底辺冒険者vs闇ギルド①
唯一の脱出方法であったエルの魔道具が封じられた今、俺たちにできることはただ一つ。
それは――
「ほんとすいませんっしたああぁぁぁああああーーーッッッ!!!」
命乞いをすることだった。
「無駄なテイコーをしおって。今度こそお前ら全員まとめてゴーレムの生贄にしてやるッ!」
地に頭をつけて土下座する俺に、シャルローゼが無慈悲に言い放つ。
エルの魔道具による脱出を諦めた俺たちは早々に戦闘を放棄した。さすがにアリシアのみであの数の黒マントを相手にするのは無茶だったらしく、アリシアが魔力の使い過ぎ?で吐血したところでギブアップ。
今は、この広間に放り込まれた時と同様に縄で手足を縛られた状態でシャルローゼの前に並べられていた。
「特にそこの、変な道具を使って逃げようとした金髪おっぱい! お前は最後まで痛めつけてから殺してやるからな、覚悟しろ!」
「そ、そんなあぁぁぁ!!」
「へっ。いい気味だぜ。役立たずのお前には当然の末路だな」
「何言ってるそこの黒いボサボサ頭。主犯格のお前は一度殺すだけじゃ足りないから、死んだあと全裸で町中を引きずり回して社会的にも抹殺してやる」
「そ、そんなあぁぁぁ!!」
エルと二人、おいおいと涙を流す。
「それと、そこの緑フードとお団子頭は……なんかもうすでに死にそうになってるから早めに処刑するぞ」
そう言って、シャルローゼはアリシアとランを憐れみ交じりの目で見つめた。
俺は首だけを横に回して、そちらを見やる。
アリシアはさっき吐血して血が足りないのか、青白い顔で今にも死にそうだ。
そしてランに至っては、ゴーレムにリンチされた結果、全身ボコボコ、無駄に整っていた顔面も平均を下回るほどに壊滅しており、もはや半分死んでいると言っても過言ではなかった。
「ではさっそく。<<土偶錬成>>!!」
シャルローゼの声に合わせ、地面が再び生き物のようにうごめき出す。
あっという間に、ゴーレムが出来上がってしまった。
やはり何度見ても、この命を創り出す能力には目を見張るものがある。
「お前のそのゴーレムを創り出す能力、いったい何の職業なんだ?」
思わず聞いていた。この黒マント集団――闇ギルドは元冒険者の集まりだ。能力にまつわる何かしらの情報があるはず。
「おっ、私の職業が知りたいのか!? いいだろう、冥土の土産に教えてやろう。私の職業は――『クリエイター』と呼ばれている!」
『クリエイター』……?
そんな職業があるなんて聞いたことない。
「私の職業は珍しいものらしくてな! ボスのボスからギルドの1つを任されるくらいすごいんだぞ!」
シャルローゼが自慢げに語る。
「なんてったって、私はこの水晶に選ばれた存在なんだからな!」
『ボスッ! それは――』
黒マントの一人が制止の声を上げるも、遅かった。
俺たちは見てしまった。
シャルローゼが服をたくし上げ露になった腹部に、何かが埋め込まれているのを。
「ゆ、ユーヤ、あれって……」
エルが声を震わす。俺も少なからず動揺していた。
「あれは、神魔水晶……」
鏡のように透明な輝きを放つそれは、紛れもなく神魔水晶の欠片だった。
冒険者としての適性を見る際に用いられる儀式の道具。触れることで冒険者としての能力を呼び覚ますための神聖な魔道具で、冒険者ギルドによって厳重に保管されている代物だ。それを、なぜこの幼女が持っていて、しかも体内に埋め込むなんてことを……。
そこで俺はふと気づく。
そう言えば、以前市場で戦った黒マントが言っていた。『水晶には触れる以外の使い方がある』と。
『ボス! それは我がギルドの機密事項なのでは!?』
「どうせこいつらは今から殺されるんだ。気にする必要ないだろ」
『そうは言っても』
「なんだ? 私に逆らうのか!」
『い、いえ! そんな滅相もございません……』
シャルローゼが自分よりも数段背の高い黒マントに対して凄む。
黒マントは不承不承にも一歩下がった。
「その神魔水晶、どこで手に入れたんだ」
俺は重ねて問いかける。時間稼ぎというのもあるが、埋め込まれた水晶に謎の職業、どこか他人ごとではない気がしたのだ。
「それは知らない。ボスのボスがくださったのだ。お前には冒険者の力を超える素質があるってな」
「冒険者を超える、力?」
「そうだ。私たちは打倒冒険者を志す集合体! そのためには、私のような冒険者を超える存在がまとめ上げる必要があるのだ!」
「打倒冒険者って……。お前らは元冒険者なんだろ! なんで仲間どうしでこんな――」
言いかけたところで、周囲の異変を感じる。
土で覆われた冷たい空間に、嘲笑の色を含んだ引き笑いが聞こえる。それは周囲を取り囲む黒マントたちから発せられたものだった。
俺の背後に立つ黒マントの1人が、もう我慢ならないといった様子で声を上げる。
『お前たちが仲間だって!? ふざけんな! いつも俺たちに偉そうな態度を取りやがって……』
「は? 何言って……。お前らだって同じ冒険者だったんだろ?」
俺の言葉が気に障ったのか、今度は別の黒マントが声を張り上げた。
『お前らと一緒にするんじゃねえ! 俺たちはなぁ、冒険者になりたくてもなれなかったんだッ!』
「なれなかった? けどお前らは――」
――スキルを使っていたじゃないか。
そう言おうとして振り向いた時、黒マントたちが覗かせた肌身を見て、言葉を失う。
彼らの体には、シャルローゼと同じように水晶の欠片が埋め込まれていた。
ある者は腕に、ある者は肩に、ある者は首に。
シャルローゼにはめ込まれた水晶よりは小さいが、皆一様にして体の一部分に水晶の小さな欠片をはめ込んでいた。
「お前ら、いったいなんでそんなことを」
『なんでそんなことを、だって?』
周囲が再び失笑で包まれる。
『こうでもしねえと、俺たちは冒険者の力すら手に入れられねえからだよ』
吐き捨てるような声音にはうっすらと自虐の色が滲んでいた。
見せつけるように眼前に向けられた黒マントの手。
その甲にはめ込まれた水晶から絶え間なく所有者の体内に魔力が流れこんでいるのが見て取れる。周囲の血管は浮き上がり、悲鳴を上げそうにうずいていた。明らかに異常をきたしている。
冒険者にはなりたくてもなれない。それは、人によって魔力の許容量や魔力に対する体の耐性が異なるからだ。そのための神聖水晶――魔力の塊に触れることによる選別の儀式。そんな魔力の源とも呼べる魔道具の欠片を一般人が体に埋め込んで、無事なわけがない。
それによって冒険者の力を無理矢理呼び起こすことができても、その後に待っているのは拒否反応による――死。
「お前ら、そんなことしたら死ぬぞ!」
「もとより私たちはその覚悟ができている」
シャルローゼが幼女のものとは思えないほどに達観した面持ちでそう呟く。
「この世の中では、私たち人間は冒険者になれる者とそうでない者に分けられる」
彼女は小さなこぶしを握り締める。
「そしてそれを良いことに、あいつらは――冒険者たちはそうでない者を虐げ、けなしてもいいと思っている」
そして、俺たちを静かに睨みつけた。
「だから、私たちをないがしろにしてきた冒険者たちに一矢を報いる。そのための闇ギルドなんだ。そのために、格差の元凶――神魔水晶を全て消し去る。それを邪魔する冒険者もろともだ」
闇ギルドは元冒険者たちが私利私欲で動くテロ集団だと思っていた。
いや、俺たちだけではない。世の中がそういった認識をもって彼らの存在を忌み嫌っていた。
だが、それは間違っていた。
シャルローゼは革命を起こす指導者のごとく、王都にも響き渡るほどの声で高らかに言い放つ。
「私たちがこの世の中から格差をなくし、真に平等な世界を創りあげるのだ!!」
ボスの宣言に共鳴し叫ぶ黒マントたち。地面が喝采に揺れる。
彼らは目的は冒険者の打倒。
そして、格差のない世界への変革だった。




