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低辺冒険者vs闇ギルド⑦


「ユーヤ、この娘を殺さずに無力化する方法があるんですかッ!?」


 驚くランに、俺は口元に微かな笑みを浮かべて答える。


「ああ。あそこのおしゃべりな黒マントのおかげで――って、あれ? あの黒マント、どこ行った?」


 俺は辺りを見渡す。あの他とは違う雰囲気を漂わせていた黒マントはまるで影に溶けてしまったかのように、音もなくその姿を消していた。


「黒マント? 黒マントならそこら中にたくさんいますが……」


「いや違う違う、さっきまで俺と話してたちょっと変な黒マントだよ」


「話してた? ユーヤはさっきからずっと一人でブツブツと呟いていただけでしたよ?」


「は? 一人で、ずっと?」

 

 そんなバカな。

 俺はエルに視線だけで問いかける。


「うん。ランちゃんの言うとおりだよ。1人でしゃべってて、なんか気持ち悪かった」


「感想は聞いてないんだが」


 おかしい。確かに俺はあの黒マントと話していた。

 もしや、俺にしか見えていなかったのか?


「ユ、ユーヤさんっ! それよりも早くその、殺さずに倒す方法を教えてください!」


「あ、ああ、そうだな」


 アリシアの声で我に返る。そうだ。今はシャルローゼを無力化させてアジトから脱出するほうを優先しなければ。


「エル。こいつをしばらくの間持っといてくれ」


「えっ!? あ、うん、わかった!」


 俺はエルにシャルローゼの体を預ける。シャルローゼは長時間に及ぶ泥だんご攻撃の末、すでに気絶していた。

 だが、いつ復活してゴーレムを動かそうとするかわからないから、早目に片付けよう。


「それで、このあとはどうするの?」


「俺が直接、神魔水晶を引き抜く」


「でもそれはわたしがさっきやって――」


「ああ。だから、引き抜く前に俺のスキルを使う」


「ユーヤの、スキル?」


 エルが頭に疑問符を浮かべるなか、その隣でランが得心ついたように声を上げた。


「そうだっ! ユーヤの『フェイカー』のスキル――《偽装》を使えば、神魔水晶の魔力を少しの間無効化することができる!」


「そういうことだ」


「へ? ど、どゆこと? アリシアちゃん、わかる……?」


 エルはまだわかっていないのか、アリシアに小声で助けを求める。

 やはりアホだな。


「多分ですけど、ユーヤさんの"物体を別の物に変化させる"スキルを使って神魔水晶を一瞬だけ……例えば石に変化させれば、その間だけシャルローゼさんとの魔力の結合を断ち切ることができる……ってことですよね?」


「そういうことだ。ただの石に変化させている間に、シャルローゼと神魔水晶を切り離す」


「なるほどねっ! そ、そんなことだろうと思ってたよ!」


 置いてきぼりをくらったエルが焦りを隠すように大袈裟に頷くと、


「じゃあ、はい! 早くやっちゃって、ユーヤ!」


 そう言って羽交い締めにしたシャルローゼの腹部を俺に差し出してきた。


『待て、お前ら! ボスに何するつもりだ!』

『くそっ! こうなったら強引にでも奴らからボスを引き離すぞ!』


 俺たちの怪しい動きに感づいた黒マントたちが、静観の構えを解き、己の武器をこちらに向け始めた。

 まずい。《偽装(イミテーション)》にはある程度集中力が必要になる。とてもじゃないが、攻撃を受けながらなんていう器用な真似はできない。


「ユーヤ! ここは私とアリシアにお任せを!」

「なるべく時間を稼ぎます!」


 ランとアリシアが応戦体制に入る。


「いや、その必要はない」


 俺はそれを落ち着いて制した。


「俺たちは安全な場所に移動する。できるな、エル?」


「へっ!? わ、わたし――?」


「そうだ。お前のマントを使って俺とシャルローゼを移動させてくれ」


「ユーヤ、バカじゃないの!? それはさっきやって無理だってわかったばっかりじゃん!」


 バカにバカと言われるとは……。

 俺は苛立ちを抑えながら言う。


「さっきやってダメだったのは外への脱出だろ。外部への魔力の干渉ができないだけってことは、この空間内での移動は制限されてないってことだ」


「へ、へぇ〜……そう、なんだ? で、それがなにか……?」


「やっぱりバカの称号はお前に譲る」


「なんでよっ!?」


 と、こんなことをしている場合じゃなかった。


「ともかくッ! お前は何も考えずに俺たちを《転送(テレポーテーション)》で移動させるんだ」


「移動って……どこに?」


「あそこだ」


 俺は広間の上部を指差す。

 そこには、シャルローゼが作り出した中型ゴーレムの頭部があった。中型と言っても、その大きさは俺たちの数倍はある。シャルローゼが気絶した今では、ただのバカでかい置物と化していた。


「そっか! あの高さなら相手の攻撃が届かないかも!」


「そうゆうこった。エル、さっそく頼む」


「オッケー任せてッ!」


 エルは自信満々にそう言い放つと、俺とシャルローゼを自分のマントで包み込んだ。


「《転送(テレポーテーション)》!!」


 エルのかけ声とともに、視界が転換する。

 次の瞬間には、俺とシャルローゼは広間の天井が近くに見える、ゴーレムの頭のてっぺんに着地していた。


「ユーヤ! 成功したよぉ〜!!」


 洞窟のような反響を伝って、下からエルの声が聞こえる。


『くそっ! あんな所に!』

『矢なら届くはずだ! 一斉に撃て!』


「「させませんッ!」」


 黒マントたちが攻撃をしかけようとするが、ランとアリシアによって妨害される。

 よし、これで作業に集中できる。

 そう思ってシャルローゼの方に目を向けようとしたその時。


「ゲホゲホッ! キ、キサマッ! よくも私を騙して泥だんごなんて食わせてくれたなぁ!」


 復活したシャルローゼが、口元から泥を垂らしながら襲いかかってきた。

 なんてタイミングが悪いんだ!

 俺はシャルローゼの不意打ちでバランスを崩す。


「何をしようとしてたが知らないが、お前たち……いや、あの街の冒険者は私が全員皆殺しにしてやるッ!」


 シャルローゼの怒気とともに、俺たちのいる広間全体が土の削れるような地鳴りをあげはじめた。

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