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底辺冒険者は闇ギルドに売られる⑤


『こいつらの悪事は、すべてその男が命令したことだというほーこくがこの前の会議で出たんだ! しかもその男は、わたしのけーかくをジャマして手下をいじめたことを『全部俺の手柄だ!』とも言っていたらしい!! もー許さないからな!!』


「誰だそんなデタラメなことを言ったやつは!?」


 確かに、闇ギルドを撃退したことをどっかで自慢した覚えはあるが、そんなことは一言も言ってないぞ!?


『そいつを今日の昼までにこっちまで持ってこい! おかしも忘れるなよ! 忘れたら今度こそお前ら全員ペチャンコにしてやるからな!!』


 そう言ったきり、巨大ゴーレムから少女の声は聞こえなくなった。

 え、これでもう終わり……?


「……」


 先ほどまでの騒々しさから解放され、静まり返る広場。

 しかし、緊張感だけはギンギンに保ったままだ。


「み、みんな? どうして俺から離れるんだ……?」


 広場はぎゅうぎゅう詰めのはずなのに、気づけば俺の周りにだけ不自然な空間ができていた。

 エルやラン、アリシアまでもが、俺と距離をとっている。


「おい! なんでお前らまでそっち側なんだ!? 早くこっちにこい!!」


「「「……」」」


「何とか言えやコラァー!?」


 俺が凄んでも、エルたちは、荷車で引かれていく家畜を見るような悲しい表情を崩さない。

 さっきの俺のガッツポーズがよほど気に食わなかったのだろう。完璧に俺を見放す構えだ。

 

「ユーヤ」


 そんな中、1人の強面男が俺の方に近づいてきた。


「おぉ! ライナー! お前は俺を庇ってくれるのか!? さすが我が親友、お前だけが頼りだ!!」


 目の前まで近づいたライナーは俺の肩をポンと叩くと、


「良かったな! お前みたいなクズが人類の平和のために死ねるなんて!」


 朗らかな笑顔でそうのたまった。


「え、えっと……ライナー……さん?」


「あと、死ぬ前に店のツケはしっかり払ってもらうからな」


 ライナーが付け加えると、


『そうだそうだ!! どんだけ飲み代踏み倒してると思ってるんだ!!』

『お前の出世払いを待ち続けてもうすぐ1年だぞ!! 金返せ!!』

『いやむしろ、ツケはチャラにしてやるから潔く死んでこい!!』


 それを皮切りに、風船が弾けたように次々と野次があがる。


「うぉい!? お前ら人の命を何だと思ってるんだ!」


「底辺冒険者1人の犠牲で街のみんなが助かるんだから儲けモンだろ」


 ライナーがさも当然のように言う。


「サイテーだ!?」


 こいつらいったいどういう思考回路をしているんだ!?

 商売人ってのはみんな損得勘定でしか物事を考えられないのか!?


「チクショーッ!! こうなったら意地でもツケなんて払わないからな!」


『ふざけんな! さっさと払え! そしてさっさと出ていけ!』

『そうだそうだ! お前が早く出ていかないとまた岩を落とされるかもしれないんだぞ!』

『出~て~け! 出~て~け!』


 ”出てけコール”が広場にこだまする中、その様子を傍観していた白髭のギルドマスター――ファブリスが手を挙げた。


「これこれ、その辺にしておくのじゃ、皆の衆」


「爺さん! あんたは俺を助けてくれるのか! さっすがギルドマスター! 一生ついて行きますッ!!」


「お前、この前ギルドの運営批判してただろうが」


 ライナーが横槍を入れるが、そんなことはもうどうでもいい!

 これで何とか首の皮一枚繋がったぞ!


「若き冒険者よ」


「はい!」


 俺は元気よく返事をする。


「今日というこの日を『1人の英雄が殉死した記念日』として祝ってもらえるよう国に掛け合っておこう……だぶん無理じゃろうけど」


「はい! ――って、えぇ!?」


 首の皮にはしっかり亀裂が入っていました。

 ファブリスは既に闇ギルドに俺を引き渡す気マンマンで、もうすでに俺が死ぬ前提で話を進めていた。

 ていうか、無理なんかい!


「仕方のないことなのじゃ。王国からは街を守ることを第一にと言われておるし。あの巨大ゴーレムと無理に戦うよりは……の」


 「わかるじゃろ?」と言いたげに優しく俺を諭すファブリス。

 こんのクソジジイ!?


「ちょ、ちょっと待ってくれ! そもそも俺は普通にクエストをこなしてただけなんだぞ!? だいたい闇ギルドの計画を邪魔するのは良いことだろ!」


「ユーヤ。もう諦めろ。お前を助けてくれるやつなんてここには誰もいない」


 ライナーが追い打ちをかけるように俺に言う。


「ぐっ……血も涙もないやつめ……」


 俺は辺りを見渡す。

 ライナーの言う通り、広場にいる全員が、俺を突っぱねるような冷たい眼差しで見ている。


「う、うぅ……」


 味方が誰もいないとわかった途端に、涙が出そうになる。


 ……あ、今頬から伝っている水はアレだ……汗だから!


「では、英雄の出陣を見送るとしようかの」


 いつの間にかファブリスの周りには上級役人が集まっていた。

 俺を捕らえてゴーレムのところまで連行するつもりだろう。


「う……そんなぁ……」


 フッと全身から力が抜け、膝から崩れ落ちる。

 役人が俺の体を持ち上げようと、肩に手をかけたその時、


「あ、あのッ! ちょっと待ってください!」


 民衆の中から出てきたのは――エルだった。


「……! エル、お前……!!」


 エルは、強張ったように気をつけの姿勢をしながら続ける。


「た、確かにユーヤの日ごろの行いは悪いし、仲間をすぐ裏切るダメ人間で、助ける価値なんてないけど……」


「うぐっ……」


 エルの言葉が胸に刺さる。


「だけど! 闇ギルドの計画を邪魔して街から追い出されるなんて可哀想だと思いますっ!」


「エルぅ……お前ってやつはぁ」


 エルの思いもよらぬ言葉に、涙があふれる。

 そんな俺の視線に気づくと、エルは「当然でしょ!」と天使のように微笑んだ。



「だから――」



 エルは決心したようにゆっくりと右手を挙げる。

 きっと俺と一緒に闇ギルドに乗り込んで――



「せめてもの情けで――」


「……ん?」


 え、情け……?



「西門まではついて行ってあげたいと思います!!」



「はぁ~~~ッッッ!!?」



 こうして俺は、保護者同伴のもと、無事闇ギルドに売られることが決定しましたとさ。


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