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底辺冒険者vs闇ギルド⑪


『――ユーヤ……』


 誰かの声が聞こえる。


『――ユーヤ……ユーヤ……』


 うるさいなぁ。

 そう思って耳を塞ごうとしたけどなぜか体が動かない。


『――ユーヤ! ユーヤ!』


 その間にも謎の声はどんどん大きくなっていく。

 そして――


「――ユーヤッ!!」


「はっ!?」


 俺はようやくそこで目を覚ました。

 視界に入ったのは見知らぬ天井と――傍らで心配そうに俺を見つめるエルだった。

 俺はどうやら仰向けに寝かされているらしい。いつものベッドより感触が柔らかいことと嗅ぎ慣れない薬品の匂いから察するに、ここは施療院の一室だろうか……。

 ふとエルの大きな青い瞳と目が合うと、波のような揺らめきとともにその瞳がより一層大きく見開かれた。


「み、みんなッ! ユーヤが起きたー!!」


 俺が目覚めたことに気づいたエルが大声を上げながらどこかへ走っていく。

 俺は首を動かしてエルの行方を追おうとしたが、首どころか体全体がまるで自分のものではないみたいにピクリとも動かない。辛うじて動くのは目線くらいだった。

 一瞬再起不能の大怪我を負ったのではないかと肝を冷やしたが、不思議と痛みはないし、何より体の感覚はちゃんとある。


「ユーヤさんッ! 良かった……このまま目覚めなかったら私、どうしようかと思ってました……」

「ユーヤッ! 心配しましたよ! これもチームワークが呼び込んだ奇跡ですね!」


 アリシアとランが、俺の視界を遮るように顔を出してきた。アリシアが今にも泣きだしそうに目を潤ませている隣で、ランは相変わらず訳の分からないことをしたり顔で言っている。

 エルもその後ろから顔を覗かせる。


「みんな心配してたんだからね! ユーヤったら、ケガもないのに死んだようにずっと眠ったままなんだもん!」


 頬を膨らませながら怒るエルに、ランが微笑み混じりに言葉を継ぐ。 


「と言っても、この中で一番心配してたのはエルですけどね」


「ちょっ、ランちゃん! それは言わない約束でしょ!?」


「そうでしたっけ? 忘れました」


 ランはあたふたするエマの反応を面白がるようにくすりと笑った。

 そんな2人のやり取りを見て、アリシアも泣きそうだった顔をほころばせる。


「エルさんはユーヤさんがいつ目覚めてもいいように、ずっとベットの傍で看病したり、ご飯を食べたり、寝てたりしていたんですよ」


「3分の2はいつもと変わらねえ……」


 本当に俺のことを心配してくれているのか不安になりそうだったが、ひとまず3人に大きなケガはないようだったので少し安心した。

 問題は――


「――闇ギルドの連中はどうなったんだ」


 そう、確かあの後アジトの巨大ゴーレムが崩れて……ってあれ? そのあとどうなったんだっけ?

 そもそもなんで俺たちはあの高さから落下して無事だったんだ?

 俺があれこれと頭の中で疑問符を浮かべていると、


「ユーヤ、もしかして覚えてないの……?」


 エルが先ほどとはまた違った種類の驚きとともに尋ねてきた。その声音は困惑の色が混ざっているようにも聞こえる。


「ああ。床が崩れた瞬間から記憶がない……。教えてくれ。俺たちはあの後どうなったんだ?」


 俺が静かに尋ねると、エルはがいつにもなく真面目な顔で言った。


「私たちはユーヤに助けられたんだよ」


「は? 俺に?」


 その答えに俺は思わず聞き返してしまった。

 頑張って思い出そうとしても、記憶の隅にも引っかからない。

 いったいどういうことなんだ。


「そうだよ。ユーヤは覚えてないみたいだけど、アジトの床が崩れてみんなが外に放り出されたときにね、ユーヤが<<変化(トランス)>>で、こぉーんな大きなクッションに変身してみんな助けちゃったんだよ!」


 エルが大げさな身振り手振りで興奮混じりに話す。

 だが、その話を聞いて俺はますますわからなくなった。


「みんなって、闇ギルドの連中もか?」


「そうだよ! あ、でも、闇ギルドの人たちは外で待機してた役人の人たちに捕まえられちゃったけどね。シャルローゼちゃんも無事だったよ」


「待て、それはおかしい。だって近くにいた俺たちだけならともかく、広間にいた人間全員を包み込めるような大きさの物に<<変化(トランス)>>できるわけない」


 俺の能力の1つである<<変化(トランス)>>は、生き物以外になら基本的に何にでもなれるが、その大きさには限度がある。前にどこまでの大きさの物に変身できるか試したが、せいぜいがタテヨコ俺の身長くらいのサイズにしかなれなかった。

 だから、俺一人であの範囲を全てカバーできたなんて嘘だ。


「確かにユーヤは私たちの前でクッションに変化して皆を救いましたよ。その代わり、ユーヤだけが落下の衝撃をもろに受けることになってしまいましたが。ですが不思議なことに、スキルの効果が解けてユーヤが元の姿に戻ったときには目立った外傷は見当たらなかったんです」


「はい。ランさんの言う通り、ユーヤさんはボロボロの状態だったのにケガはかすり傷程度で大したことはなかったです。ただ、呼びかけても全然目を覚まさなかっただけで……」


 アリシアが不安げに呟く。


「う〜ん……だが、俺一人の魔力量じゃ頑張ってもこのベットの大きさくらいにしかなれない――待てよ、今『俺一人の魔力量じゃっ』て言ったか!?」


「いやユーヤが自分で言ったんでしょ」


 エルが呆れた様子で言う中、俺はふと"ある物"の存在が気にかかった。


「神魔水晶は? 神魔水晶の欠片が今どこにあるかわかるか?」


「あの闇ギルドの人間が体に取り込んでいた、アレですか? それについては今ギルドの方で調査中とのことです」


 俺の問いにランが答える。


「違う。俺がシャルローゼの体から取り除いたやつのことを言ってる」


「シャルローゼの? あ……」


「ないんだな」


「な、ないってことはもしかして……!」


 顎に手を置いて考えていたアリシアがそこで顔をあげる。


「え、え、なにこの雰囲気? なんで急に真面目な感じになってるの?」


 エル以外は気づいたようだ。

 俺の限界を超えた能力の発動。そして、消えたシャルローゼの神魔水晶。

 1つの仮説を立てれば全ての辻褄が合う。


「俺が神魔水晶を取り込んだ、ってことなのか……?」


 心臓が震えるようにドクリと鼓動した。

全然1話で終わらなかった(笑)

多分次の次くらいで完結?

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