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底辺冒険者は闇ギルドに売られる④


『人の嫌がることをしたのがいけないんだからな! 今のこーげきはその仕返しだ!!』


 子供っぽい跳ねるような口調。

 自分のことを棚に上げるところなんてお子様そのものだ。

 クエストの邪魔をされたり、岩を投げつけられたり、嫌がらせを受けているのはこちらの方だというのに!


「あのクソガキ、やりたい放題しやがって……! 妹たちを守ってくれてありがとよ、お団子頭の嬢ちゃん」


 投石による恐怖ですすり泣く妹をなだめながら、ライナーがランに礼を言う。


「いえ、当然のことをしたまでです!」


 ニコリと笑顔を見せるラン。

 当然のように俺を巻き込んでいたけどな。


「それにしても闇ギルドですか。以前市場で戦った時は、ユーヤと私の見事なチームワークで切り抜けましたが……。敵があの大きさとなると、倒すのは難しいですね」


 ランが自分補正のかかった俺との思い出を語る。

 内容に関してツッコミたい部分はあるが、ランの言う通り、あの巨大なゴーレムと戦うのは骨が折れそうだ。


 無論、俺は最初から戦う気なんてさらさらないが。

 そういうのは、ギルドご用達の上級役人にでも任せておけばいいのだ。


『どうだ~? わたしのゴーレムのこーげきはすごかっただろ!!』

 

 少女の声が嬉しそうに弾む。


『このまま街をぜんぶペチャンコにしてもいいが、わたしもそこまでひ・じんどーてきではない!』


 闇ギルドの運営自体が非人道的だと思うが、今は黙っておこう。

 少女は語気を強めて続ける。


『この街の住民の中に、わたしのけーかくをジャマし、手下をいじめた悪~いやつがいる! そいつをこちらに引き渡せば、今日のところは見逃してやろう!! ……あ、あと! おかしもだ! あま~いのがかかってるやつな!』


 後半の要求の方が本命のような気がするのは気のせいだろうか。


「フン。ハチミツを取ってこいなんて命令を手下に出すくらいだ。所詮はお子様と言ったところか」


 きっとあの少女の言う計画とやらも、『お菓子独り占め大作戦』とかその程度のことだろう。

 にしても、そんなくだらない計画を邪魔しただけで闇ギルドに捕らわれるなんて、そいつはきっとただでは済まない――


「って、うん? 計画を邪魔したやつって、まさか……」


 途端に心臓の鼓動が早くなる。

 計画の、邪魔……?

 

「あ、ああ……」


 こ、心当たりがあり過ぎる!


「ねえねえユーヤ……計画の邪魔って、もしかしてアレのことじゃないよね……?」


 エルが俺の袖を引っ張りながら、不安そうに尋ねる。


 アレってどれのことだ!?


 市場で闇ギルドのやつらを黒焦げにしたことか? 森でハニーハンターをけしかけたこと? それとも変態ドラゴンの生贄にしたことか?


『そいつの悪さは、手下の1人1人に配置した偵察(てーさつ)用ゴーレムでぜ~んぶ見たからな! ウソついたってダメだぞ!!』


 全身の毛穴から汗が噴き出す。

 もはや、言い逃れはできそうにない。


『これからそいつのとくちょーを言っていく!』


 俺は祈るような面持ちで目をつぶる。

 頼む、見逃してくれ!!


『まずは、棒を振り回すお団子頭のやつと火の魔法を使う緑色のやつ!!』


「ピエッ!?」

「棒じゃなくて棍です!」


 アリシアとランが反応する。

 周囲の視線が一気に2人に集中する。


『そいつらは、私の手下を棒で叩いたり、魔法を使っていじめたりしたとっても悪いやつらだ!』


「い、いじめたりなんかしてないです!!」


 空に向かって必死に弁解するアリシア。

 その声ははるか遠くにいる少女には届かない。


『そして次に、赤白の変なぼうしとマントの金髪!』


 少女の声に今度はエルが反応する。


「わ、わたしも金髪で赤白だけど……シルクハットだし、変じゃないから違うよねっ!? ふぅ~よかった!」


「いや、完璧にお前のことだと思うぞ、エル」


「どぅえぇぇぇ!?」


『こいつは、わたしの手下をおっきなクマのモンスターに襲わせた悪いやつだ!!』


「え、ちょっと待って!? わたしそんなことした覚えないんだけど!?」


 おそらく少女の言う“おっきなクマ”というのはハニーハンターのことだろう。

 実際のところ、エルはハニーハンターに追いかけられていただけだったが、捉えようによってはエルがハニーハンターを先導してきたようにも見える。

 とにもかくにも残念だったなエル。お前も道連れだ。


『そして最後に――』


 少女はさらに続ける。


 生唾を飲み込み、死刑宣告の時を待つ。

 最後はきっとこの俺だろう。

 ランやアリシア、エルと外堀を完璧に埋められてしまった今、言い訳すら出てこない。

 目をつぶり少女の声に耳を澄ます。


『ドラゴンに乗った全身ピンク色のやつ!!』


「え――?」


 少女の言葉に耳を疑った。

 俺じゃ、ない……?

 全身ピンク色のやつ――パトだと!?


『こいつはドラゴンを使って、手下をベトベトにしていじめた悪いやつで――』


 やった、やったぞ! 助かったぞ!

 少女の話す声など聞こえなくなるくらいに、俺は心の中で雄たけびをあげる。


「うわ、仲間の名前があがってるのにガッツポーズはさすがにひどいよ、ユーヤ」


 エルが蔑んだ目で俺を見る。

 どうやら喜びが抑えきれず表に出てしまったようだ。


「すまんすまん。短い付き合いだったがお前たちとの冒険は楽しかったぞ。来世でまた会おう」


「見捨てる気マンマン!?」


「当たりまえだ。呼ばれたのはお前らだけなんだからな。俺は関係ない!」


「ひ、ひどいよッ! こうなったらユーヤも道連れにしてやる!」


 エルが半泣きで俺に襲い掛かってきた。


「こらッ! 離せッ! イタタッ!? 髪を引っ張るな!?」


「い~や~だ~!!」


 執拗に迫るエルの顔面を手のひらで押さえつける。

 負けじとエルも俺の髪を引っ張り対抗する。

 駄々っ子のように暴れるエルとしばらく格闘していると、再び少女が話題を切り出した。



『――で、ここからが本題だ』



「「ほ、本題……?」」



 俺とエルは互いに組み合った状態で、西門を見上げる。


『今言ったやつらに命令して悪いことをさせた、もぉ~っと悪いやつがいる! わたしは()()()()()()用がある!!』


「は――?」


 ちょっと待て、この流れは何かまずい気がする!

 

『黒毛のボサボサ頭に、てーへん冒険者丸出しのたるんだ目つきの男!! お前だけはぜったいに許さないからなぁーッ!!』


 怒りに満ちた少女の声が広場を駆け巡る。

 こだまが聞こえなくなるころには、広場中にいる人間が俺に注目していた。

 刺さるような視線が痛い。


「ははは。底辺冒険者だなんて失礼な……はは」


 急激に膨れ上がった緊張と不安が、岩石のように俺にのしかかる。

 闇ギルドの目の敵にされていたのは、最初からこの俺――ただ1人だけだったのだ……。


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