底辺冒険者と高飛車サモナー②
「とりあえず、ユーヤの仲間がどいつもこいつも役立たずってことはわかったよ」
「ぐっ……」
何も言い返せない。
クエスト開始から数刻たったが、いまだに魔石スライムの討伐数はゼロ。
パトがいる手前、バカにされまいと必死に平静を装おうとしていたが、さすがの俺も限界だ。
「お、おいお前ら!! いったん集合だ、集合!!」
たまらずメンバーを呼び集める。
しばらくして、スライムの粘液でドロドロのエル、息切れグロッキー状態のアリシア、脳天に棍が突き刺さったままのランが戻ってきた。
ろくに戦っていないくせに全員心も体もズタボロ。
なんともしょうもない光景である。
「スライム相手になんだこの体たらくは! 最初から大して期待してなかったが、まさかここまでとは思わなかったぞ!」
一列に並んだ3バカにズビシッと指を突き付ける。
「だ、だってしょうがないじゃん!! わたし、マジシャンだよ!? 1人でモンスター倒せるわけないでしょ! あれだけユーヤに助けてって言ったのにぜんぜん助けてくれないし! だいたい、何でユーヤは安全なところで見てるだけなの!?」
マントから粘液を滴らせ詰め寄ってくるエルに、ランも続く。
「エルの言う通りですよ! そこのピンク色の方――」
「パトリシアだ!!」
「――パトリシアさんに私たちのチームワークを見せつけるんじゃなかったのですか!?」
「そんなこと一切言ってないだろうが」
暑苦しく顔を近づけるランを押しのける。
「いいか? 俺はこの前のハチミツの件を許したわけじゃないんだ! お前らはこの前全く働いてない。だから代わりに今日俺は働かない! 当然のことだろう」
「サイテーだ!?」
「最低ですね」
「最低……です……」
3人口を合わせて俺を睨む。
その息の合った動作をなぜ戦いに活かせないのか……。
「何と言おうが俺は動かないぞ」
「そう言わずに、ゆ、ユーヤさんも手伝ってくださると嬉しいのですが……。わ、私には荷が重すぎます……ケホッ」
アリシアが全体重を杖に預けながら、ゆらりと顔を上げる。
フードの影から垂れる銀髪が、今は老婆のそれにしか見えない。
「荷が重すぎますって……。アリシア。まずお前はハイウィザードらしく魔法で戦ってからそう言ってくれ……」
「あ、そ、それは……」
途端にもじもじし始めるアリシア。
様子がおかしい。
「ん? 何か理由があるのか?」
俺が尋ねると、
「バリーは言ったんです……『魔法よりも大事なもの……それは筋肉だ!』と!!」
アリシアはフードをバサッと取り外し、グイっと顔を寄せながらそう言った。
は、はい? バリー? 筋肉?
「バリーはあんなにすごい魔法が使えるのに、ここぞというときの大事な場面で全然使わないんです。だ、だからッ! バリーを見習って、わ、私も魔法を使わないでスライムさんを倒そうとですねッ!?」
小さな手をブンブン上下させながら熱弁するアリシア。
目の輝きが眩しい。
たしかバリーとは、以前アリシアが自身の初給料をほとんど使い込み買い集めた”バリー・ボッタクリ―”シリーズの主人公のことだったか。
肝心の本の内容がものすごく気になるところだが、まさかアリシアが物語の人物にここまで影響されるとは……。
もう、純粋と言うか何というか……考えたくはないが、もしかしたらアホなのかもしれない。
「バリーのように、魔法に頼らず気合と根性と筋持久力で相手に殴り勝つのが目標です」
「なにその魔法使いにあるまじき脳筋思考!?」
フィジカルとは真反対に位置するアリシアから飛び出したトンデモ発言。
これは影響されやすいというか、騙されやすいととったほうが正しいかもしれない。
この純真さを悪いやつらに利用されないか心配だ。
俺がアリシアの将来に頭を抱えていたその時、
「はぁ~~~~まったく! なっさけないなぁ~~~~~!!」
背中からわざとらしく大きなため息が聞こえてきた。
声の主は振り向かずともわかる。パトだ。
「今度はなんだよ。こっちは取り込み中だ。部外者のお前が割り込んでくるな」
「(な!? ぶ、部外者ってなんだよぉ……。ボクだって今はユーヤのパーティーメンバーなのに……)」
急に下を向いて、パトがボソボソと何かつぶやく。
ブーツの角を地面に押し付けてどこか拗ねたような態度をとる。
なんだ? 今度は俺をブーツのかかとですり潰そうってか?
「おいパト。なんだ急にゴニョゴニョしゃべり始めて? 用があるならハッキリと――」
俺がふいに近づいた瞬間、パトが驚いたように顔を上げた。
「ハッ――!? う、うっさい、黙れバカ! あっち行け!!」
そしてハイキックをみぞおちに食らう。
しっかりとかかとが急所にめり込む見事な蹴りだった。
「ぐふっ。こ、これならまだかかとですり潰されるほうがマシだった……」
「何訳の分からいこと言ってるの?」
気を取り直した様子のパト。
やはり俺に一撃食らわせるのが目的だったらしい。
パトはサラサラピンク髪を不機嫌そうになびかせ、俺たちから見える位置に立つと、
「お前たちの実力は今のでよーくわかった! ここからはボクに任せてもらおうか」
と、平坦な胸を存分に反らして言った。
「任せるって……まさかお前」
「お、おっと! 勘違いするなよユーヤ? 底辺冒険者パーティーと共闘しようだなんてさらさら思ってないからな!? これはあくまで、あ~く~ま~で! ボクの実力を知らしめるためのものであって、決してそれ以上でもそれ以下でもないというか……その、とりあえず見てもらいたいっていうか……」
横柄な態度から後半にかけて声のトーンが徐々に下がっていく。
後半はほとんど聞き取れなかった。
「おい、ハッキリしろ。いったい何が目的なんだよ」
「う、うるさいなぁ! その、つ、つまりは! ボクの力をお前たちに見せつけて、冒険者としての格の違いを見せつけてやろうってことだ!」
パトはぶっきらぼうにそう言うと、ピンクのヴェールに包まれたその懐から一冊の本を取り出した。




