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底辺冒険者は闇ギルドに売られる①


「う、う~ん……」


 日の光が枕元に差し込む。

 目を開けずともわかる。

 本日も晴天なり。今日も今日とてラストリアの街は平和で――



『緊急警報!! 緊急警報!! ラストリア市民の皆様は至急中央広場までお集まりください!!』



「フガッ――!?」


 鳥のさえずりを軽く蹴散らす勢いの爆音が耳をつんざく。

 寝起き……というかまだ起きてすらいなかった俺は、その衝撃でベッドから盛大に転げ落ちた。


「なっ、何だいったい!?」


 俺は床からすぐに起き上がり、耳を澄ます。

 どうやらこの音声は中央広場の方から聞こえてくるらしい。


『繰り返します!! 緊急警報!! 緊急警報!!』


「……って、なんだ、また避難訓練か」


 ホッと胸をなでおろす。

 そういえば、先日も同じ内容でギルドハウスから放送があったな。

 緊急事態に備えた訓練だと。せっかくの良い朝が台無しだ。

 まあしかし、じきにこのうるさい警報も鳴りやむだろう。

 それまでもう少しベッドの中でおとなしく――


『緊急警報!! 緊急警報!! これは訓練ではありません!!』


「ぐぼはぁッ!?」


 すぐに飛び起きた。

 なにッ!? 訓練ではないだとッ!?


「エルッ! 聞いたか今の放送ッ!?」


 俺はカーテンで仕切られた向かい側のスペースに飛び込む。

 慌てる俺をよそに、エルは、にへらと笑みをうかべながらぐっすり寝ていた。

 よくこんな騒がしい状況で眠ったままでいられるな!


「起きろッ! エルッ!」


 俺は強引にエルの肩をゆする。


「へ、へへ……うん……な、なぁ~に? もう朝ごはん~?」


 エルは眠そうな目をこすりながら、くあっとのんきにあくびをする。

 この緊迫した状況を全く感じさせない余裕の表情だ。


「朝ごはんなんて後だッ! お前にはこの警報が聞こえないのかッ!?」


 俺はエルの頭を鷲掴み、むりやり耳を警報が鳴り響く方へと向ける。


『緊急警報!! 緊急警報!! ラストリア市民の皆様は至急中央広場までお集まりください!!』


 エルは一瞬その警報にビクッと反応したが、すぐにその顔からは緊張感が消え失せ、


「あぁ~なんだぁ~。これって前もやってた避難訓練じゃ~ん。じきに静かになる――」


『緊急警報!! 緊急警報!! これは訓練ではありません!!』


「ぐぼはぁッ!?」


 ベッドから飛び上がった。

 まったく、こいつは本当に見てて可哀想になってくるな。


「ど、どどどどうしよう、ユーヤ!? い、今のうちにパンを――」


「バカッ! その前に避難だ! さっさと中央広場に向かうぞ!」


「うえぇ~!? そんなぁ~~~ッ!!」


 残りのパンを漁ろうとするエルの首根っこを掴み、俺は急ぎ足で中央広場へと向かった。



◆◆◆



「あ、ユーヤさん! こっちです、こっち!!」


 俺とエルが中央広場い到着すると、慌てて避難してきたと思われる人ごみの中から、緑色のフードがピョンピョンと見え隠れしているのに気づいた。

 俺は荒波のような人海をかきわけ、フードの元まで辿り着く。


「ユーヤさん、エルさん! 無事だったんですね! 良かったです」


 俺たちの顔を見て、アリシアが胸に手を当てて大きく息を吐く。


「まったく、こっちは仕込みがまだあるってのに……。商売どころじゃねえぞ」


 アリシアの隣で、短髪を掻きむしるライナー。

 その後ろには、人波に押し流されないように、ピッタリと兄の足にしがみつくライナーの妹たちの姿もあった。

 中央広場の中心を飾る勇者ライオネル像をめがけ、どんどん民衆がなだれ込んでくる。

 その人ごみの中から、見覚えのある頭部を見つけた。


『お~い! ユーヤ~、みなさ~ん!!』


 人の流れに逆らうように進むそれは、左右二つのお団子頭を跳ねさせながら近づいてくる。

 普段通り武器の入った大きな荷物を背負ったお団子頭は、俺たちの元に辿り着くと、よっこらせと肩かの荷をほどいた。


「ふぅ~。やっと着きました」


「ラン。緊急警報だってのに、武器なんて背負ってくるなよ……」


 俺は、ランの持ってきた重そうな荷物を見下ろす。


「何を言っているのですか! 緊急警報だからこそですよ!」


「そうですよユーヤさん!」


 ランの暑苦しい動作に合わせ、アリシアも両手を胸の前でグッと握る。

 見れば、アリシアもしっかり自前の杖を装備している。


「ハハハ。お前ら、これから何かと戦うつもりでもいるのか。そろそろ目を覚ませ」


 おそらく、彼女たちはまだ寝ぼけているのだろう。

 でなければそんないつでも戦えるみたいな臨戦態勢で避難などするわけない。


「いや、寝ぼけているのはお前だぞ。ユーヤ」


 ライナーが俺を諭すように語りかけてくる。

 ライナーの妹たちも無言でコクンコクンと頷いている。

 寝ぼけているのは、俺だと? いったい何を言って――


「ねえねえねえねえ!! ユーヤってば!! ねえねえねえ!!!」


 急にエルが俺の肩を激しく叩いてきた。


「イタッ!? 痛い痛い!!?」


 バシバシと俺の肩を叩くエル。

 その力は収まるどころか、強さを増していく。

 痛みに耐えきれなくなった俺は、エルの手をはたいた。


「だぁ~っ、もう!! 今度はなんだ!? お前もまだ寝ぼけているのか!?」


「違うって、ユーヤ!! あれ見て、アレぇ!!」


 エルは慌てふためきながら、西門の方を何度も指さす。

 いつもは適当に受け流す俺だったが、エルがあまりにも絶望的な顔で西門を見上げるので、仕方なくそちらに目をやった。


「……ん? やっぱり何もないじゃないか」


 西門の周りはいつも通り頑丈な城壁に囲まれていた。

 門の上には、勇者パーティーのメンバーであるメイメイの石像が今日も街を見渡すように立っていた。

 壁が崩れているなどの異変は感じられない。


「いつも通りの城壁じゃないか?」


「じょうへき!? 違うって! その上だって、う・え・!!」


「は? うえ――?」


 俺は目線をメイメイ像からさらに上へと移動させる。

 そして目線が上がるに連れ、俺の口は重力に逆らえずアングリと開いていった。



「なんじゃありゃ~~~ッッッ!!??」

 


 西門を囲む外壁の更に上。

 その上から覗かせるのは目玉のように点灯する2つの赤い円。

 土色に固められたごつごつとした出で立ちで、巨大な人型が悠然と俺たちを見下ろしていた――。

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