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キラーハウス狂騒曲  作者: 日暮晶
19/74

第18話 灰森ときわの恋愛事情

サブタイトルをご覧のとおり、今回の語り部は合法金髪ロリのときわさんになってます。

それではどうぞ。


 意外なことになったなぁ、とわたし――灰森ときわは、集会所となっているアパートの一室で考える。

 まさか小野木くんを好いている虹ちゃんが、わざわざヘッドを誘うなんて。

 というか、霧ちゃんも交えてお互いに誰が好きとかって話し合いをした直後にアレは正直ないと思う……まぁ、虹ちゃんにヘッドに対する恋愛感情はまずないと思うけど。

 今頃何をやってるのやら、とクーラーの効いた部屋から窓の向こうを眺める。今日は非常にいい天気。ここに来るまでもすごく暑かった。

 ――特に用事がない日は、わたしはここにきてひたすら絵を描いている。

 今だってそうだ。さらさらと、ペンタブを使いながらイラストの練習中。

 男の子。女の子。いろんな角度からの顔。構図。背景。そして色――

 時々、本棚からライトノベルを一冊拝借して、「ここ」と思うシーンを描いてみたりもする。

 わたしの将来の夢は、イラストレーターなのだ。

 だから練習に熱が入る。

 どちらかと言えば、安定して食べていける職業とは言い難い。親に言ってもまず間違いなく反対されるだろう。だから家ではそんなそぶりを全く見せていない。わざわざ家を離れてここで練習しているのもそのせいだ。

 親に見つかると結構うるさいから。

 今時「大学ぐらい出ておきなさい」とか言っちゃうあたりで、もう頭の中の時代の古さが伺える。このご時世、大学出たって就職できるかも怪しいのに。

 だから、大学を出る前に一定の成果を叩きつける。そうすれば文句も言われない。

 最悪、大学の間でどうにもならなくても、親にうだうだ言われない程度のところで働きながら、イラストを描き続ける。

 そう考えていたわたしにとって、霧ちゃんからの誘いは渡りに船というやつだった。

『キラーハウス』に入れば、こそこそと絵を描く必要も、念入りに隠していく必要もなくなる。堂々と、好きなだけ、わたしは自分の絵を描ける。

 そう、霧ちゃんに誘われた当時のわたしは、ここを『絵を描くための場所』としか考えていなかったのだ。

 彼に、会うまでは――

「――おっ、やっぱりいたか」

「あれ、じゅんたくんじゃん。どうしたの~?」

 そろそろお腹が減ったなぁ、と思った頃。

ひょこ、と玄関に通じる扉から顔を出したのは、このサークルの雑用係、もとい大黒柱の中峯隼太郎くんだった。

「ん……特にどうしたって用事もないけど、ときわがいるかなと思ってさ」

 その苦笑には、予感的中と書いてあった。

「昼飯は?」

「当然用意してないよ」

 ここでの時間は、わたしにとってすごく貴重なものだ。ご飯を食べてる時間があるなら絵の練習をしたいと思うのは、至極当然のことだった。

 用意してくれるなら、別だけど。

「だろうな……」

 苦笑が深まり、呆れ顔に半分足を突っ込んだ。

 そんな彼へ、わたしはついでに甘えてみた。

「シェフ、わたし、今日はオムライスが食べたいなぁー」

「オムライス? 地味にチキンライスが手間取るんだけど」

「時間かかってもいいから」

「やれやれ……承りましたよ、お嬢様。じゃあちょっと材料買ってくる」

「やったね!」

 苦笑を浮かべたまま、じゅんたくんが姿を壁の向こうへ消す。

 ――じゅんたくんが今日来たのは、偶然というわけではない。以前もこうやって集会以外の日にここへきて、ご飯も食べずに丸一日ぶっ続けで絵の練習をしていたら、ぶっ倒れてしまったのだ。

 そこをじゅんたくんに発見され、介抱された。以降、集会のない日でもじゅんたくんはこうして様子を見に来てくれたりするのだ。

 面倒見が良過ぎて、本当に頭が下がる。

 意外性もへったくれもないけど、こういうところにわたしは惚れたのだ。

 しばらくして、じゅんたくんがエコバッグ片手に戻ってきた。

「ただいまー」

「おかえりー。今日はいくら?」

「三百円ってとこかな」

「うぃー」

 財布の中から硬貨を三枚抜き、手渡した。「確かに」という言葉と共にそれをしまい、彼は指を鳴らしながら狭いキッチンへと向かう。

 買ってきた分の材料費は、わたしの分だけなら全額、じゅんたくんも食べるときは半分出すことになっている。作ってもらうだけでもありがたいのに、これでおごりとかだとさすがにわたしのほうが気兼ねしてしまうからだ。

 そういう意味でも、甘えやすいんだよね、じゅんたくんって。自分が不利益にならない程度の一線は引いてくれているというか。

「さて、やりますか」

 野菜を切る音が、蝉の鳴き声と一緒に部屋の中に反響する。

 背景の書き込みが増えるにしたがって、バターの匂いも部屋の中に漂う。不覚にもお腹が鳴った。

「……料理中の匂いってなんでこんなに胃を刺激してくるかな……」

 食べ物がなければないで大して反応しないくせに。

「もう少し待っててくれなー。じきだから」

「はーい」

 しばらくして、背景の書き込みが終わったところで。

「できたぞー」

「待ってましたー!」

 絵を保存して、ペンを置き、わたしはちゃぶ台に向かう。

 ほこほこと湯気を立てている、黄色い楕円がわたしを待っていた。

「ほわー……じゅんたくんってホントに料理上手だよね?」

「うちだと一人の時が多かったからな。まぁ暇つぶしに始めたのが意外と性に合ってただけだろ。ま、冷めないうちに召し上がれ」

「いっただっきまーす」

 銀色のスプーンでとろとろの卵を突き破る。中からは刻まれた野菜と、赤く染め上げられたご飯が顔を覗かせた。

「はむっ……ん~ふふ~♪」

 バターのいい香りが口いっぱいに広がって、卵のとろっとした質感が舌を撫でる。噛めばケチャップの風味をまとったご飯と野菜が、口の中で踊りまわる。呑み込んでからも口に残る余韻に、ほふー、と満足なため息をついてから叫ぶ。

「おいしい! シェフを呼べー!」

「目の前にいるよ」

 自分の皿のオムライスを食べているじゅんたくんが、微笑ましい顔でわたしを見てくる。

「むー……じゅんたくん、わたしのこと年下に見てない?」

「い、いや、そんなことはないけど……俺ら同い年だしな」

 さっきの視線がなんとなく引っかかっていたわたしは、ちょっと攻めた発言をしてみた。

「じゅんたくん、ロリコンなの?」

「ごふっ」

 じゅんたくんが噎せた。……ん? これは一体どういうことなんだろう。

「いやあの……俺はロリコンではないよ」

「……だよねー」

 この発言には、ちょっぴりへこんだわたしである。

 だってロリコンではないってことは、わたしのちんちくりんな見た目じゃお眼鏡にはかなわないってことでしょ?

「じゃあ、じゅんたくんは年上の方が好きなの? ばいんばいんが好み?」

「……黙秘権を行使します」

 すぃ、と目を逸らすじゅんたくん。むむっ。このぐらいの話もしてくれないとは、わたしが思ってるほど、わたしはじゅんたくんと仲良くないのかな?

 それはそれで、またへこむなぁ。

「じーっ………………………………………………」

「…………いやあの、女子相手に自分の好みを伝えるというのは男子的に中々ハードルが高いんだけど」

 何としても聞き出してやろうと無言で見つめるわたしの視線に根負けしたように、じゅんたくんがそう伝えてくる。

「いいじゃん。言いふらさないよ」

 自分だけの秘密にして、できるならそこに近づいてあげるからさ。

「……外見、もなくはないけど」

「ばいんばいん的な?」

「なんでそこにこだわるのかな? 体よりも顔かな、個人的には……こういうことあんま言えないけどさ」

「いやー、中身がよければとかってお茶を濁すより好感度高いと思うよ? でもそっかー、面食いかー」

 ……化粧水とか、お肌を守るアイテムを買おう。

「……頼むから口外しないでくれな。面食いってのはその通りだけど外聞があまりにもよくないから。別に中身がどうでもいいってわけじゃないし」

「中身ってばいんばいん的な意味で?」

「性格的な意味です。極論体つきはどうでもいいっていうか……まぁいいじゃん、この話はさ」

 照れてしまったのか、パクパクとオムライスを再び崩し始める。なんでもないそんな反応も、なんだかちょっと微笑ましかった。

 オムライスが冷めてももったいないので、わたしもパクパク食事を再開。

「ごちそうさまー」

「お粗末さまでした」

 食べ終わる頃には、じゅんたくんの様子もすっかり普段通りに戻っていた。

 掘り返してもよかったけど、今はいいかと考える。

 じゅんたくんの趣味嗜好が分かっただけでも、今日の戦果は十分だ。

「…………」

 十分、のはずだった、のに。

 かちゃかちゃと後片付けをしているじゅんたくんの後ろ姿を見ていると、急激に、今は二人っきりだと意識してしまって。

 訊くつもりのなかった――今までなんとなく、訊くに訊けなかった質問が、口からぽろっとこぼれ出た。


「じゅんたくんってさ、どんな人と付き合ってるの?」

「えっ……別に付き合ってない、けど?」


 …………?

「え、彼女いないの?」

「なんで俺みたいなのにいると思ったのさ?」

「……べっつにぃ」

 惚れてるわたしがバカみたいな発言にはちょっとイラッとしたけど、でも、そうか、いないのか。

 …………ふぅん、へぇー……そっか。

 どうやらわたしにも、まだチャンスはあるみたいだね。

「っていうか、どうしたんだよ……急にそんなこ――」

 じゅんたくんが何かを言い切る前に。

 玄関のドアが開いた音がした――誰だろ、と思って玄関から顔を出す。

「あれ? 珍しい組み合わせだね」

 玄関に立っていたのは、霧ちゃんと小野木くんだった。

「余りもの同士で遊んできたの?」

「おいおい、ときわ。さすがにそれは酷いと思うんだけど……って、何があったんだ?」

 後ろから呆れ顔でやってきたじゅんたくんが、来訪者二人の顔を見て驚いた。

 二人そろって、真夏の炎天下を歩いてきたとは思えないほど、顔面蒼白になっていたからだ――なんなら肝試しでもしてきたんじゃないかというほどに。そんな顔のまま、小野木くんが呟く。

「き……」

「き?」


「キラーハウスが、なくなっちゃうかもしれないです……」


「…………」

「…………」

 言われた言葉の意味が分からず、わたしたちはしばらく絶句して。

「「はぁ!?」」

 そんな絶叫がやまびこのように、少し遅れてやってきた。



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