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キラーハウス狂騒曲  作者: 日暮晶
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第26話 黒原虹華のプロット相談 霧編


「……終わってしまった……夏休みが……」

 ――始業式が終わり、教室でぐったりと机に体をあずけて、私はスマホを弄っている。

 今日は九月一日。一応季節は秋のはずだけど、夏休みとさして変わらない暑い日差しが窓の向こうから照り付けてくる。ふざけんな太陽。お前はもう十二分に輝いただろう――と、文句の一つも垂れたいところではあるけれど、まぁこればっかりは仕方ない。

 問題があるとすれば、当然のように終わり切らなかった宿題の数々だけれど。

「……霧が見せてくれれば、もう半分は終わってた……」

 我ながら中々にクズ発言である。自覚はあるので問題ないだろう。

 ちなみに、その霧さんといえば、久しぶりに会ったクラスメイトたちと雑談中である。

「…………」

 弄っていたスマホを机に置き、ぼーっとそんな霧を眺める。楽しそうだなと思う反面、あんなキラキラした空気の中に割って入っていけるほど私は神経図太くないし、独占欲が強いわけでもない。

 私の友達は霧しかいないけど、霧の友達はいっぱいいるのだ。そんな友達と過ごす時間を邪魔するのもしのびない。

 しかし、そう思うとやっぱり霧ってすごいなぁと思う。存在が大きいって言えばいいのか。胸も大きいけど。

 私なんかは空気読めないししょうもないことばっか言うし、可愛いの基準がそもそも男子寄りだし、同年代の女子と話が合うということはまずない。絶望的と言ってもいい。

 私がまともに話を出来るのは、霧ぐらいしかいないのである。

 ……しかし、今日放課後に霧とファミレス行って少しはプロットの話でもしようと思ってたのに、意外と雑談長いな……女子って生き物は何をそんなに話すことがあるのか、私にはまったく理解しかねる。

 まぁ、他の子と話が合わないのはこういうところなんだろうなぁ――なんて思いながら、腕を枕にうつ伏せになる。

 少なくなった蝉の声と野球部の掛け声を聞きながら、私の意識は闇に落ちた。


「――か。虹華ってば」

「……んぁ?」

 揺すられて目を覚ますと、目の前にはゆさゆさ揺れる何か。私を起こした声から察するに、霧の胸か。

 突っついちゃえ。

「えい」

「ひぅわっ!? ちょっと起き抜けに何すんのよバカ!」

「ぬがっ!」

 頭に一撃手刀が落ちてきた。おかげでやや浮いていた顎を机にぶつける羽目になった。

「いったぁ……目覚ましにしてはずいぶん過激だなぁ」

「そっちがバカなことするからでしょ!? もぉ、ちょっと待たせて悪いと思ってたら……」

「……ちょっと」

 そういえば、私どのぐらい寝てたんだろ。時計を見る。学校が終わって、クラスメイトが散り散りになったのが午前十一時。

 今、午後二時。

 …………。

「え、まさか霧、三時間も雑談してたわけ?」

「そういうことになるね」

「毎回思うけど話のネタ尽きない?」

「多分同じ話題を二、三回繰り返してるから。これでも切り上げてきたんだよ?」

「どっかでまだ続いてんのか……女子って生き物は本当分かんないわー……」

 少なくとも教室の中には、雑談女子の姿は見受けられない。いるのは私たち二人だけだ。

「虹華だって女子じゃん」

「霧は花は全部同じ花って言っちゃうタイプ? 霧が桜とか華々しい種類だとしたら、私はせいぜいラフレシアがいいところだから」

「……あー」

「くさそうってか? くさそうって意味かその納得は?」

「いやそこまでは言ってないって……なんかこう、湿気たところに咲いてそうだなーって」

「どっちみち喧嘩売ってんじゃない。えーえーそうですよ、ジメジメした女ですよ私ぁ」

「あと、同類を集めそうというか」

「集めるってほどは引き寄せてないし! 青海椎が特殊なだけだから!」

「あおうみしい?」

 …………あれっ、なにこの反応……何その表情。

 …………ちょっとぞわっとしたぞ?

「よし、ファミレスいこっ。これからレッツプロット会議だ」

「その前にあおうみしいって人について訊きたいかなあたしは」

 教室から逃げてうやむやにしようとしたが、回り込まれてしまった。

「で、それだれ?」

 おおう、なんか笑顔ながらすさまじい圧を感じる……どうした霧、らしくないぞ。

 ……そういえば青海椎については、他のメンバーには特に話してなかったな……存在を知ってるのは夕くんぐらいか。ああ、ヘッドは偽デートの時に顔見てたっけか?

 じゃあ説明は簡単だ。

「霧がストーカーしてた時に見たんじゃない? 『シャイニーリング』の代表さんの隣にいた女子」

「ぐふぅっ!」

 ストーカーという言葉の矢に胸を貫かれた霧がのけぞった。

「まぁ、紆余曲折あって変に縁が繋がった感じはするけどね、確かに」

 ラフレシアは物が腐ったような臭いで虫を引き寄せるという――くしくも、奴を引き寄せてしまったのも私の腐った目が原因だし、さっきのたとえは意外と的を射ていたのかもしれない。

「ふーん……でも、そうか、あの人が……」

 顔を思い出せたのか、しかし何やら含みのある返事を霧がよこす。そしてどこか寂しげながらも嬉しそうな横顔で口にした。

「……虹華にも、あたし以外の友達が出来たんだね」

「はぁっ?」

「え?」

 私の間髪入れない疑問の声に、霧もきょとんと目を丸くする。

「……霧、今の発言は撤回してもらおうか? 私とアレが、友達だって?」

「え、ち、違うの? てっきりそういう話だとばかり……ていうか虹華、ちょっと、ちょっと待って、目が怖いよ?」

 自分がどんな表情をしているのかは分からないが、まぁそんなことはどうでもいい。

「アレは少なくとも友達ではないから。キラーハウスの面々は友達っていうよりサークルメンバー……どっちかっていうと仲間っていう感じだし」

「に、虹華?」

「だ、か、ら!」

 ぐいっと詰め寄って、目を見て宣言してやった。

「私の友達は霧しかいないから!」

「……っ」

 言うだけ言ってすっきりした私は、距離を取って一息つく。……ん?

「どしたの霧、そっぽ向いて」

「不覚……まさか虹華にドキッとさせられる日が来るなんて……告白されたのかと思った……」

「……!」

 そんなことを言われると、私も急激に恥ずかしくなってきたんですけど!

「え、えっと……だからまぁ、その……なに、これからもよろしくってこと? へ、変な意味じゃなくってね!」

「う、うん……」

 お互いに、妙にもじもじしてしまう……あれ、おかしいな? なんだこの空気?

 まるで勢いで愛の告白でもやらかしてしまったようなむずがゆさが体中をひた走る!

 口にしたのは友達宣言なのにどうなってんのこの空気はーっ!

「……あぁっ、なんでこんなに顔が火照るの!? ちょっと霧、なんとかしてくんない!?」

「ほっ、ホテル!? ちょっと虹華何言ってんのよ!?」

「霧が何言ってんの!? ってか何を想像した今!」

「なななな何も想像なんかしてないから! 単なる聞き間違い! てか虹華の方こそそこで素のリアクションしないでよ!」

「私のせいにしやがったわね今! あんたが爽やかな健康的少女に見せかけてけっこうムッツリのスケベってのは薄々分かってたけど今ので確定したわよ霧ぃ!」

「だだだだ誰がムッツリのスケベよ!」

「むっちりのスケベって言ったほうがよかったかな!?」

「むっちり言われるほど肉ついてないわよ!」

「嫌味か!? 嫌味かこの野郎!」

「自分からけしかけといて盛大に自爆してんじゃないわよーっ!」

 ほとんど人のいない校舎に、私たちの声がガンガン響く――普段出さないぐらいの大声で、勢いのままに何か言い合ってないと、変な空気がぶり返しかねないからと二人とも分かっているからだ。

 が、そんな舌戦も長く続くはずもなく、しばらくしたらぜぇ、ぜぇ、と二人して息を切らせてしまう。

 不意に、目が合った。まだ高くにある太陽光を吸い込んだ琥珀色の瞳に、私もぐいっと吸い込まれそうになる。

 あ、またヤバい空気になりそう。そう思ったのは、霧の目もまた、私の目に吸い込まれるように動いたから。

 私は、息を吸って霧に提案する。それはもう、叫ぶように。

「……っ、い、行くよ霧!」

「どっ、どこへ!?」

 どこへもなにも。

「決まってるでしょ――プロット会議しに、ファミレスへ!」

 ついでに一つ、妙な空気を振り払うべく、私は叫んだ。

「玄関まで競争! 負けた方がお昼おごりね!」

「はぁ!? ちょ、こらっ――そういうのは先に言えって、こら、待てーっ!!」

 ――結局、勝負の結果はドロー。

 たまたま廊下を歩いていた先生に見つかってしまい、二人して説教を喰らってしまったのだった。


ちょっぴり百合百合(?)してる回でした。

後編に続く。

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