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底辺冒険者vs闇ギルド⑤


 饅頭と化した泥だんごは、黒マントたちが止める間もなく、シャルローゼの口内へと押し込まれる。

 シャルローゼは一瞬何事かと目を丸くしたが、食欲には勝てなかったのだろう、何の躊躇もなくその特大饅頭を受け入れた。

 そして、至福の表情でモグッと咀嚼した瞬間――顔色から血の気が失せる。

 次に広間に響いたのは、美味しさから生まれる嬌声ではなく、悲鳴にも等しいただの断末魔だった。


「もがぁぁぁっっっ!!!??」


 時限爆弾、もとい泥だんごがシャルローゼの口内で爆発した。


『貴様ッ! ボスにいったい何をした!?』

『やはり毒が仕込まれていたのか!』

 

 いいえ、ただ泥を食わされて悶絶しているだけです。

 黒マントたちが見当違いな反応をする中、俺は必死に泥を吐き出そうとするシャルローゼの口を手で抑え込む。


「フハハハハッ!! もがき苦しめぇーっ!!」


「ユーヤさん、これはちょっと……」

「さすがの私も擁護できません……」


 アリシアとランはそんな容赦ない俺の攻撃を見て、「うわぁ……」とちょっと引いた表情をしていた。

 いや、確かにやってることは『嫌がる幼女に無理やり泥だんごを食わせている』という、街中でやろうものなら即通報レベルの光景だけども。


「う、なんか吐きそう……」


 そしてエルはといえば、泥を口から溢れさせるシャルローゼを見て自分の口元とお腹を抑えながら、額にどんよりと黒線を立てていた。きっと泥の味が記憶から蘇ったのだろう。


『貴様ッ! ボスから離れろ!』


 黒マントの一人が矢をこたらに向けて威嚇してくる。

 だが、すでに形勢は逆転したも同然だった。


「お前ら。どういう状況かわかっていないようだから教えてやる」


『なにッ……!?』


「いいか、ボスの生死は今まさに俺が握っている。もう一発ボスの口に饅頭をぶち込まれたくなかったら、おとなしく俺の言うことを聞くんだな」


『くっ……なんて卑怯な……』

『正々堂々戦えッ!』

『このゲス野郎ッ!』

『ロリコンッ!』


 黒マントたちが口々に罵声を浴びせてくる。

 それを受けて俺は、もう一方の空いた手でゆっくりと地面の土をえぐり出して告げる。


「おい、言葉には気をつけろよ黒マントども。普段は温厚な俺だが、ちょっと手が滑った拍子にお前らのボスを泥だんごで腹いっぱいにさせることだってできるんだぜぇ? クックックッ」


『くそっ……!』


「もうどちらが悪者かわかりませんね……」


 ランが何か言っているが、お仕置きは後にしよう。

 今はこのゴーレムの腹の中からの脱出、そして二度と狙われないよう闇ギルドを壊滅、ないしは再起不能にさせなければ。


「まずは俺の仲間を解放してもらおうか」


 黒マントたちは渋々俺の要求に従い、エルたちを拘束していた縄を解く。

 自由になったエルたちが一目散にこちらに駆け寄ってきた。


「うわぁ〜ん! ありがとぉ〜ユーヤぁ〜!」


「とりあえず、ボス捕まえてみたけど……どうする?」


「いやそんな珍しい食材手に入れた時みたいに聞かれても」


 ランが呆れ混じりに言うと、横からひょこっと緑色のフードが顔を出す。


「ちゃ、ちゃんとボスとお話し合いをして穏便に済ませるのがいいと思いますっ!」


 アリシアはそう言うが……。


「モ、モグぉ…………」


 俺は手元でうめき声をあげる幼女を見やる。

 抑えられた口から絶え間なく泥を溢れさせ、半ば放心ぎみのシャルローゼ。白目を向いて醜態を晒しているその姿にボスの威厳など欠片もない。

 ここまでしておいて今さら穏便も何もないと思う。


「俺もできることなら穏便に済ませたいが、闇ギルドと関わってしまった時点でそれは難しいたろう」


「そんな……!」


「それにいつこの巨大ゴーレムが動き出して街を襲い始めるかわからない。そうなったら――」


「そうなったら……?」


「――王国と闇ギルドの両方から命を狙われる身になる」


「ゴフッ!?」


 アリシアがショックで吐血した。


「ちょ、ちょっと待って、とうしてそうなるのッ!?」


 エルが目を白黒させて俺に問う。


「お前はここに連れて来られるまでの出来事を忘れたのか? あいつら、自分のためなら迷わず生贄を差し出すような連中だぞ。きっと、街が襲われら俺たちのせいにするに決まってる!」


「わたしもついさっきユーヤに生贄にされたけどね」


「と、とにかく。俺たちが助かるには、この闇ギルドを壊滅させるしかない」


「か、壊滅って……どうするの?」


 困った。どうすれば壊滅するんだろうか。

 真っ向からやり合ってっていうのは無理だし。


「なぁラン。どうすれば壊滅すると思う?」


「どうしてそこで私に聞くんですか!?」


 ランが左右のお団子頭を器用に跳ねさせて怒る。


「いやだってさ、物とか人壊すの得意じゃん」


 主に仲間を、だけど。


「それに知ってるか? お前、巷では『破壊王』って呼ばれてるらしいぞ」


「なんですかそれぇっ!?」


 まあこいつは前に所属していた上級者パーティーを一人で壊滅させた前科もあるしな。当然の結果と言える。


「で、破壊王さん。壊滅はともかく、まずはこのアジトから脱出したいんだが」


「その破壊王の件はあとで詳しく聞かせてもらうとして……。そゔですね、このアジトはシャルローゼがスキルによって作り出した物らしいですから、彼女の魔力源を断ち切ればいいかと」


「魔力源……これか」


 俺はシャルローゼの剥き出しになった腹部を上から覗き込む。

 おへそをすっぽりと隠すように嵌められた神魔水晶の欠片が、周囲の光を奪い取るような冷たい光沢を放っていた。

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