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底辺冒険者と高飛車サモナー⑨


「ねえそこの坊や~? お姉さん~早くボスにキラキラを持っていかなきゃいけないから~そうやって下向いてるだけじゃどうしていいかわかんないなぁ~。もしかして死にたいのかな~?」


 セクシーなお姉さん改め黒マスクが、殺気を漂わせながらゆったりと俺に歩み寄ってくる。

 くそ! これで闇ギルドに邪魔されるのは3回目だぞ!? 運が無いにも程があるッ!


 というか、またキラキラしたものが欲しいって……。

 宝石とハチミツの次は魔石かよ! 確かに魔石は色とりどりでキラキラしてるけども!!


 相変わらずのボスとやらのガキンチョっぷりには嫌気がさしてくるが、こちらも生活が懸かっているので「はいどうぞ」と素直に魔石を譲るつもりはない。

 だが、もちろん戦うつもりもさらさらないので、俺は譲歩を試みることにした。


「えぇ~っと……お姉さん、ちょっといいですか?」


 俺が恐る恐る手を上げると、黒マスクは歩みを止める。


「ん~? なにかな~? お姉さん急いでるから手短にね~」


「あ、はい……。その、ですね……」


 俺は一度つばを飲み込んでから、ゆっくりと口を開く。


「ここの魔石スライムは大体俺が倒したんで……その、で、できれば手に入れた魔石は、お姉さんと僕とで半分ずつ――」


 ――シュカッ


 俺の頬を風のようにナイフが通り過ぎた。


「そ、そうですよね! 半分は取り過ぎですよね! じゃ、じゃあ3分の1は僕が――」


 ――シュカッ


 今度はちょっと頬にかすった。



「…………」



 逃げるしかないッ!!



 俺は魔石が入ったポーチを抱え、一目散に走りだした。


「なっ!? 待ちなさい!」


 黒マスクが放ったナイフを寸手でかわす。

 速さはあるが、直前に聞こえる風切り音のおかげで何とか避けられた。

 しかし、いつまでもこうしてはいられない。


「はい、お姉さん怒りました~絶対八つ裂きにしちゃうか――らッ!!」


 おっとり口調から発せられる物騒な言葉とともに、数本のナイフが飛んでくる。

 さっきよりも勢いがあったせいか、黒マスクの投じたナイフは俺の体の近くをすり抜けていった。

 にしても、ああも連続して投げられたら、音で避けるとかそういう問題じゃなくなってくるぞ!?


「いい加減にしなさい! どうして逃げるのよ~!」


 黒マスクがそんなことをのたまいながら、ナイフを俺の頭にかすらせてくる。


「お姉さんがナイフ投げてくるからでしょ!?」


 むしろそれ以外に何がある!?

 このお姉さん、今まで出会った黒マスクの中でも特に話が通じなさそうだ……。

 俺は黒マスクの懐から次々と放られるナイフを辛うじて避ける。


「アサシンなんだからナイフくらい投げるでしょ~」


「その理屈だと、フェイカーの俺は嘘つきまくり人騙しまくりでもいいことになりますけど!?」


「え、フェイカー……?」


 ナイフの雨が途端に止んだ。


「あれ? 攻撃が……止んだ?」


 後ろを振り向くと、黒マスクが足を止めてこちらを見ている。

 さっきまで溢れ出ていた殺意はそのキョトンとした立ち姿からは感じられない。


「坊や……いま、フェイカーって言った?」


「え!? は、はい……」


「それって、坊やの職業よね?」


「はい、そうですけど……」


 口調が少し真面目な雰囲気になったお姉さんに、俺は少しビビりながらも返答する。

 お姉さんは黒マスク越しに見え隠れする両目で、俺を凝視したまま動かない。


 俺の職業がどうかしたのだろうか……?

 ハッ!? もしや、フェイカーがどマイナーな職業過ぎてふざけてると思われたとか……!?

 だ、だとしたらまずい!

 脳天をナイフで勝ち割られる前に土下座して弁解を――


「なぁ~んだ」


 俺が地面に膝をつこうとしたその時、黒マスクの口調が元のゆるふわお姉さんのものに戻った。


「坊やも私たちの仲間だったんじゃ~ん。そうならそうと早く言ってよも~う。お姉さん早とちりしちゃった☆」


「は?」


 「てへっ」とこぶしを作って頭に添える黒マスク。

 彼女の言っている言葉の意味が分からない。

 俺が……仲間? 黒マスク――いや、闇ギルドの!?


「坊やのその職業って、特殊な”手術”した幹部クラスしか手に入らない職業だよね~。フェイカーなんて職業、聞いたことないし~」


「え、手術? 幹部……?」


 何を言っているんだ、この黒マスクは。

 闇ギルドの一員ならまだしも、この俺が闇ギルドの幹部だって……?

 それに、”手術”って……いったい何だ? 魔法の一種か?


「でもおかしいな~」


 状況が飲み込めない俺に、黒マスクはなおも続ける。


「幹部クラスの坊やがなんでボスの命令なんか聞いてるんだろ~? あのガキンチョ、幹部の中では一番下っ端だって聞いてたのに~。あ、もしかして坊や……ロリコンだったり?」


 次々とあらぬ疑いをかけられる俺。

 ロリコンと言われるくらいなら、まだ闇ギルドの幹部と言われたほうがマシだ!!

 ……マシでもないか。


「そういえば、幹部クラスは今日、ロワール城で会議があるって言ってたような……。


 闇ギルドの機密事項と思わしき情報をペラペラと語る黒マスク。

 あれ、これマズくない?

 今、幹部じゃないってバレたら、俺の存在ごと抹消されたりしない!?

 やはり、闇ギルドの幹部と言われているほうがマシなのでは!?


「あ、あ~! そういえばそんなことも言ってたような~、言ってなかったような~……」


 俺は全力で黒マスクの話に乗っかることにした。

 俺が助かる道はこれしかない。


「だよね~。早く行った方が良いよ~」


「そ、そうですよね! それじゃ、僕はこれで……」


 助かった!

 俺は風よりも早い切り返しで、黒マスクに背を向けて歩き――


「あ」


 ――だそうとしたところで、黒マスクに呼び止められた。


「な、なんでしょう……」


「一応別れの挨拶をしておかないとね~。ほら、組織の決まり事でしょ~? もしかして忘れちゃった?」


 黒マスクは胸元を揺らしながら首を傾げる。

 挨拶なんてものがあるのか。

 闇ギルドのくせに、意外にも礼節に重きを置いているようだ。


「そ、そうでしたね! 組織の決まりごとはちゃんと守らないとですもんね!」


 俺はあたかも当たり前かのように頷く。

 フェイカーの俺にとって嘘をつくことは造作もない。

 このまま何ごとも無く逃げ切る!


「それじゃあ――」


 合図とともに、俺と黒マスクは同時に声をかけあった。



「お疲れ様でしたー!!」

「平等なる世界のために!!」



 弛緩しつつあった2人の空気が、一瞬にして締め上げられたのがわかった。

 

「え――お疲れ様って……何かな~?」


 黒マスクは一度はしまったナイフを再び取り出した。


「あ、えぇ~っと……そんな挨拶、ありましたっけ……?」


――シュカッ


 足元にナイフが飛ぶ。

 俺は思わずその場に尻もちをつく。


「あ、ああ……」


 フェイカーにとって嘘をつくことは造作もない。

 しかし、その嘘がバレることも同じくらい造作もないことなのだ。


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