底辺冒険者のロマン溢れるバーティー改革⑥
「さ〜て、どれにしようかな〜」
びっしりと貼られたクエスト依頼書を流し見る。
「おっ! ちょうどいい感じのクエストがこんなところに――っておい、何の真似だ」
俺が掲示板から依頼書を剥がそうとするのを、小さな手で抑える者が1人。
パトだ。
さっきまで掲示板の隅でしょげていたはずのパトが、いつの間にやら俺の隣に舞い戻っていた。
「何の真似? ボクはただこのクエストを受けようとしてるだけだけど?」
「どっか行けって言ったと思いきや、今度は嫌がらせか?」
「何それ。ボクはそんなこと言った覚えないけど」
どうやらこの貴族、容姿だけでなく頭の中も真っピンクらしい。
相手にするのも面倒なので手で追い払う。
「これは俺が先に見つけたクエストだ。邪魔すんな、このつるぺたすってんとん」
「そっちこそボクに譲りなよ。この3K冒険者」
「あ? 3K?」
「汚い、金なし、根性なし」
「ぐっ……」
コイツ、すっかり元の調子になってやがる……。
「だいたいお前、今日はクエスト受けないって言ってただろうが! おとなしくよこしやがれ!」
俺が依頼書を引っ張り、
「いやだ! これはボクが受けるんだ!」
負けじとパトも小さな体を目いっぱい使って引っ張り返す。
きれいに整っていたピンク髪を振り乱し、どうしても渡したくないといった様子だ。
「なにムキになってやがる!? 離せコラ!」
「い~や~だ~!!」
一枚の依頼書を境に繰り広げられる攻防。
両者一歩も譲らず、依頼書を引っ張り合ったまま受付まで移動すると、
「「このクエスト受けたいんですけど!!」」
ダンッと机の上に依頼書を叩きつけた。
無論、俺もパトも依頼書から一切手を離さない。
ガンを飛ばし合う二人に対し、受付の役人が困り顔で口を開く。
「え、えぇ~と……では、こちらのクエストの契約金、銀貨5枚をいただきます……」
「は? 銀貨5枚?」
しまった。契約金のことをすっかり忘れていた。
慌てて財布を開けるが、入っていたのは銅貨が数枚。
全然足りない。
「そ、それって先払いですか」
「もちろんです」
淡々とそう語る役人。
俺がガクッと肩を落とすと、隣からそれはそれは嬉しそうに上ずった声が聞こえてきた。
「プププ! おやおや~? まさかそちらの底辺冒険者様は銀貨5枚すらお持ちでないとぉ~?」
「ぐふっ」
何も言い返せない……。
「じゃあこのクエストはボクが受けるってことで文句ないよね? ほら、契約金だ、釣りはいらないぞ」
そう言って、俺に見せつけるように金貨1枚を役人に渡す。
「では、こちらの依頼書に契約人のサインと、パーティーメンバーのお名前を」
「はいはい、サインくらいお安い御用だ……って、ん? パーティーメンバー?」
依頼書を奪い取ったパトの手が止まる。
「はい。ご依頼人様の要望で、こちらのクエストを受けていただくには、4人以上のパーティーであることが条件となっております」
「よ、4人……?」
わなわなと震え始めるパト。
一気に形勢逆転。この好機を逃す俺ではない。
「フハハハハ! ちょうど俺のパーティーは4人だ! 契約金も払ってあることだし、後は俺たちが引き受けよう! 残念だったな、パト!!」
そう言って、パトの手から依頼書をひったくる。
「なっ!? 契約金を払ったのはボクだぞ! 返せ、このドロボウ!」
「往生際が悪いぞ、パト! このクエストはぼっちのお前には受けられないんだから、おとなしく看板背負って仲間探しの続きでもしていろ!」
依頼書を取り返そうとするパトを押さえつける。
「なんだと!? 返せ! この、このッ!」
依頼書に手を伸ばすパトだが、彼女の手の長さでは届かない。
「ぐわ~ッ! 返せぇーッ!!」
駄々をこねた子供のように否応なく暴れ始めた。
もはやその姿に貴族の余裕は見られない。
手が当たった拍子に机のインクは弾け飛び、役人の顔面を真っ黒に染める。
「返せバカ!」
「うっせえチビ!」
それでも俺とパトの小競り合いは止まらない。
「バカ!」
「チビ!」
「バカ!」
「チビ!」
「バカ!」
「チ――」
「うるせぇぇぇぇぇぇッ!!!!!!!!!!!!
永遠に続くと思われた俺とパトによる程度の低い口論は、役人の地を引き裂くような怒鳴り声であっけなく終わりを迎えた。
「「え――――」」
淡々とした語り口だった役人から発せられた怒号。
そのあまりの勢いに、俺とパトは静かに互いの手を引っ込める。
見れば、役人の顔はインクまみれでもわかるくらいに赤く煮えたぎっていた。
「いい加減にしろよ、てめぇら!? こちとらお前らみたいなクソガキの相手してる暇はねェんだよ!! クエスト受けるのか受けねえのかはっきりしやがれ!!」
俺はキレ顔で詰め寄る役人に完全にひるみながらも、できるだけ低姿勢で口を開く。
「で、でも、俺は契約金払えないし――あ、ですし……」
「ボ、ボクもパーティーメンバーが足りない――です」
パトも慣れない様子の敬語で続く。
しかし、そんな俺たちの煮え切らない態度が裏目に出たのか、役人のイライラは更にヒートアップした。
「ならてめえら二組でクエスト受ければいいだろうが!!」
「なっ!? こんな低俗な奴らとパーティーなんて――」
「は!? そんなの俺だって――」
『嫌だ』――そう言いかけたその時。
「――やれ」
役人の心底ドスの効いた殺気溢れる言葉に、
「「――光栄です! ぜ、ぜひ一緒にやらせていただきます!」」
パトと肩を抱き合い、ほがらか笑顔で承諾するしかなかった……。




