底辺冒険者は闇ギルドに売られる②
「な、なななな……ぬぁんだアレは!!?」
「ようやっと目が覚めたか。ったく、お前はいつまでたってもだらしないやつだな」
エルと一緒に慌てふためく俺に、ライナーが肩をすくめる。
「えぇ!? だって……えぇ!?」
言葉がうまく出てこない。
はるか昔、魔王軍の進行を食い止める役割を果たしたと言われるラストリアの城壁を軽々超えるほどの高さから、土色の建造物? モンスター? が街の中を覗くようにそびえ立っている。
これはまさに……緊急事態以外の何物でもない!!
「いったいななな何なんだよ、あの巨大兵器みたいなやつは!!?」
「まあまあ、落ち着きましょう。ほら、お茶でも飲んで」
「これが落ち着いていられるかッ!」
ランになだめられるが俺の動揺は収まらない。
冷静さを失っているのは何も俺だけではなかった。
大慌てで右往左往する者、泣き叫ぶ者、はたまたどこかへ逃げようとする者。その慌てっぷりは千差万別。
中央広場は、突然の超巨大物体の来訪に喧々諤々としていた。
「だいたいッ! あ、あんな馬鹿デカい物体、昨日まではどこにも見当たらなかったぞ!?」
俺がカタカタと震えていたその時、
『それについては、ワシの方から説明しようかの』
フォッフォッフォッと呑気に笑いながら、1人の老人がギルドハウスの方からやってきた……というか、漂ってきた。
『おぉ!! あれはギルドマスターのファブ爺さんじゃねえか!』
『今日も優雅に漂っておられるわ!!』
『あの余裕溢れる佇まい……もしかしたら、そこまで緊急事態じゃないんじゃいか!?』
浮遊魔法に乗りながらフワフワと漂う老人の姿を見て、さっきまでの騒然とした様子が嘘のように、平静を取り戻す民衆。
あれは確か、ギルドマスターのファブリス……とか言ったか。
ファブリス・ユーキリウス。
このラストリアのギルドや軍事にかかわる全てを統括し、王国と並ぶ権力をも持っていると噂される人物だ。もっとも、白髭をもっさりと生やし、雲のように移動するその姿からは全くその凄みを感じないが。
しかし、あの老人の登場は今の民衆にとって大きな支えとなったようだ。
ファブリスが魔法を解きゆっくりと広場の噴水に着地する頃には、人波は穏やかになり、誰一人として狼狽する者はいなくなっていた。
「皆の衆すまないの。こんな良い朝に警報なんぞで起こしてしまって。じゃが、これは王国からの勅令での。致し方ないことだったのじゃ」
申し訳なさそうに髭をいじるファブリス。
まったくもってその通りだ。
「皆に集まってもらったのは他でもない。アレじゃ、アレ」
そう言って、ファブリスは西門を指さす。
もちろんその指はあの巨大な物体を指し示している。
「見てのとおり、一夜にしてラストリアの外壁をも超える謎の物体が出現したのじゃ。ワシが見るに……あれはゴーレムじゃな」
あれが泥人形……だと!?
あの巨大物体がゴーレムというのなら、一夜で何者かが作り出したことになる。
確かに、小さな……それこそ人形のようなゴーレムを錬成する魔法は存在するが……。
あの大きさのゴーレムを作り出せるなんて聞いたことがない。
「アレをゴーレムと呼ぶのはワシも違和感があるがの。偵察隊を西門へと向かわせたばかりじゃから、詳しいことはまだ何もわからん」
『何もわからない』。
ファブリスの言葉を静かに聞いていた民衆が微かにざわめき始める。
あのゴーレムが敵なのか味方なのか、そもそも作り出された目的は何なのか。その全てが謎に包まれているという不安が得も言われぬ恐怖を生み出す。
「心配するな皆の衆。ここに避難しておればひとまず安心じゃ。ギルド直属のマジックキャスターたちがおぬしらを守ってくれるからの」
ファブリスは大きく両手を広げ、民衆をなだめる。
見ると、中央広場のまわりを取り囲むように、杖を持った蒼隊服の冒険者が配置されていた。
おそらく、あれがギルド直属の冒険者……いわゆる上級役人と言うやつだろう。
「フォッフォッフォッ。ワシらに任せておけば大丈夫――」
ファブリスが呑気にあごひげを触ろうとしたその時だった。
ドゴォォォン!!!!
広場近くの民家が、上空から降ってきた巨大な岩に押し潰された。




