底辺冒険者vs闇ギルド④
「やっぱりこうなるんだね……」
エルが諦観めいた薄ら笑いを見せる。
ジャンケンの結果、泥だんご係はエルに決まった。
やはりこういう損な役回りはエルが一番似合う。
「エルさん、ごめんなさい……」
「エル。これもチームワークのためなのです……」
横ではジャンケンに勝ったアリシアとランが、遠くへ行ってしまう友人を見送る時みたいな優しい目でエルを見つめていた。
俺は黒マントたちに気づかれないよう、エルにこっそりと耳打ちする。
「いいかエル。わかってると思うが、この饅頭は俺のスキルで偽装しただけの……ただの泥だんごだ」
「そんなのわかってるよぉ……」
「だが、お前はこの泥だんごを、あたかも本物の饅頭を食べているように演技しないといけない。もしお前が変なリアクションをして偽物だとバレたら、その時は確実にゴーレムの生贄全滅エンドだ」
俺がそう言うと、エルは決心したように力強く頷いた。
「おい! さっさと毒味を済〜ま〜せ〜ろ〜!」
お菓子を早く食べたくて仕方ないのだろう。シャルローゼがその小さい体とツインテールを不機嫌そうに跳ねさせる。
「うぅ……それじゃぁ……」
エルは震える手で俺から饅頭を受け取ると、
「いただきますッ!」
パクッと一気に口へ放り込んだ。
が、なかなか咀嚼しようとしない。
傷つけなければ匂いも風味も饅頭そのものなので、噛むに噛めないのだろう。少しでも饅頭に傷をつけた瞬間、口の中のそれは泥だんごへと姿を変える。
「おい、この金髪おっぱい……まんじゅう口に入れたまま全然動かなくなったぞ。……もしかして本当に毒が入ってたんじゃないだろうなぁ!?」
「そ、そんなことは決して! た、多分、せっかくだから味わって食べようとしているのでしょう」
「なんか涙流し始めてるけど」
「あれは嬉し泣きです」
シャルローゼの表情がどんどん怪しくなってくる。
「頑張ってください、エルさん!」
「ファイトです! エル!」
「おい、なんであの2人は金髪おっぱいを応援してるんだ」
見ればアリシアとランがエルの勇姿を目に焼き付けながら声援を送っていた。余計なことをするな!
「あ、あれは……饅頭を取られて精神が崩壊しかけているのでしょう」
「あのまんじゅうってそこまでおいしいのか!?」
ダメだ、もう嘘も限界だ!
なんだよ精神に異常をきたすほどの饅頭って!?
そんなもんあったら俺が食べたいよ!
俺は祈る思いでエルを見つめる。
すると、ふいにエルと目が合った。
エルは俺たちを順に見つめると、優しく微笑んで、諦めたように親指を立てた。
そうか、ついにやるのか。
これから違う世界へと旅立つ仲間を思い、俺たちも思わず親指を立てて健闘を祈った。
エルは満足そうに再び微笑みを返したあと、意を決したように目を見開くと――
ジョリっ……ジョリっ……
悲壮感を漂わせながら、咀嚼し始めた。きっと今頃エルの口内は泥の味で染まっていることだろう。
ここまで悲しい顔をされるとなんか申し訳なくなってくる。
「なんか噛むたびに砂っぽい音してるけど、大丈夫なのか?」
「大丈夫です。ほら、彼女のあの表情を見ればわかるでしょう?」
「『わかるでしょう?』って、すんごい涙流してるけど……」
「あの饅頭は精神と一緒に涙腺も崩壊させるんです」
見れば、エルは虚ろな目から滝のように涙を流しながら、無言で泥だんごを咀嚼し続けていた。雑草をパンに挟んで食べるという最低の食生活を更新した瞬間だった。
やがて、ゴクリと盛大な音を立てて、泥だんごはエルの胃へと飲み込まれていった。
「おい、金髪おっぱい。あ、味はどうだった……!?」
シャルローゼが興味津々でエルに詰め寄る。
エルはその声で遠のきかけた精神をより戻すと、不自然なほどに唇を三日月形にねじり上げ、
「大変美味で、おいしゅうございました……」
儚げな雰囲気を漂わす令嬢のごとく、丁寧な言葉遣いで感想を述べた。
口調が変わるほど不味かったんだな……。
能力の正体を知っている俺たちがエルを憐れむ中、そんな事情を知らないシャルローゼが喜色ばむ。
「おぉ、そうかそうか、おいしかったか! 見たところ体調にも変化はなさそうだな。……おい、毒味も済んだし、これで文句はないだろ?」
シャルローゼが黒マントを下から睨み上げる。黒マントも頷くしかないようだった。
「よし。ではそこのボサボサ頭。もう一度まんじゅうを作れ」
「承知致しました」
エルが人権を放棄してまで作り出したチャンス。逃しはしない。
俺は先程と同じように地面の土をかき集める。
「ボスには今よりももっと大きなお饅頭を作って差し上げましょう」
「マジか! やったー!」
喜んでいられるのも今のうちだ。特大の泥だんごを食らわせてやる。
俺はエルの時よりも数倍大きな泥だんごを整形し、スキルを行使する。
「《偽装》!」
シャルローゼの顔の大きさほどもあるそれは、みるみるうちに美味しそうな饅頭へと変化した。
辺りに甘い匂いが立ち込めてくる。出来栄えは完璧だ。
「おいしそー!」
シャルローゼが警戒心を解いて欲望のままにこちらに近づいてくる。彼女の瞳には饅頭しか映っていない。
「いつただきま――」
シャルローゼが饅頭を食べようと大口を開けたその瞬間、
「はいっ、召し上がれぇええぇぇぇッッッ!!」
俺は渾身の力を込めて、持っていた泥だんごをボールでも投げつけるみたいにその中へとねじ込んだ。




