底辺冒険者と高飛車サモナー⑤
「いけぇヘンリック! 世にはびこるウシ女を片っ端から食い尽くせ!! ハッハッハッ~!」
もはや当初の目的など頭にない様子のパト。
本来のターゲットである魔石スライムなど眼中になし。その眼は世界からのウシ女撲滅にのみ燃えているようだった。
「あいつどこまでウシ女を嫌っているんだ!?」
パトが高笑いする中、ランがひそひそ声で俺に尋ねる。
「ユーヤ。もしかして、エルがあの古龍種の生き残りに真っ先に目をつけられた理由って……」
「ああ。おそらく、エルがこの中で一番肉付きがいいからかだろう」
あの主張の激しい胸に尻。
見ただけでわかる。メンバーの中で一番に肉を蓄えているのは紛れもなくエルだ。
……ん? 待てよ? ということは……
「今追いかけられているのって、俺やアリシアじゃなくて……」
俺がふいにやった視線にランが気づく。
「え、私ですか!?」
「どう見てもそうだろうが!」
ランの胸元を凝視する。
エルほどではないが、中々に見事な物を持っている。
むしろ、良い肉付きと言うのなら、引き締まったスタイルのランを真っ先に狙っていてもおかしくはないほどだ。
「俺は論外だし、アリシアは……その、アレだし! どう考えてもあとはお前しか残っていない!」
「ユ、ユーヤさん! アレって何ですか!? アレって何ですか!?」
ぐいぐいと俺のローブを引っ張るアリシアを無視して、ランに詰め寄る。
「いいから早くあの変態ドラゴンの遊び相手になってこい!」
俺がドラゴンを指さすと、その背中から怒号が飛んできた。
「おい! 今の発言は聞き捨てならないぞ! さっきも言ったがこいつにはヘンリック=タイラント2世という高潔なる名があってだな!」
「ヘン……タイ……やっぱり変態じゃないか!!」
「妙な訳し方をするな!!」
パトが何と言おうと、どう考えてもそんな遊びをするやつは変態だろう。
どこかしらあのドラゴンの顔も、たるみ切った恍惚の表情をしているように見える。
酒場でウェイトレスの尻を凝視している時のおっさんでもあんな顔はしないぞ。
「ボクはもう怒ったぞ! やっちまえヘンリック!!」
貴族の生まれが台無しの汚い言葉を吐いて怒りをあらわにするパト。
しかし、明らかに変態ドラゴンの方はパトの意志と反して、ランに照準を合わせたまま走っている。
「頼む! 生贄になってくれ! ラン! 自己犠牲の精神で!!」
「そう言われましても……自己犠牲と生贄はどこか違う気が……」
歯切れ悪く返すラン。
いつもはチームワークとか言ってるくせに、なぜこういう時に限って慎重なんだ!?
ここはランを蹴落としてでも、生き残らなければ。
狙われていないとはいえ、何かの拍子に踏みつぶされたらたまったものではない。
俺がランの足元を見ながら、どう転ばそうか考えていたその時だった。
「ユーヤさん! 無視しないでください! アレっていったいどういう意味なんですか!? アレって――ピャァッ!?」
「アリシア!?」
ランの代わりにアリシアが転んだ。
バランスを崩したまま、地べたに顔面から着地する。
歩を止めたアリシアとの距離はみるみるうちに広がっていく。
「アリシア! 後ろ後ろ!!」
「へ?」
ランに指摘され、後ろを振り向くアリシア。
「あ、ああ……」
そして、小刻みに震え始める肩。
地面に座り込むアリシアの目と鼻の先には、目の前にいる人間を興味津々で観察する変態ドラゴンの姿が。
もう逃げられない。
「アリシアが変態にロックオンされたぞ!?」
俺とランは一旦逃げるのを止め、その様子を見守る。
変態は口の中でエルを弄びながら、震えるアリシアをどこか品定めするように凝視する。
ねっとりとした熱い視線でアリシアの顔や生足を流し見る変態。
「フシュー! フシュー!」
興奮しているのか、段々と鼻息が荒くなっていくのがここからでもはっきりと聞き取れる。
……が。
変態は最後にアリシアの胸部を見ると、
「……グフ」
今までの高揚が嘘のように、アリシアからそっぽを向いた。
つまらなそうに鼻息でアリシアを一蹴する。
「ぶわぁ!?」
風圧に負けてコテンと尻もちをつくアリシア。
その様子をパトが上から見下ろしながら言う。
「そこの地味フード。お前はその……ヘンリックの遊び相手としては……アレだったらしい。命拾いしたな」
「だからアレって何ですか!!」
あの変態ドラゴンにとっては、アリシアの平坦な体つきは残念に映ったようだ。
もはや肉付きと言うかただの巨乳好きじゃないか……。
「グフゥゥゥ……」
変態はエルの上半身が入っている口の中をレロッと動かす。それに合わせて足をピンッと張るエル。
いったい中で何が行われているのか……知りたいような知りたくないような……。
「ユーヤ! ま、また来ますよ!」
ランの声で我に返る。
「グオォォォ!!」
「ひぃぃぃ!!?」
変態は再びこちらに照準を合わせ、地鳴りとともに迫ってきた。
草原の真ん中にアリシアを残して再び追いかけっこが始まる。
「うぅ……アレって……アレって……」
いじけたように地面を指でなぞるアリシア。
変態の魔の手から逃れられたというのに、その顔はどこか悲しげだった。




