第22話 黒原虹華の提案
「……というか、話を持ちかけておいてなんだけど、こっちの相談に乗ってくれてもいいわけ? 一応敵同士でしょ、私ら」
ギラギラと照りつける太陽に目を細めながら、電話の向こうの相手に言う――返ってきたのは、上機嫌で涼やかな声だ。
『敵同士なのはサークルの方ですよ。わたくしは虹華さんと敵対した覚えなんてありませんから。というか、わたくしに言わせれば、虹華さんが写真を撮らせてくれるというのでしたら、たとえ敵同士でもそちらに寝返ります』
「……また随分気に入られたもんね」
若干引きながら呟く。なんでこいつに相談しちゃったかなぁとすでに後悔し始めていた。
が、時間もあまりあるわけではない――猫の手でも借りたい状況とはまさに今のことだ。
私はコトの流れをざっくりと話す。
『ふむ――同人誌製作にあたって、メンバーのまとまりがないと』
「そういうこと。多分微々たるものだけど、結果前回の同人誌にはやっぱ影響が出ちゃってるんだよね――そっちって、どういう風に題材とかキャラとか決めてるの?」
集会所のアパートの前で、私は電話の向こうの青海椎に疑問を投げかける。
少しでもうちのメンバーにまとまりを持たせる参考になればと思っての質問だったけど――帰ってきたのは、予想外の答えだった。
『そうですね、こちらでは特にそういう話し合いはないですね』
「えっ、なにそれどういう意味」
『同人誌の内容などは、ほとんど天音さんが独断で決定しているんですよ。メンバーもチェックを行うことはありますけど、大きく内容に関する口出しを行うことはあまりないです。というか、実は天音さんがあまり意見を欲しがらないので』
「独裁政治じゃん」
『あ、そのあたりは誤解なきよう――わたくしたちはそこに不満を覚えてはいないので。どちらかと言えば、メンバーにマゾな方が多いのですよ』
「あんた自分含めてその言い方はどうなの……あーでも、なんとなく意味は分かった」
要するに、あちらのメンバーには『指示をしてほしい』タイプの人間が多いのだろう。需要と供給が一致しているというのか――中々に性格のキツそうな輪堂さんだけど、なるほど、そういうメンバーが支えているわけだ。意図してそういうメンバーを選りすぐったのか、そういうメンバーだけが残ったのかはさておき、向こうが作った同人誌を見る限りにおいては、そういうやり方もありなのかと思わないでもない。
ただし――
「こっちの参考にはなりそうにないわねぇ……」
話を聞く限り、向こうのメンバー間の関係性は漫画家とアシスタントのそれに近い。逆にこっちは、各々が意見を話し合う共同制作といった感じだ。そもそもの時点で参考にするのは間違っていると言える。
『ええ、どうもそのようですね――お力になれず、申し訳ない限りです』
「いや、これに関してはあんたが謝るようなことじゃないでしょ」
『おや、わたくしに非がある部分もあると聞こえますが』
「『コミックラフト』での一件はほぼあんたに非があるからね?」
とはいえ、あの件がなければ、こうして相談することもなかったのだろうけれど……。
『まあそれはさておきましても』
「さておくな。自分の非をさらっとさておくな」
『そうですね、折角頼っていただいたのに何も返せないというのも、個人的には少々つまらないので――虹華さんのイメージからは少し遠のくかもしれませんが、こういうのはどうでしょう?』
そう前置きした青海椎の提案に。
私は、なるほどと思わざるを得なかった。
青海椎との通話を終えた私は、少し頭を整理して部屋の中へ戻った――じりじりと焼くようだった外と違い、クーラーの冷気が心地いい。
ただし、みんなの雰囲気は良好とは言い難かった――私が抜けている間にも散々議論が交わされたのか、どことなくぐったりとした空気が漂っている。まかり間違っても、まとまっているという感じではない。
「おっ、やっと戻ってきたな。結構長かったみたいだが、友達か?」
ヘッドの気兼ねない質問には少し窮した。アイディアを得るのに確かに助けてはもらったが、友達かと言われると……まぁ向こうは間髪入れずに「YES」と答えそうではあるけど、何と答えたものか。
「……友達未満です」
「?」
ヘッドが首を傾げたが、特に気にすることでもないと思ったらしい。改めて、ヘッドが私に質問を投げかけた。
「で、黒原は誰押しなんだ? お前がいない間も話が全然まとまらなくってな」
「ほらほら、虹華だけ推しキャラを言わないなんて許さないよ」
「なんなのその修学旅行の好きな子を言い合うみたいなノリ」
どうやら霧もかなり疲れているらしい。
が、私の推しキャラを訊きたいのは霧だけというわけでもないらしい――その場の全員の目が、なぜか私に向けられていた。
「んーっと……それなんですけど」
一つ咳払いして、私はみんなの顔を見渡して言う。
「一つ、私から提案があるんですよ」
全員がきょとんとした顔を浮かべる。少しばかり緊張しながらも、私はその内容を口にした。
――当初の目的とは、百八十度真逆の提案を。
「フォーカスを当てるヒロイン、あえて一人に絞る必要も、ないんじゃないですかね?」




