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底辺冒険者と高飛車サモナー⑥


 尚も繰り広げられるドラゴンとの死闘……というか追いかけっこ。

 奴の狙いはランだけだというのに、なぜ俺までこんなとばっちりを受けなければならない!?


「おい、ラン! いい加減俺の後ろをついてくるのはやめろ! いつまでたっても脱出できないだろうが!」


 俺がいまだにドラゴンから逃げ回っているのには理由がある。

 それは……


「そんな殺生な!? ここは私とユーヤ、2人で力を合わせてあの古龍種を撃退するべきだと思います! チームワークです、チームワーク!!」


 俺の背後にピタリとつきながら、”ドラゴンとの対峙”という俺にとって何のメリットも無い提案をしてくるお団子頭――ランのせいであった。

 ランは、変態ドラゴンの標的が自分の体であると知るやいなや、どうにか俺と共闘するべく、必死に後をついて回っていた。

 結果、俺もランと一緒にドラゴンから逃げざるを得なくなっている状況だ。


「バカかお前は!? あんなデカブツ、アリシアがいるならまだしも俺とお前の二人だけで対抗できるわけないだろ!」


 こういう時の頼みの綱であったアリシアは、巨乳好きの変態ドラゴンから相手にされなかったことにショックを受け、今では足元の草を悲しげにむしるだけの人形と化していた。


「だいたいお前、魔石スライムすらろくずっぽ倒せないのに、どうやってあのドラゴンと戦う気なんだ!?」


 はるか遠い昔のように感じるが、当初の目的は魔石採取、ひいては魔石スライム討伐だった……はず。

 色とりどりにぬめり光る魔石スライムたちは、鬼ごっこをしている俺たちを横目に、草むらをのんびりと這いまわっていた。

 そもそも、パトがあの変態ドラゴンを呼び出したのは、俺のパーティーメンバーがあの最弱とうたわれる魔石スライムですら1匹も討伐できなかったことに原因があるのだ。

 そんなスライム以下のメンバーでどうやってドラゴンを倒せるというのだろうか。


「あ、あれは! ちょっとたまたま私の調子が悪くて、攻撃が計らずも思いがけずスライムの体を避け、偶然それが何度も続いただけなんです!」


「なんだその不確定要素の塊みたいな言い訳は!?」


 このエセカンフー娘め……。

 もう慣れてしまったが、本当にランの見掛け倒し感にはため息が出る。

 ファイターとしての能力は申し分ないのだがな。

 いささか……いや、だいぶドジなのが唯一にして最大の欠点だ。


「たまたま調子が悪いだけで、自分で繰り出した攻撃が自分の頭に返ってくるなんてことがあってたまるか!」


 俺はランの頭頂に刺さったままの棍を指摘しながら続ける。


「そんなにあの変態ドラゴンの遊び相手になるのが嫌ならな、そのお団子頭に刺さってる自分の武器で何とかしてこい!」


「へ? 頭?」


 ランが驚いたように、自分の頭頂を見上げる。

 まさか、今の今まで自分の武器が刺さっていたことに気づいてなかったのか?

 こいつの頭の神経はどうなっているんだ……。


「おぉ! 先ほどから頭にうっすらと感じていた違和感はこれでしたか!」


 よし、ランの注意が上に逸れた!

 俺は『うっすらとしか感じてなかったんかいッ!』とツッコミたいのを我慢し、逃げる足に急ブレーキをかけ、すぐさまランの足を引っかけた。


「ふぇ――!?」


 ファイターといえど急な不意打ちには対応できなかったようで、ランは情けない声を上げながら草むらにダイブした。

 俺はすぐさまランから距離をとる。


「ユ、ユーヤ! 不意打ちとは卑怯ですよ!?」


「卑怯はフェイカーたる俺にとっては最上級の誉め言葉だ」


「~~~ッ!?」


 言葉にならない表情をするラン。

 そしてその顔には一瞬にして青スジが入る。


「グフゥゥゥ……」


 ドスンという重たい足音とともに、ランの周囲に濃い影が差す。

 ランはもう逃げられないと腹をくくったのか、逃げようとはせず立ち上がってドラゴンに向き合った。


「フン。良い度胸だ。さあ、おとなしくヘンリックの遊び相手になるがいい!!」


 パトが貴族らしからぬ悪逆に満ちた顔でランに命令する。

 もうあいつが魔王軍の幹部だと言われても納得するほどの悪人面だ。

 よっぽどウシ女……もとい巨乳を忌み嫌っているらしい。


「ヘンリック! 次の遊び相手はそこの棒が刺さっているウシ女だ!」


 パトがランを指さすと、変態ドラゴンは主の言葉を理解したようにランを熱い視線で凝視する。


「グフゥゥゥ……――ペッ!!」


 そして、完全に興味をランへと移した変態ドラゴンは、口に含んでいたエルを玩具に飽きた子供みたく吐き捨てた。


「あぷっ!?」


 ドシャッ! という吐しゃ物がぶちまけられたような音と共に、エルが草むらに投げ出される。

 エルが身に着けていた自慢のシルクハットとマントは、ドラゴンの唾液を吸って見るも無残にベトベトになっていた。


「うぅ……ひぐっ……もうお嫁に行けない……」

 

 唾液と涙の区別がつかないほどにびしょびしょに顔を濡らすエル。

 先ほどは足の反応でしか生存が確認できていなかったが、見たところ外傷は無いらしい。

 ……代わりに心には深い傷を負っているようだが。

 というか、ドラゴンの口の中でエルは一体どんな遊びをさせられていたのだろうか……すごく気になる。


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