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キラーハウス狂騒曲  作者: 日暮晶
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第9話 黒原虹華の察し


「うぅ……どうしてこんなことに……」

 ――『コミックラフト』開催当日。

 開場まであと二十分といったところで、私たち、『キラーハウス』に宛がわれたブースで、夕くんが嘆くように口にした。

「大丈夫よ、似合ってるから」

「虹華さん、男の僕としてはその評価は大変不本意です!」

 涙目で言い返してくる夕くん……神様っていうのはいるんだなぁ、と私は空へ両手を合わせる。

 ――さらさらとした茶色の長髪、頭を飾るヘッドドレス。

 クラシックなロングスカートのメイド服を着た彼は、今や完全に女の子と化していた。元々の可愛らしい顔立ちと相まって、それはもう私としてはキュンキュンパシャパシャしてしまう。

「ちょっ、虹華さん! 写真を撮るのはやめてくださいよ!」

「えー。ちょっとぐらいいいじゃない」(パシャシャシャシャシャ)

「連写はもっとやめてください!? に、虹華さんも一緒に入るというならいいですけど!」

「むぐっ……」

 なんて交換条件を出してくるのかしら、この子は。

 今の私の姿を、写真に残せって?

「いいじゃん、それで写真撮らせてくれるなら、一緒に入れば? 虹華」

「霧……あんた、自分は関係ないからって好きなこと言って……」

 横から声をかけてきたのは、私と同じミニスカートのメイドコスを身に纏った霧だ。

 明るく活発な元気メイドといった感じで、特に胸元の盛り上がりが非常にけしからん。さっきから少なからず、設営準備をしている男どもの視線が集中している。

 だが当の本人はそれに気づいていないのか気にしていないのか、からからと笑う。

「ん、だったらあたしも一緒に写ってあげるよ。それならいいでしょ?」

「あんたは私を殺す気か」

 霧はスタイルもいいし、顔だちも可愛い。このちょっとアレなメイドコスもちゃんと似合ってる。それに引き換えあたしは死んだ魚の目で愛嬌がなければスタイルも大してよくないし……勝手に引け目を感じるあたりは、一応私も女をやめてないんだなぁとぼんやり考える。

「写真撮るの? それじゃあわたしが撮ってあげるよ~」

 のんびりとそう言ってスマホを取り出したのは、これまたミニスカメイド服に身を包んだときわさん。

 私を含めた女性陣の中では最も体の起伏が少ないときわさんではあるけれど、私ではどうあがいても出せない可愛さを持つ彼女は、メイド服に身を包んだことでその可愛さがより際立っている。

「――いや、その手の雑用なら任せてくれ。ときわも入るといい」

 ひょい、とときわさんの手からスマホを取り上げたのは、ここへきてからバタバタとあちこち駆けずり回っていた『キラーハウス』の縁の下の力持ち、中峯さんだ。

「あ、中峯くん。お疲れ様~、もうやること終わったの?」

「お釣りの用意も運営側への見本の提出もみんなの飲み物も商品の運び込みも合同の設営準備手伝いも全部終わったよ」

 ……もはや縁の下どころか大黒柱なんじゃないかしら。

「お、お疲れ様です……そういえば、ヘッドはどこに行ったんですか?」

「ああ、ヘッドならそこにいるよ」

 中峯さんが指差した先は、別のサークルのブース。

 そこに、いた。

「今日こそは悔しさでハンカチ食いちぎらせてやるぜ、『シャイニーリング』!」

「言ってなさい、今日も遠吠えしてるといいわ、『キラーハウス』!」

 なにやらよそのサークルの代表らしき人とバチバチやってるヘッドが。

「……あいさつ回りに行ってたはずなんだけど、よりにもよって『シャイニーリング』が近くにあったか……」

「シャイニーリング?」

 聞き返した私に、こくりと中峯さんが頷く。

「同人サークル『シャイニーリング』。天使の輪がシンボルで、主人公とヒロインの王道イチャラブ系同人誌を主に製作しているんだけど、あっちの代表がヘッドと同じ学部の人でさ。名前は確か、輪堂天音さんだったかな」

 明るい赤系統の髪の毛は結構長く、後ろできゅっとまとめられている。しかし癖っ毛なのか、あちこちがぴょこぴょこと飛び跳ねているポニーテールは棘だらけのしっぽのようだ。真正面から手を組み合っているじゃじゃ馬感に反して、体はかなり女性らしい丸みを帯びている。主に胸が。チッ。

「同じ学部って……お友達か何かですか?」

「んー……俺も常日頃から一緒にいるわけじゃないからあんまり詳しいことは知らないんだけど……」

 必死の形相で腕をぎりぎりと押し合う二人の様子を見て、中峯さんが苦笑する。

「俺にはあれが友達のやり取りには見えないかな」

「あぁ……確かに」

「ただ売り上げ勝負はあっちの方に軍配が上がってるんだったかな。そのあたりのあれこれがあって、ヘッドと輪堂さんの関係がややこしいことになってるんだと思う」

「あー……」

 意外と子供っぽいところもあるんだなー……ん?

 ふと、私は気づく。

 なんだか、霧が少し……変わった表情を浮かべていることに。

 それはまるで、お気に入りのおもちゃを取られた子供のような表情だった。

 ……おやおや?

 これはもしや、ひょっとして……?



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