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底辺冒険者と高飛車サモナー⑦


「さあ、そこのウシ女! 無駄な抵抗はよしてヘンリックの遊び相手になるんだ!」


 ヘンリック――変態ドラゴンの背中から、パトがピンク髪を振り乱しながら言う。


「あんな姿になったエルを見て、おとなしく言う事を聞くわけないでしょう!?」


 ランがエルを指さしながら拒否する。


「う、うぅ……」


 草むらの真ん中ですすり泣くエル。

 粘液やら唾液でまみれたエルには、スライム一匹近寄ってこない。

 さすがのランもエルの二の舞になるのだけは嫌らしい。

 あの変態ドラゴンの目当てが自分の体であるのだから、なおのことだ。


「あくまでボクの命令に背く気か。いいだろう! ならば力づくで捕らえるまでだ!」


 パトが悪役顔負けの言い回しでドラゴンの背中をポンと叩くと、それを合図にドラゴンがランへと襲い掛かる。


「くっ!」


 一飲みにしようとするドラゴンの攻撃をランはギリギリのところでかわす。


「そっちがその気なら私もこの棍で……対抗します!」


 そう言って、ランは頭に刺さりっぱなしだった棍を引き抜くと、ドラゴンに向けて勢いよく構えた。


「フン。その武術家のような見た目にその構え……見たところ近接系の職業のようだな。だが、ボクのヘンリックは底辺冒険者レベルで太刀打ちできるほどやわじゃないぞ!!」


 パトが再びドラゴンの背中を叩く。

 今度は鋭く分厚い爪が両方向から飛んでくる。

 俺がいる位置からでも風圧を感じるほどの威力。

 ランの体ほどもある凶器が風を切りながら迫る。


 パトのやつ……手加減ってものを知らないのか!?


「くッ、なんのこれしきッ!!」


 人など一瞬で真っ二つにしてしまうであろう勢いで迫る大爪。

 しかし、ランは棍を器用に操り、ドラゴンの攻撃を弾いた。


「ふーん……。底辺冒険者パーティーの一員にしては少しはやるようだね」


 その華麗な立ち回りを見たパトが少し驚いたように目を見開く。


「だけどそれがいつまで続くかな!? ハハハハハッ!!」


 ウシ女によほどの恨みでもあるのか、ランに対して容赦ない攻撃を仕掛け続けるパト。

 いくら自分のプロポーションに自信が無いからと言って、あそこまで人は豹変するものなのだろうか。

 高貴に振舞っていたパトの面影はもはや消え失せ、今では巨乳をこの世から撲滅するためにドラゴンに鞭をふるう女王と化している。


「あいつ、大丈夫か……」


 俺はドラゴンの攻撃が当たらない安全地帯から、ランを見守る。

 いや、ほら、俺が助けに行ったらランの邪魔になるかもしれないしな、うん。


「……」


 というより、ランと一緒に戦うという選択肢はもとより無い。

 俺は、ランと初めて会った時のことを思い出す。

 ランが棍を振り回せば手を滑らせて俺に当たり、投擲すれば物理法則を無視してまで俺に当たる。

 そんなドジっ娘ファイターと共闘なんて二度とごめんだ。

 ほら今だって……



「ハッ! セイッ!!」


 カンッ! ガキィッ!


「セイヤッ!!」


 キィィィン!!



「……あれ?」


 おかしい。

 そろそろランが手を滑らせて、さっきのスライム戦みたく自分の頭に武器を突き刺す大道芸を披露する頃合いなのだが。

 洗練された技の大盤振る舞いは一向に途絶える気配を見せない。

 次々に繰り出されるドラゴンの猛撃の力を分散させるが如く華麗にいなしていく。

 自身よりも強大な敵と互角に戦う姿はまるで、熟練した上級冒険者のよう。

 いままでのドジっ娘ファイター・ランの影はどこにもない。


「いったいどういうことだ……? ランのやつ、なんであんな急に強くなっている……?」


 驚いているのは俺だけではなかった。


「な、なんだこのウシ女!? さっきのウシ女とは全然レベルが違うじゃないか!?」


 最初はドラゴンの背中に乗ってふんぞり返っていたパトも、ランの思いもよらぬ健闘に、余裕の表情を崩しかけている。


「ぐぬぬ……しつこいやつだな! このッ、このッ――!! いい加減ボクのウシ女撲滅計画の礎になれ!!」

 

 本音をダダ漏らしにしながら、一心不乱にドラゴンを操るパト。

 やはりあの変態ドラゴンを利用して、自分にとって目障りな乳を排除したいだけのようだ。

 持っているのが当たり前の貴族にとって、自分の持っていない物を相手が持っているのは腹立たしい……ってところか。

 ほんと、貴族という輩は救いようがない……。


「チームワークの為ならどんな苦行でもこなしますが、」

 

 ランがいつものように発した”チームワーク”という言葉に、俺は昔の記憶を走馬灯のように思い起こした。



~~~


『素晴らしいです! 感無量です! このパーティーから並々ならぬチームワークの波動を感じました』

『頑張ってください! チームワークですよ、チームワークッ!!』

『チィィィムワァァァクッッッ!!!』


~~~



「そうかわかったぞ! あいつ、自分のために戦っている時はドジをふまないのか!!」


 ランは急に強くなったわけではない。

 思い返せば、初めて会った市場での黒マスク戦でも、ハチミツ狩りのクエストをしていた時も、ランはチームの一員として戦っていた。

 ランがチームワークを語り、チームワークのために戦う時、それはランがドジっ娘プレーを連発する時と見事に一致している。


 つまり今のランは、”チームワーク”という足かせを外したことにより、本来持っている力を発揮できているだけなのだ。


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