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底辺冒険者vs闇ギルド③


「お菓子〜♪ お菓子〜♪」


 お菓子が貰えると知って大はしゃぎのシャルローゼ。

 俺はその様子を見て小さく口の端を歪ませる。

 闇ギルドのボスと言っても所詮はお子様だな。


「それではさっそく……と言いたいところですが、その前にこの縄を解いて頂けないでしょうか?」


 俺は今、両手足を拘束されていて動けない。しかもこの縄は特殊な魔道具らしく、スキルや魔法すら使えない状態だ。

 とにもかくにも、まずはこの縄から開放されないことには何も始まらない。


「よし、いいだろう。解いてやれ」


 シャルローゼが黒マントに命令する。

 指名された黒マントは訝しげな視線をこちらに向けながらもそれに応じた。


『妙な動きをしたら……わかってるな?』


 黒マントが縄を解きながら俺に耳打ちする。


「も、もちろんでございましゅ」


 俺は平静を装って答える。ふぅ、危うくビビり散らすところだったぜ……。

 黒マントによって縄が解かれ、ようやく見動きが取れるようになった。


「本当に土からお菓子なんて作れるのか?」


 自由になった俺に、シャルローゼがやや警戒心を強めて聞いてくる。

 もちろん俺にそんな便利な能力はない。あるのは対象の姿形を別の物に模倣するだけの不便な力だ。

 だが、今はそれで十分。

 シャルローゼを油断させて饅頭(泥だんご)を食べさせ、苦しんでいるそのすきに背後を取る!


「もちろんです。手始めにお饅頭を作って差し上げましょう」


「おまんじゅう!?」


 俺がそう言うと、シャルローゼが一気に目を輝かせた。

 因みになぜ饅頭なのかと言うと、一番作りやすい形で模倣しやすいからだ。

 俺は地面の土を一握り削り出して丸く固めていく。

 あっという間に泥だんごが完成した。


「では、いきます。――《偽装(イミテーション)》!!」


 俺の声に呼応して、手元の泥だんごが光を放つ。

 一瞬の発光をもって、手元の泥だんごは美味しそうな饅頭へと姿を偽った。


「おぉ!! 本当にまんじゅうだ!!」


 シャルローゼが歓喜の声をあげると、


「いっただきまーす♪」


 饅頭に手を伸ばす。

 よし、計画通――


『ボス、お待ちください!』


 もう少しで触れようかというところで、黒マントの一人が声をあげる。


『一応、毒味をしたほうがよろしいかと。この者はまだ信用に値しません』


 チッ、余計なことを!

 この作戦は一発勝負。俺の《偽装(イミテーション)》は姿形や匂いに至るまでほぼ完璧にコピーできるが、外部から衝撃を加えるだけでスキルの効果は解ける。

 もし毒味なんかされて黒マントの誰かが俺の模倣した饅頭を食べれば、その時点で効果は解け、すぐさまただの泥だんごだとバレてしまう。

 なんとしても阻止しなければ!


「や、やだなぁ〜! ど、どどど毒なんて入れてませんよぉ〜!」


 必死に動揺を抑える俺。


『お前、動揺してるな?』


 即バレした。

 なぜだ!?

 うぐっと言葉を詰まらせた俺に、黒マントが続ける。


『土から無限にお菓子を作れるんだろう? なら1つくらい毒味にまわしてもいいはずだ。……よろしいですか、ボス?』


「う、うむ。そうだな! ボスの私が最初の1個を食べる必要はないな、うん」


 有無を言わさぬ迫力をまとった黒マントに、シャルローゼが少し声を震わせて承諾する。

 これじゃどっちがボスかわからない。

 もうこの黒マントがボスになったほうがいいんじゃないか?


『では、ちょうだいする』


 黒マントの手が俺の饅頭へと伸びる。

 まずい。これを食べられたら俺のスキルの正体がバレてしまう!

 ど、どうにかバレずに済む方法はないか……!?

 俺は周囲の黒マントたちに気取られないよう、チラチラと辺りを伺う。

 とそこで名案を思いついた。


「あっ!」


『……どうした?』


 急に声を上げた俺に、黒マントが今度こそ疑心に満ちた冷たい視線を送る。

 殺気じみた雰囲気に気圧されながらも、ここで折れたら全てが台無しになるので、勇気を振り絞って提案した。


「毒味なら――こいつらにさせましょうか?」


「「「ッ!?」」」


 後ろで正座しながら縛られている仲間を見下ろしながら、俺はへりくだった調子でそう言う。

 急に矛先を向けられたエルたちは声にならないといった様子だったが、すぐさま俺の考えを読み取ったのだろう、今度は捨てられた子犬のような目で俺を見つめ返してきた。

 そんな彼女たちを無視して俺は続ける。


「毒味ならわざわざ闇ギルドの方々にやってもらわなくても、ここにいる奴隷たちを使えば十分ですから」


「誰か奴隷だッ!?」


 エルが我慢ならないといった様子で口を挟んできた。アリシアとランも頷きながら抗議の視線を送ってくる。


『なるほど。毒味はこいつらに任せればいいか』


 だが不服そうな彼女たちとは対照的に、黒マントは納得の表情を見せる。俺はその様子を見て胸をなで下ろした。

 我ながらナイス起点。

 わざわざ敵に毒味をさせる必要なんてない。

 仲間うちから1人、泥だんご饅頭を食べて「とても美味しかったです!」と満面の笑みで答える生贄を選出すれば済む話だったのだ。


「というわけだから、お前ら。ジャンケンタイムだ。勝ったやつにこの美味しい饅頭を食べる権利をくれてやろう!」


 真っ先にエルを指名しても良かったが、変に俺が指名して黒マントたちに勘ぐられるのも困るので、ここは公平を期すためにジャンケンで生贄を決めてもらおう。


「どうしても、やらなきゃいけないんだね……」

「負けられない戦いかここにあります……」

「これも、チームワークのため……」


 真剣な表情で向かい合う3人。

 三者三様それぞれ決意の言葉を口にして、縛られた両手をグーにして掲げる。

 そして、世にも悲しい泥だんご試食係を決める一世一代の大勝負が幕を開けた。


「「「ジャンケン――――ポンッ!!」」」

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