第13話 黒原虹華のガールズトーク(前編)
「――キラーハウスに入った順番?」
――『コミックラフト』閉幕から一週間が経ち、ぼちぼち世間もお盆に入ろうかという夏真っ盛りのある日。
私はクーラーの効いた『キラーハウス』の集会所で、先週手に入れた『シャイニーリング』の同人誌をめくりながら、かねてから気になっていたことを霧に訊ねてみた。
「うん。なんていうか、面子を考えてもちょっと不思議に思っちゃって。そもそも、霧がこういう場所に縁があったこと自体結構驚いてたんだけど」
「え、そうだったの?」
「だって、私みたいなコミュ症で根暗でいてもいなくてもいいぐらいのぼっち系女子ならともかく、霧みたいにはきはきしててルックスもイケてる交友関係の広い女子がこっち側関連のサークルに入ってるって、ぶっちゃけ何かがおかしい」
「ひっどい偏見……」
「あ~、虹ちゃんの言うことも少しわかるかなぁ」
ペンを動かす手を止めて話に入ってきたのは、部屋の中にいたもう一人――絵の練習にと来ていたときわさんだ。ちなみに本来この部屋の主であるヘッドは、今日はバイトがあるとのこと。夕くんと中峯さんは今日は特に用事がないらしく、部屋へは来ていない。
合鍵は一応メンバー全員持ってるから、好きな時に出入りすることが可能だ。
「わたしもどっちかっていうと虹ちゃん寄りの人種だからね。子供扱いとかマスコット扱いが鬱陶しくなって、人付き合い避けてたら友達ほとんどいなくなっちゃってたし」
話を聞く限り、ときわさんはコミュニケーションが苦手とかではなく、人付き合いを面倒だと思うタイプの人のようだ。
「でもときわさんはまだいいですよ。見た目可愛いんですから。私みたいに見た目根暗で目が死んでるとかだと救いようがないですよ? 絶対周りからひそひそ言われてる……」
「もー、虹華は自己評価が低すぎるよ」
呆れたように霧が言う。
「虹華が思ってるほど、みんな人の陰口なんて言ってないよ?」
「……そりゃあんたの前ならねぇ……」
そんな度胸のある奴なんていないだろう。霧は交友関係が広い一方、陰口などをことのほか嫌う。この明るくはきはきしたクラスメイトは、陰湿なのが大っ嫌いなのだ。霧なのに。
『言いたいことがあるなら直接言ったら?』というスタイルを地で行く彼女だ。実際、一年の時にその件でひと騒動起こしたこともある。
逆に、喧嘩等でも真っ向からのぶつかり合いなら、霧はむしろ笑顔でそれをひとしきり眺めてから仲裁に入る。江戸っ子みたいなやつだな、と思ったことは一度や二度ではない。
「っていうか、いろんな人と付き合いがあるんだから、こういう趣味の人たちと会うことだって普通にあると思うけど」
「んー……まぁそれは確かにそうか」
霧の交友関係の広さを考えればない話ではないし、こっち側の人間だって消極的なのばかりでもない。そういうのと噛み合って、今があるのかもしれない。
「……あれ、そもそもこれ何の話だったっけ?」
「『キラーハウス』のメンバーがどの順で入ったかって話でしょ?」
「おお、それそれ。忘れてた。で、どうなの?」
「あたしの知る限りだと、まずヘッドでしょ。それから中峯さん、あたし、ときわちゃん、小野木くん、んであんた」
霧が指折り数えて、順番に名を上げていったのを聞き、少なからず驚く。
「霧って三人目だったの? 結構古株じゃん」
「って言っても、虹華を除く五人はほとんど同時期だよ? 小野木くんがときわちゃんの一か月あとに入ったぐらいで」
「へぇー……で、霧はどこでヘッドと知り合ったの?」
中峯さんとどこかで知り合った、って可能性もあったけど、そっちはあえて切り飛ばす。普段やこないだの打ち上げの時の様子を見るに、霧と親しいのはどう考えてもヘッドの方だったからだ。
さて、どんな答えが返ってくるか――と柄にもなく緊張していると。
「どこでもなにも、あたしとヘッドって幼馴染だし。昔からの知り合い」
「………………………………はい?」
ぱちくりと瞬きをしながら、私は思わず訊き返した。
「霧と、ヘッドが? おさ……な、なじみ?」
「うん。うちも近所だし……って、何その顔。そんなに驚くこと?」
きょとんとして首を傾げる霧に対して、私はおののきながら後ずさる。
「そんな……まさかこんな近くに、都市伝説が……!」
「都市伝説ってなに。そんなに珍しいものでもないでしょ」
肩を竦めた霧だけど、私は思わず立ち上がって叫ぶ!
「珍しいに決まってるでしょ!? 馬鹿じゃないの!?」
「そこまで言うことかなぁ!?」
思わぬところで馬鹿呼ばわりされて、霧もびっくりしたらしい。
「言うことだよ! びっくりだよ! 年頃の男女の関係性で幼馴染なんて、あんなのフィクションの産物でしかないと思ってたよ! リアルで遭遇する確率なんて宝くじが当たるよりも低いと思ってたのにこんなに近くにいるなんて!」
「あんたのその幼馴染という関係性に対する感情はなんなの!?」
「ほら~、幼馴染ってラノベとか漫画だとよくある関係性だけど、実際ってあんまり見ないでしょ? 大体は幼馴染って言っても、小中高と上がって行くたびに関係性が希薄になるものだし」
さすがときわさん、私のこのテンションの理由をよくわかっていらっしゃる。
ツチノコにでも遭遇した気分なのだ、今の私は。怒っているわけでも喜んでいるわけでもなく、ただただテンションが高くなっている。謎の気分である。
「えぇ……それはまあ確かにそうだけど……」
「あ、ちなみにね」
未だ謎のテンションの私に、ときわさんが追い打ちをかけるように言った。
「わたしと霧ちゃんもいとこなんだ~。その繋がりでここに来たの」
「はぁぁぁぁぁぁぁぁ!?」
衝撃のカミングアウトに、今までに出た事のないような声が出た。
な、な、な……
「いとこって――嘘でしょ、この身長差で!?」
「喧嘩を売ってるってことでいいのかな?」
しまった口を滑らせた……っ! でもこれは仕方がないと思う! だっていとこってあれだよ、親同士が兄弟関係にある四親等の血縁だよ!?
男子と比較しても高身長の部類に入って、なおかつプロポーションも抜群の霧と、大学一年にもかかわらずお人形さんのように小柄でぺったんこで可愛らしいときわさんの間に、血の繋がりがあったなんて……!
「ふふふっ、ねぇ虹ちゃん。言いたいことがあるなら言ってもいいんだよ……?」
どこから取り出したのか、あやとりをくいくいしながらブラックときわさんが目を光らせる。すっごい、同じセリフでも霧がいうのとときわさんが言うのとではこんなに差があるなんて。
無論、その言葉が意味するところは多分全く違う。
『言いたいことがあるなら言ってもいいよ。ただ、それが遺言になるから覚悟してね』という意味合いを孕んでいる気がしてならない。
言われるがまま口に出せば、私は死ぬ!
「そ、そういえば!」
なので私は全力で話題を転換にかかる。こんなところで絞殺なんてごめんだからね!
「――霧ってヘッドのこと好きなの?」
「ぶふぁっ! ぃぎっ! 痛ったぁぁぁぁぁ!?」
ちょうどお茶を口に含んだでいた霧は、それを盛大に噴き出しながらちゃぶ台のふちに膝を打ち付け、痛みのあまり床を転げ回った。
……あ、これもう確定ですわ。




