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底辺冒険者のロマン溢れるパーティー改革④


『えぇ〜!!? い、いきなりどうしちゃったの!?』


 エルの驚き慌てる声がこちらまで響いてくる。

 視線の先――そこには、エルのたわわに実った両胸をそれこそ果実でも握り潰すかのように鷲掴んで離さない妖精の姿があった。

 その荒々しく豹変した妖精の様子にひるみ、エルはなすがままに胸を揉みしだかれている。


『な、なんだこのはしたない乳は! これ見よがしに見せつけやがって! ボクへの嫌味か!? 当てつけか!?』


 妖精は、自分には無いその膨らみを恨めしそうに睨みつける。

 そして、平和だったギルドハウスの静寂を切り裂くように、妖精の皮を被った悪魔が雷鳴の如く降臨した。



『お前みたいな知性の欠片も感じられないアホ女と冒険なんてするか! 胸についたその余分な脂肪を削ぎ落としてからボクに話しかけろ! この低能ウシ女ッ!!』


『うえぇ〜〜〜!!?』



 甲高い声音の罵倒がギルドハウスの高い天井を駆け抜ける。

 その突然の喧騒に、一瞬時が止まったかのようにギルドハウス内にいる人間全員が動きを止めたが、『なんだ、いつものことか』と、何事もなかったようにそれぞれの作業に戻っていった。


「「………………!!??」」


 しかし事態を飲み込めていないランとアリシアだけは、その場で硬直したまま顔を引きつらせている。

 アリシアに至っては、ショックで顔が青ざめ今にも気絶しそうだ。


「うっ……ふえぇ……」


 しばらくすると、妖精から罵声を浴びせられたエルが、赤白のマントで涙を拭いながらトボトボと帰ってきた。

 意気揚々と向かっていった先ほどまでの様子が嘘のように、エルの顔は涙と鼻水でぐしゃぐしゃになっている。


「…………!?」


 口を開けたままのランがやっとの思いで俺の方を向くと、べそをかきながら立ち尽くすエルと額に手を当てている俺を交互に見ながら目を大小させた。

 まだ状況を把握しきれてないようだ。

 俺は泣きじゃくるエルを見て大きく溜息をつく。


「だから言っただろうが。勝手に行くなと。案の定泣かされて帰ってきたじゃないか」


「ユ、ユーヤぁ〜……グスッ。わたし、なんか悪いことしたぁ……?」


 エルが鼻をすすりながら俺の肩を力無く揺すってくる。


「いや、何を話していたかは知らんが、今回ばかりはお前に落ち度はないと思うぞ。お前に悪いところがあるとするならば、あの妖精もどきに話しかけたことくらいだな」


「うぅ……ふつうにお話したかっただけなのにぃ……」


 顔に両手をあてしゃがみこむエルを見て、ランとアリシアがやっとの思いで口を開いた。


「ユーヤ……! い、いったい今何が起きたのですか……?」


「あぁ、エルさん……どうしてこんなことに……」


「二人のために一応説明するとだな、エルが不用意に話しかけたことによりあいつがキレてありとあらゆる暴言を吐かれた……ってところだ」


「「全然説明になってません!!」」


 二人がそう不満げな顔で詰め寄ってくるのをそっぽを向いて流す。

 俺に説明を求められても困る。


「あ、あの子はいったい誰なんですか!?」


 人差し指に動揺を乗せてランが妖精を指差す。

 ピンク色の妖精は少し不機嫌な顔をしながらも、先ほどと同じようにして掲示板の隅を陣取ったままだ。


「あいつの名前はパトリシア。俺は面倒だからパトって呼んでたけどな。ちんちくりんなナリをしてるが、一応あのルーゼンベルグ家の一人娘にして時期当主だ」


 俺がそう答えると、


「ルーゼンベルグ家!? あの、ルーゼンベルグ家ですか!?」


 思いもよらぬ単語が出てきたためか、ランは更に動揺を重ねて聞き返してきた。


「ルーゼンベルグ家? 有名なお家なんですか?」


 わたわたするランを横目に、アリシアが尋ねる。


「ああ。有名も有名。なんたってここラストリアを代表する三大貴族の1つだからな」


「貴族……ですか?」


「そう、貴族。ほら、ラストリアの北地区にアストラ王国の国王が住んでいるでっかい城があるだろ? その近くに建っている3つの小さな城の内、1つがルーゼンベルグ家の所有する城だ」


「うわぁ……それは凄いですね……」


 アリシアが納得したように感嘆の声を漏らす。


「まあ凄いと言っても、俺からしたら、貴族なんてものは過去の栄光にすがる国のお荷物にしか見えないけどな」


 そう吐き捨てるように言って、俺はパトを一瞥する。


 貴族とは魔王討伐に貢献した元冒険者の成れの果てであり、格差の象徴とも言える憎たらしい存在である。働かずして豪華絢爛な生活……来世というものがあるのなら、俺も下級国民の税金で優雅に暮らしたいものだ。

 だからこそ、その貴族であるパトがわざわざこんなところまで降りてきて冒険者をやっていることに前々から疑問を抱いていた。


「よし、こうなったら!」


 ランが急に声を張る。

 今度はなんだ?


「次は私があの子に話しかけてみます」


 そう言って、拳を握りしめながら両目に炎をたぎらせてパトの方を向く。

 その自殺行為ともとれる行動に思わず目を疑う。


「な!? ラン、お前正気か!? 今のエルとのやり取りを見ていただろう!」


「見ていたからこそです! 仲間を泣かされては黙っていられません。エルの敵は私がとります! チームワークです!」


 両拳を前で力強く握り直すラン。

 カンフースーツに包まれた胸部が揺れる。


「いや、だからといって……」


 ランが話しに行ったところで、エルと同じようにウシ女認定されて泣かされるのがオチだ。


「これ以上余計な犠牲者を出してもしょうがないしな……」


 煮えきらない様子の俺に、ランがむっとした表情を向けてきた。


「ならユーヤが行ってください。ユーヤと彼女は幼馴染なのでしょう?」


「俺なら犠牲になってもいいってか……」


 仲間を泣かされたことが許せないといった様子のラン。

 普段はドジな行動が目立つが、こういう仲間思いな部分は評価してもいいかもしれない。

 まあこいつがチームワークと言う時は高確率でそのドジをやらかすサインなので注意が必要だが。


「わかった……。俺が代わりに行ってやるよ」


 嫌々ながらも溜息混じりにそう告げると、


「おぉ! それでこそリーダーというものです! チームワークの波動を感じます、はい!」


 キラキラと目を輝かせながらランのお団子頭が嬉しそうに跳ねた。

 よし。やはりランに行かせないで正解だったな。

 滑ってコケて話し合う前にパトに罵られる未来が見える。


「言っておくが、幼馴染というのは名ばかりで、その実全然馴染めてないからな? 元々そこまで仲良くなかったが、エルとパーティーを組み始めた頃からなぜかガン無視されるようになったし」


 この前なんて、明らかに目が合ったのにも関わらず、まるで空気のような扱いをされたばかりだ。

 身分の差か、はたまた相性が最悪なだけなのか、とにかくパトの考えていることはよくわからない。

 先ほども言ったが、出来れば関わりたくないというのが本音だ。


「大丈夫です。チームを思う心があればどんな苦境でも乗り越えられます!」


「ユーヤさん! が、頑張ってください! ホルホルティの加護があらんことを!」


「お、おう……」


 と、謎の精神論と出処不明の神のご加護とともに背中を押されてしまった。


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