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底辺冒険者は闇ギルドに売られる⑩


 ゴーレムたちの石礫によって抉れた地面。巻き上げられる砂塵。

 その破壊行動を真上から見下ろしている。

 そう。俺たちは空中にいた。


「どうですかユーヤ! これが私たちのチームワークの力ですッ!」


 自慢げにランが言う。

 いつもなら無下に扱うところだが、今回ばかりは評価を改めなければいけないかもしれない。

 なぜなら、ランはあの一瞬で俺たち3人を抱え上げ、空中へと飛び上がることでゴーレムたちの攻撃を回避したのだから。


「ありがどぉぉぉ、ランぢゃぁぁぁん!!」


 ランの右肩に担ぎ上げられたエルがみっともない泣き顔を晒しながら感謝の言葉を述べる。

 両肩に俺とランを担ぎ上げ、頭にアリシアを乗せたランはその重さを感じさせない笑顔でそれに応えた。

 ランは跳躍した勢いで、ゴーレムの輪から距離をとると、敵のいない隅の方へと着地した。


「た、助かった……」


 ランに縄をほどいてもらい、ようやく体の自由が利くようになる。


「皆さんケガはございませんか?」


「あ、ああ」


「だいじょうぶっ!」


「うぅ……あれ、皆さん? どうされたんですか……?」


 アリシアもいつの間にか復活を果たしていた。

 そばまで行き、縄をほどいてやる。


「あ、ありがとうございます……ユーヤさん」


「礼ならランに言ってやれ。今回ばかりはあいつに助けられた」


「いえいえ、これくらいチームワークのためならお安い御用です」


 と言いつつも、ランはにやけが止まらないといった様子だ。

 仲間のためになれたことがよほど嬉しかったのだろう。


「それにしてもラン、お前よくあの拘束から抜け出せたな。スキルも封印されてたのに」


「え!? あ、はい、そうですね! 仲間を思う心が私に力を与えてくれたのだと思います! いや、ほんとに!!」


「なぜそこで念を押す」


 なんか怪しいな。そう言えば、拘束されている間、こいつだけやけに余裕を見せていたが、それと何か関係あるのだろうか。


「お前なんか隠してないか」


「ふぇ!? な、なにも隠してないれすよ!?」


 明らかに動揺している。ここはひとつカマをかけてみるか。


「ラン。正直に言ってくれ。俺たちはチームワークを大切にする仲間、だろ……?」


「ユーヤ……」


 俺の迫真の演技にランが感涙にむせぶような目をする。

 その隣ではエルが俺の顔をうさんくさそうに見ていた。こいつには俺の演技がバレているらしい。だてに何回も騙されていないな。


「ユーヤ、私は間違っていました……」


 しかし、チームワーク馬鹿のランには効果抜群だったようで、粛々と語り始める。


「実は私、スキルとか無しに普通に地力で縄をほどけたんです。でもすぐに脱出してしまったら熱いチームワーク展開に持っていけないじゃないですか? だから、良い感じにピンチを演出してからユーヤたちを助けようと――」


「せいやぁぁぁッッッ!!!」


 俺はランのお団子頭を掴み上げ、ゴーレムの待つ広間の中心へとぶん投げた。


「これはいったい何の冗談ですか、ユーヤ! あ、ちょ、ゴーレムさん? ちょっとスト――ぎゃぁぁぁっっ!?」


 ゴーレムたちにボコボコにされるラン。いい気味だ。


「よし、ランが敵を引き付けている間に逃げるぞ」


「サイテーだッ!?」


『おい、あいつら逃げようとしてるぞ!』

『逃がすな!!』


 やばい。ゴーレムは単純な命令しかこなせないのか目の前のランしか視界に入っていないようだが、黒マントたちはそうはいかないらしい。

 各々の武器を手にこちらに向かってくる。


「エル! お前のスキルで脱出するぞ!」


「えぇ!? でもランちゃんは……!?」


「大丈夫だ。俺が責任をとる!」


「責任って?」


「責任をとって――小さな墓を作ってやる」


 材料は……そこら辺の小石でいいだろう。


「やっぱりサイテーだッ!?」


「いいからやれ! このままだと全滅だ。ランは……後で他のやつらが助けてくれるって」


「他力本願ッ!?」


『喰らえ、<<速射弓(ソクシャキュウ)>>!!』

『<<火炎弓(カエンキュウ)>>』


 俺たちが話し込んでいる間に黒マントたちがスキルで攻撃してくる。

 スピードに乗った矢が前方から幾重にも降ってきた。


「み、皆さん下がってください! <<豪風弾(ウインドブラスト)>>!」


 それをアリシアが魔法で撃ち落とす。さすが上級職。


「エル、とりあえず一旦引くぞ!」


「う、うんっ!」


 エルが俺とアリシアをマントに招き入れ、自分の体と一緒に覆い隠す。

 視界から光が閉ざされる。

 術者であるエルごと転送させるので、マントはこの場に置いてきてしまうことになるが、今回ばかりは仕方がない。


「<<転移(テレポーテーション)>>!!」


 そして、一瞬の光とともに俺たちは外の世界へと――


「って、あれ!?」


 エルが驚きの声を上げる。


「おい、何やってる、早くしろ!!」


「やってるよ! て、<<転移(テレポーテーション)>>!!」


 エマがもう一度魔道具を起動する。が、一向に景色が変わる気配がない。

 まさか……!


「ふはははは! 驚いているようだな、冒険者ども!!」


 中ゴーレムの肩に乗ったシャルローゼが声を張り上げる。


「この広間では外部へ干渉する類のスキルや魔法は使えないのだー! どうだまいったか!」


「な、なんだって!?」


 それじゃあエマの魔道具を使って外へ脱出するのは不可能ってことじゃないか!!


「ど、どどどどどうしようユーヤぁ!!」


「どうするって言っても……」


 ランはゴーレムにリンチにされてるし、アリシア一人に黒マントたちを任せるのは荷が重すぎる。エマの唯一の存在理由と言ってもいいマントの力も使えない。そして俺は普通に使えない。


「俺たちが死んだら誰か墓作ってくれるかな」


「諦めたッ!?」


 出来ればそこら辺の石じゃなくて、ちゃんとしたのがいいな。

 そんなことを思う人生でした。

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