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底辺冒険者は闇ギルドに売られる⑦


「おい! 起きろコラッ!」


 意識がもうろうとする中、甲高い幼女の声が響く。同時に、げしげしと頬を踏まれるような感触――というか実際に踏まれていた。

 俺はハッと目を覚まし、飛び起きようとして、体の自由が利かないことに気づく。どうやら縄か何かで両手足を縛られているらしい。

 幼女は俺の頬に足を置いたまま、声に苛立ちを乗せるようにして口を開く。


「やっと起きたか。まったく手間かけさせやがって」


 俺は寝転がった状態で、目線だけを声がする頭上へと向ける。

 薄暗い視界の中で最初に目に入ったのは、幼女――の履いているパンツだった。

 まあこうして踏みつけられてるわけだから、当然っちゃ当然だな。


「あの、起きたんでそろそろ足をどけてもらっていいでしょうか」


 足の大きさからして明らかに俺の方が年上だが、状況も状況なので、あくまで低姿勢で語り掛ける。


「いいだろう。私は弱き者に慈悲の1つをくれてやるくらいにはオトナだからな!」


「黙れ、ちょうちょパンツ……」


「あ? 今なんか言ったか、キサマ」


「いえ、別に」


 小声で言ったつもりが聞こえていたらしい。それにしても、闇ギルドのボスがちょうちょパンツを履いた幼女とか、どうなってるんだ。

 そして、そんな幼女に足蹴にされている俺もどうなってるんだ……。


「ユーヤぁ~、助けてぇ~」


 俺が自分のあまりの情けなさに辟易していると、どこからか聞きなれた声がした。

 そちらを見やると、エマが俺と同様に簀巻きにされて広間の隅に転がされていた。

 その隣にはアリシアとランもいる。当然のように簀巻きにされていた。


「フン。あいつらもお前の仲間らしいから同罪だ。一緒にあの世へ送ってやる」


 そう言って、幼女は俺の顔から足を離すと、偉そうに黒いマントを翻した。

 ようやく周りを見渡す余裕が生まれる。

 仄暗い土の壁で覆われた大広間。天井に散らされた魔石の光が怪しく空間を照らす。

 流れからして、ここがあの巨大ゴーレムの中であることは想像に難くなかった。

 と、そこでチラチラと視線を送られているのに気づく。

 幼女だ。幼女がツインテールの金髪を弄りながら横目で視線を送っている。


「あの、何でしょうか……」


 下手に刺激しないように小声で伺うと、幼女はビクッと肩を揺らして反応した。


「べ、別に、なんでもない!」


 だが言葉とは裏腹に、幼女はどこか落ち着きなくソワソワしている。

 様子がおかしい。何か俺の言葉を待っているようにも見える。

 俺がはてなと首を傾げていると、闇ギルドの人間と思われる黒マントが、俺の耳元で何やらささやいてきた。


「ボスは悪のカリスマに憧れているんだ。ほら、今こうしてお前らが敵として来ているだろう? ボスが毎日練習してきた『敵がやってきたときに悪者が言いそうなセリフ』を言えるチャンスなんだよ。ここは1つ、ボスに付き合ってくれや。あ、台本がここにあるから、これに沿って話を進めてくれ」


 黒マントは懐から紙束を取り出すと、俺の眼前に広げて見せる。

 紙には、ボスと敵のやり取りを想定したと思われる掛け合い集が載っていた。

 なるほど、ボスの機嫌を取るためにお遊戯会の手伝いをしろということか。

 偉そうにしているが、お子様はどこまで行ってもお子様らしい。

 だが、このままでは一向に話が進まないので、仕方なく付き合うことにした。


「お、おまえー。いったい、なにものなんだー」


 俺が書いてある台詞を棒読みで覇気なく読み上げると、待ってましたと言わんばかりに幼女がパァッと顔を輝かせた。


「ふ、フン。お前みたいな雑魚に語る名などないわ」


「あ、じゃあいいです」


「おいこらぁーッ!」


 幼女が顔を真っ赤にして地団駄を踏む。

 偉そうな態度が癪に障ったので、ついアドリブが入ってしまった。

 というか名前くらいさっさと言え。


「てめぇ、なに勝手なセリフ吐いてやがる! 台本通りにしろ!」


 黒マントが俺の首根っこを掴んで揺さぶってくる。

 俺からしたら幼女よりこっちのほうが怖い。

 

「いやだって、なんで俺がこんな真似を……」


「頼むってぇ。これ以上ボスの機嫌が悪くなったら俺もお前も殺されちまうんだぞぉ……」


「それを早く言え」


 黒マントが語尾に涙を含ませながら懇願する。大の大人をここまでビビらせるくらいだ。幼女といっても、闇ギルドのボスであることに変わりないらしい。

 こうなったら、とことんこの寸劇に付き合うしかなさそうだ。


「そ、そんなこと言わずにー。あなたの名を教えてくださいましー」(原文まま)


「そ、そこまで言うなら仕方ない。いいだろう、教えてやろう!」


 幾分か機嫌を取り戻した幼女。

 ていうかこの台本、敵側のキャラがブレまくってるんだけど。なんだよ、教えてくださいましー、って。

 白けた表情の俺には目もくれず、幼女は台本どおりに話を進める。


「私の名は、シャルローゼ。闇ギルド”バタフライテロル”のボスにして、全ての冒険者に天罰を下す者だ!」


「「「全ての冒険者に天罰をー!!!!」」」


 周囲にいた黒マントたちがこぞって叫びだす。

 あ、こいつらのセリフもあるのね。


「おれたちを、どうするつもりだー。それと、ここはどこなんだー」


「無知なる冒険者に教えてやろう。ここは私が造り上げた巨大ゴーレムの腹の中にして、バタフライテロルの本部だ。これからお前たちをゴーレムの生贄にしてやるのだ。闇ギルドに逆らうとどうなるのか思い知らせてやる! はっはっはっ!!」


「ど、どうかお慈悲をッ!!」(原文まま)


 心の叫びとの偶然の一致を見せ、自然と台詞に熱がこもる。

 ゴーレムの生贄ってなに!? 怖すぎる!


「せめてもの情けだ。最後の時を仲間とともに過ごすがいい。私がお菓子を食べ尽くした時が、お前たちの最期であると知れ!」


 言いたかった台詞を全て言い終えたのか、金髪ツインテ幼女――シャルローゼは黒マントをバサッと翻して、ホクホク顔で広間を消え去った。

 その後ろを先ほどランが持っていたお菓子袋を抱えた黒マントがついていく。

 あの量を全部一人で食べるのか……。


「ボスが戻ってくるまでここで大人しくしていろ」


 黒マントに連れられ、俺はエルたちが転がされている広間の隅に乱雑に投げ捨てられる。


「よし、ボスのおやつタイムが終わるまで休憩だ」


 そう言って、残りの黒マントたちも広間を後にした。

 外見はブラック一色なのに、意外とホワイトな一面もあるらしい。

 


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