視。

「今のでちょっと話が浮かんだからちょっと待ってね」

「やばいうやむやにされる……!」

 霧が何事か呟いてたみたいだけど、再度無視。頭の中に浮かんだ話をガリガリとルーズリーフに描き込んでいく。

 主人公の部屋に忍び込んで、漫画を借りようとする樹奈。部屋の中に無造作に放り投げられた学校の制服を見てしまい、こっそり着用。匂いもかいじゃう。が、そこへ突然家に帰ってくる主人公。部屋の中で慌てた樹奈は足を滑らせて頭を打ってそのまま気絶。夢の中で、昔キャンプで同じテントの中、一緒に眠ったこと(三巻参照)を思い出す。目を覚ますと主人公のベッドの中。呆れた主人公が隣にいる。その日はもう遅いからそこで寝ていろと主人公に勧められる。主人公は床で寝る。主人公のベッドで横になる樹奈だが、緊張と興奮で眠れやしない。やがて眠りについたらしい主人公を見て、こっそりベッドを降りて主人公の被っている毛布の中へ潜りこむ。ドキドキしながらも眠りに落ちる。翌朝、目を覚ますと主人公が驚く。樹奈は悪戯っぽく笑う。「私、寝相悪かったみたい」と――

「――ふぅ……」

 一息に描き終えて、シャーペンを離して背もたれに寄り掛かる。軽く見返してみるも、同人誌ならまぁこんなものじゃないかなという量にも落ち着いている。まだ調整する場所もあるとは思うけど、我ながら悪くない出来じゃなかろうか。

「……んぁ? どしたの、霧」

 こっちをぼーっと見ている霧に訊ねると、いやね、と言って霧は切り出す。

「……文句の一つも言おうかと思ったけど、虹華の顔が見たことない集中力を見せてたから言いそびれた」

「なにそれ。まぁいいけど……ん」

 ルーズリーフを霧に手渡す。

「それ、読んでみて。幼馴染的にどんな感じか、ちょっと意見を聞きたいから」

「わ、わかった」

 霧が目を通し始めたのを見て、私は空になったグラスを持って席を立つ。書いた本人に見られながらだと読みにくいだろうし、気持ちゆっくり歩いて、のんびりとジュースを選び、ゆったりと席へ戻る。

 そこには、ルーズリーフを握りしめて顔を真っ赤にしている霧がいた。

 どうやら問題なさそうだなと、私はにまっと口の端を吊り上げた――

「……虹華」

「ん? どしたの、霧」

「あたし……あたし……今日、ライの部屋に忍び込む!」

「ちょっ、待て! まさかそれを再現しようとしてんじゃないでしょうね!?」

 どんだけ感化されてるんだこの巨乳!

「あたしも……あたしもライと一緒にぃぃぃ!」

「お、落ち着いて霧! キャラがおかしなことになってるから!」

 そこから霧が落ち着きを取り戻すまでに一時間ほどかかった。

 ……この話、本当に大丈夫かなと別の意味で不安にはなったものの、私はこの話を採用することに決めた。

 霧という名の幼馴染に恋する変態が、特殊な例であることを祈るばかりだ。



プロット編に入って以降、キャラの掛け合いが自分の中で加速したような気がします。

霧編なんかはそれが特に顕著だなぁ、なんて、読み返すと思ったりしました。

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