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キラーハウス狂騒曲  作者: 日暮晶
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第23話 黒原虹華の後悔


 ――同人誌製作に当たって、スポットを当てるキャラクターは何よりも重視されてしかるべきである。

 それがカップリングものであるならなおさらだ。同人誌というのは基本的に短編。短い話の中で、どれだけそのキャラの持つ良さを引き立てられるか。どれだけ読者を掴めるか。その勝負なのだ。

 だからこそ、ヒロインとなるキャラを絞って、そのキャラを深く掘り下げるものを作る必要があるのだ。ヒロインを複数出してしまえば、とっ散らかった仕上がりになりかねない。

 ――ゆえに。

 私の『ヒロインを一人に絞る必要はないんじゃないか』という提案には、その場のみんなが驚愕の表情を浮かべた――そして、最初に難色を示したのは、中峯さんだった。

「い、いやいや――まてまて、その提案はちょっと……というか、そもそもなんでそんな発想に至ったんだ?」

「いや、みんな別々に好きなキャラがいて、まとまらないぐらいならいっそ、そのまま突っ走っちゃった方がいいんじゃないかと思いまして」

「……いや、それが理想なのは分かるけど……今回は『シャイニーリング』に勝たなきゃいけないんだぞ? 描きたいものだけ描いて、勝つのは難しいと思うんだ。やっぱりキャラを絞って、色々際立つようにするべきだと――」

「描きたいものを」

 私は、中峯さんの言葉を遮って言う――これを口にすべきかは悩んだけれど、この際だからはっきり言ってしまおう。言うべきだ。少しばっかりふわついたような感覚に任せて、私はそれを口にする。夕くんとときわさんに目を向けて。

「描けなかった結果が、前の同人誌じゃないんですか?」

「…………」

「…………」

 二人は、何も言わない。ただ、各々に反応は見せた――夕くんはちょっと気まずそうに、ときわさんは目を丸くして。

「あー……」

 また、先陣切って私を諭そうとしていた中峯さんも、思うところがあるのか、そう呻く。大方、前回キャラを決めた後のプロット会議的な場で、自分の意見をねじ込んだのだろう。

「ん? どういうことだ?」

「虹華、何言ってんの?」

 私の言葉の意味を理解していないのは、霧と――よりにもよってヘッドだった。この馬鹿ップルが……少しは理解を示しやがれ。

 見かねたらしく、中峯さんが私の言葉を翻訳してくれる。

「黒原さん曰く――このメンツで、キャラを絞るのは難しい、らしいですよ。ヘッド」

「へ? なんでだ?」

「アクが強すぎるってことだよね~」

 ヘッドの素直な質問を受けたのはときわさん。

「私たち、もともと主張が強いタイプの人たちだからさー。特にイラスト班の三人は」

「えと……すいません」

「夕くんが謝ることじゃないわよ。クリエイターには必要なものでしょ、主張の強さって」

 私はしょんぼりしかけた夕くんを励ます。そう、こういう場では大人しく見える彼でさえ、絵に関しては意外とワガママなのだ。

「ただ、三人が三人ともどころか、メンバー全員が各々に強い主張を持ってる現在、キャラを絞って同人誌製作にかかれば、どこかで不協和音が生じることになる――それじゃあ、多分『シャイニーリング』に勝つことなんてできない。前の二の舞になるだけです」

だったら。

「いっそバラバラのままでも一か所を目指すような形にできればなと思いまして」

 私の言い分に、中峯さんはなるほどと呟きながらも、しかし言う。

「けど、ヒロインを複数出すっていうのは、やっぱり俺はちょっと賛成しかねるな――焦点を当てるキャラが複数いると、どうしてもとっ散らかるんじゃないか?」

 当然の危惧だ。だから、私も当然、そのための案を用意している。

「だから、各々推しヒロインごとに別々の、独立したストーリーを立てればいいんじゃないかなーって思いまして。Ifストーリーって感じで」

「……その手があったか! なるほど。確かにそれなら、各キャラにそれぞれで集中できる」

「それに、複数の話を詰め込むのにも、メリットはありますよ――『シャイニーリング』の同人誌は、題材は分かりませんけど、おそらくヒロインは一人のみ。けどこのメンバーがそうであるように、読者も好きなキャラはそれぞれ。いろんなキャラのストーリーが入るなら、それだけ手に取ってもらえることも増えるはず」

「……確かに」

 中峯さんは納得したように頷く。

「……と、色々理由は並べましたけど、私がこの案を推す理由は別にあります」

「別、ですか?」

 夕くんの言葉に、私は首肯する。

 だってさぁ。

「みんな、推しキャラを譲らないほどに熱い想いを持ってるのに、それを削ぎ落すなんてもったいないと思っちゃって」

 描きたいものを描いても、勝てるとは限らないけど。

 描きたいものを描きたいように描くのが、同人誌製作の醍醐味で――作者がキャラに掛ける気持ち悪いぐらいの熱を楽しむのが、同人誌を読む醍醐味でしょう?

「だからこそ、このやり方を試してみるべきだと思うんです。勝てるかどうかは分からないですけど――いい作品には、なると思います」

 言い終えて、どうです? と私は、ヘッドを見る。

 みんなの雰囲気は、決して否定的ではない――しかし、このサークルのヘッドは、ヘッドだ。最終的には彼が頷くかどうかの話になる。

 誰かに自分の案をプレゼンするなんて、初めての経験だ――少しドキドキしながら、私は答えを待つ。

 果たして、ヘッドはくくっ、とくぐもった笑いをもらした。

「やれやれ――俺は思ったよりもとんでもない奴をメンバーに入れちまったらしい」

「え、どういう意味ですか、それ」

「いやいや、褒めてんだよ。誰推しかって話が、まさかこういう方向に転がるとは思わんかった――想いを削ぎ落すのがもったいないなんて、この場の誰もに対する殺し文句を言ってくれやがって」

 流石は男らしさの師匠だな――ぱしんと膝を打って、ヘッドはにやりと笑って言う。

「そんな言い方されちゃあ個人の意見を押し通すわけにもいかんだろう――その案、乗ったぜ! 全員で最高の作品を作って、『シャイニーリング』にぶつけてやろうじゃねえか!」

 みんなの笑顔の肯定を受けて。

 不覚にも、何だか胸がぐっと来た――まだ何も始まってないのに、これからだっていうのに。

 胸に何かがこみ上げるなんて、生まれて初めての経験だった――それでも、涙は死ぬ気で堪えたけど。そういうキャラじゃないし、私。

「も――もちろん、数が多いからと言って手を抜いたストーリーは作りませんよ。全部に全力投球です」

 こみ上げるものをごまかすように、私はつらつらと述べていく。

「作画はキャラを推してる人が――例えばヘッドならサラサのストーリーを、夕くんならセカンドのストーリーをメインで描く。中峯さんや霧の推しキャラは、流石に作画班の誰かに描いてもらうことになりますけど――ストーリーの内容に一番合いそうな絵柄の人に頼むことになりますかね」

「なるほど、俺らも作業量がとんでもないことになりそうだな」

「まだ日はあるとはいえ――これは、意外と予断を許さないかもしれないですね。全員フル稼働でやっとどうにかなりそうだ……」

 ヘッドはどこか楽しげに、中峯さんはこれから来る大波に備えるように言う。

「虹華、あんた今日はどうしちゃったの? 別人が憑依でもしちゃった?」

「自覚はあるけど、次言ったらその乳揉みしだくわよ」

 遠慮のない霧には遠慮のない言葉を返す。

「虹華さん……! さすがです!」

「何がさすがなのかしら……まぁ、でも、夕くんも頑張ってね? これから大変だから」

 なぜか目を潤ませた夕くんと話していると、ときわさんも交じってくる。

「え~でも、当面は大変なのは虹ちゃんじゃない~?」

「え、私がですか?」

「うん。だって、ストーリーが増えるってことは、その分虹ちゃんの仕事が増えちゃうじゃん」

 ぎしっ、と。

 床が軋むとともに、私は思わず動きを止めてしまった。

「…………」

「いや、だってさ、ストーリー監修でしょ? 虹ちゃん」

「……………………」

 だらだらと脂汗を浮かべる私に、ときわさんは追い打ちをかける。

「各ストーリーでキャラに違和感が出ないように話を作ったり修正入れたりするのが仕事でしょ? それを全員分やるのって当然じゃないの~?」

「………………………………」

 私は、もしや。

 とんでもないことをしてしまったのでは……!?

 ――後悔先に立たずというか、覆水盆に返らずというか。

 今更撤回だなんて言えるはずもなく――めでたく私は、計五本ものストーリー監修を請け負う運びとなったのである。

 ……やべぇことになってしまった……!


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