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キラーハウス狂騒曲  作者: 日暮晶
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第1話 黒原虹華の勧誘


「ふぅ……」

 二年目の高校生活、その三分の一が終了して。

 切られたクーラーの余韻が残る、炎天下よりは涼しい教室の中。終わったなぁ、という達成感の中、私は浅くため息をついた。

 ……高校生になって二度目の夏休みを迎えようというのに、まるで心が躍らないのはどういうことだろう。いや、休み自体は歓迎なのだけれど……。

「にーじかっ。明日から休みだって言うのに、何浮かないツラしてんのさー?」

 クラスメイトもまばらになったころ、ぼうっとしていた私に話しかけてきたのは、大きな胸だった。違う。

「……おー、きりりんさんや」

 話しかけてきたのは、この高校唯一の友人と言ってもいい、白砂霧(しろすな きりだった。

 髪はサイドテールでまとめていて、運動能力は非常に高い。顔立ちも可愛いというよりは凛々しい感じで、しかも背も高いからヅカ的な劇団に入れば男役間違いなしの逸材だ。

 しかし男装をするには、非常に大きな山が胸元にあるわけで……。

 すっ、と手を伸ばすとぺしん、と叩かれた。

「こら、こんな場所で何をする気なのさ」

「いやぁ今日も自己主張の激しいお胸様だなぁと」

「手を伸ばした理由を聞いてんの」

「もみもみ」

「せめて時と場所を弁えろ」

 ツッコミの口調は荒々しく。今日も霧スタイルは絶好調だ。

 触ること自体には条件付きで許されているあたり、私は結構仲が良いと思う。

 教室で会話をすることは、実はそんなにないのだけれど。人との会話が非常に苦手な私と違い、霧は社交性にも優れている、みんなの中心に立っているタイプの人間だ。

 とにかくさばさばしていてかっこいいので、女子受けはいいし、男勝りな性格と乳も相まって男子人気も結構高い。噂では週に二、三回告白を受けているそうだが、真偽のほどは不明である。

 そんな霧と私が会ったのは高校一年の春が初で、話しかけてきたのも向こうから。最初はその爽やかな雰囲気……つまりは私みたいな人間とは真逆の雰囲気から「なんだこの野郎」と思いはしたが、話してみると良い奴なのは分かったし、なによりなんだか話しやすかった。

 あと友情の証に胸を触らせてくれと頼んだらやや恥ずかしがりながらも胸を突きだしてきたので、以降私は彼女に悪感情を持てなくなった。触りはしたけどね。

 胸も懐も器も大きい友達。それが私が白砂霧に抱いているイメージだ。

 蛇足として、その直後に私も彼女に触られていることを明記しておく。……あ、当然両方とも服の上からだからね。さすがに直だと、霧はともかく私の理性が持たない。

 まぁなにはともあれ、霧と仲のいいクラスメイトは数いれど、乳繰り合うような奴は私ぐらいしかいまい、と器の小さい下品な優越感に浸っているのは内緒だ。

「で、霧。そういえば何用で?」

「あーそうだった。まず、これ返しとくね」

 ほい、と渡された青いビニールの袋。中に入っているのは、私が霧に貸したライトノベルだ。

「面白かったよ。ありがと」

「んむ、どういたましてー」

 このラノベの貸し借りは、まだお互いを苗字にさん付けで呼んでいたころに始まった。私の趣味がライトノベルだと知った彼女が、「じゃあ何冊か好きなやつ貸してよ」と言ってきたのが始まり。その時の霧の言葉は今でも割と印象に残っている。

 好きなやつ、と言われても、それがそっちの趣味に合うかは分からない――だからどんなのが好きなのか、と訊き返そうと思ったところで、彼女は言ったのだ。

『黒原さんの好きなやつでいいんだよ。黒原さんの好きな物を知りたいの。その方が、そっちのことをよく知れそうじゃん』

『それに、それを読んで面白いって思えたら、きっと黒原さんとは仲良くやれそうな気がするからね』

 今思い返しても、拝み倒したくなるほど後光が差していた。

 果たして、どうやら私が選んだ私の好きな物語は霧の趣味にも合致したらしく、今でもこうして、私チョイスのラノベを彼女に貸したりしている。極々稀に、逆に彼女が貸してくることもあるんだけどね。

「ん? でもまずってことは、本命がおありで?」

「ん、そういうことなのです。ねえ、虹華」

 前髪を指の甲でかき上げながら、霧が前屈みになる。豊かな胸がゆさっと揺れて、魅力的な鎖骨のラインに目を奪われた――が、続いた霧の言葉に、私は目を丸くして驚くこととなった。


「あんたさ、同人サークルって興味ある?」


「…………なんだって?」

 霧の口から飛び出るには、少々ならず非現実的な言葉を耳にして、私は思わず訊き返してしまった。



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