底辺冒険者と高飛車サモナー⑧
「あいつ、単体だとあんなに強かったのか……」
なおもドラゴンと互角の戦いを繰り広げるランをポカンと見つめる。
力任せに大爪を振るうドラゴンの攻撃にもランは一歩も引かずに受け止める。
その姿は、彼女の師匠でありかつての勇者パーティーの1人でもある、あの”不退転”メイメイをも連想させるほどだった。
「だが、ランはなぜあそこまでチームワークにこだわるんだ……?」
正直、今のランならば俺たちが束になっても敵わないだろう。
もしかしたら上級冒険者たちで固められたパーティーにだって勝てるかもしれない。
それが、ラン1人で戦うのであれば、の話ではあるが。
無類の強さを見せているランも、チームで戦うとなった途端にポンコツと化す。
それでもチームワークに執拗なこだわりを見せるラン。
その理由はわからない。
「わからない……が、今考えても仕方ないか」
おそらく俺しか覚えていないと思うが、今はクエスト中。
このクエストの結果次第で明日の朝食が雑草になるか否かが決まるのだ。
「ランがパトとあの変態ドラゴンを足止めしているうちに、さっさと魔石スライムを倒してしまおう」
俺はランに背を向けて走り出した。
途中、自分の胸に手を当ててすすりなくアリシアと、粘液だらけで放心状態のエルの横を走り抜け、魔石スライムの群れまで辿り着く。
「とりあえず、1匹ずつ倒すか……」
俺はそこらへんに転がっている手ごろな石を握りしめる。
俺の職業であるフェイカーは戦闘職ではないから、こういうとき武器が無くて困る。
「……」
というかそもそも、なぜ非戦闘職の俺1人で戦わなければいけない状況が生まれている!?
それもこれも、いつも通り役立たずのパーティーメンバーのせいだ。
……そう考えると無性に腹が立ってきた。
「このイライラはスライムどもに思う存分ぶつけるとして……」
俺は近くにいた緑色のスライムに狙いを定める。
そして、
「くらえやぁ!!」
石を持った拳を一気にスライムの脳天目がけて振り下ろした。
不幸にもイライラマックスの俺の標的となったスライムは、不意の攻撃にひるんで動けない。
そのまま粘液をぶちまけて粉々になりやがれぇ!!
ドグシャッ!!
液体が鈍く弾ける音とともに、プルルンとまとまりのあったスライムの体が千切れ飛ぶ。
地面へと飛び散った体液とともに、先ほどまでスライムだったものは不揃いな魔石の破片へと姿を変えた。
「フハハハハ! 運が悪かったなスライムども! 今の俺は誰にも止められないぜ!!」
調子に乗った俺は、すぐに次のターゲットに狙いを定めると、
「オラァ!!」
同じように石を振り下ろし、スライムを肉片……いや、石片に変えた。
「あいつら、こんな雑魚相手に手間取っていたのか……」
片っ端からスライムを潰しながら溜め息混じりに呟く。
最弱とは聞いていたが、魔石スライムがここまで弱いとは思わなかった。
なんせ、一般人程度の攻撃力しかないこの俺でさえ、スライムの群を荒らし回れるほどなのだ。
それだけに、1匹も討伐できなかったメンバーに対する失望も段違いである。
「やはりメンバー集めをやり直した方が良いかもな……」
と、目の前のスライムを仕留めようとしたその時、
――シュカッ!!
刃が風を切る音。
その瞬間、スライムの体が弾け飛んだ。
飛び散った体液が空中で魔石に変化し、パラパラと地面に落ちていく。
――シュッ! スパッ!
「なにッ!?」
うろたえる俺を嘲笑うかのように、次々に魔石へと姿を変えるスライムの群れ。
風切り音とともに、赤や青、スライムと同じ色の魔石が宙を舞う。
「い、いったい何が起こっている!?」
何ごとかと辺りを見回す。
すると後ろから、妖艶な色気を醸し出す女の声が聞こえた。
『あら~? ここは魔石が取れる穴場だと思ったのに~、先客がいたようね~』
「だ、誰だッ!?」
『誰だッ!?』とは言ったものの、その声の主におおよその見当はついていた。
この独特なエロい声に、語尾を伸ばすおっとりとした口調。
これはきっと……きっと……!
素晴らしいモノを持ったお姉さん冒険者に違いない!!
俺は大きな期待を胸に、声のした方を振り向いた。
「お、おぉ……」
そこには、黒服の女性が立っていた。
網タイツに包まれた両足に、草原の緑とのコントラストが映えるメリハリのある体形。
まさしく声のイメージにピタリとはまる素晴らしさだ。
そして何よりも、その胸部の膨らみに目がいく。
これでもかと広げられた胸元からはち切れんばかりに主張するそれは、まさしく男の楽園。
是非お近づきに――
俺はすぐさま顔を見上げ――そして、同じスピードで元の位置に戻した。
「なんてこった……。また同じパターンかよ……」
俺の脳裏に、市場での戦いやハニーハンターとの死闘が思い浮かぶ。
今思えば、俺が最近特に苦労しっぱなしだったのは、何も無能なパーティーメンバーだけのせいではなかった。
そう。それは正体不明の”闇ギルド”と名乗る黒マスク集団。
あいつらが、やれキラキラしているものが欲しいやら、やれ甘いものが食べたいだとか言うお子様じみたボスの命令を受けたせいで、毎度毎度俺たちが被害を被っていたのだ。
そして、なぜそんなことを今思い出したかと言うと……
「ねえねえ~そこの坊や? 私~ボスから~『何で宝石もハチミツも全然来ないのよ!! もうキラキラしているものなら何でもいいから早くとってきて! 次持ってこなかったらお前ら全員ぶっ殺す!!』……って言われてるの~。だから~お願いっ。ここの魔石……あなたが狩ったぶんもお姉さんに譲ってほしいの~。もしも嫌だって言うなら~……」
お姉さんが両手にナイフを掲げた。
「ぶっ殺しちゃうよっ」
優しく小首をかしげるお姉さん。
涼しい胸元の上は、幾度となく見てきたあの憎たらしい黒いマスクで覆われていた。
小さな恋の始まりだと思っていたお姉さんとの出会いは前途多難、闇ギルドとの無駄な因縁の始まりだった……。




