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底辺冒険者とハチミツ狩り⑥


「こんなんじゃ、いくら時間があっても……」


 黒マスクをチラ見する。

 ランがあの様子だと、頼れるのはもう自分しかいない。

 だが、もうそろそろ時間稼ぎも限界――


「クソガキのくせにオシャレしたいだの化粧したいだの喚き散らしやがって……! 大体俺たちは子守りをするために闇ギルドに入ったのではなく……」


 ではなかったようだ。

 俺の不安をよそに、黒マスクの愚痴は止まるどころか加速しているように見える。

 闇ギルドのボスとやらは相当ワガママらしい。

 というか、ガキが闇ギルドのトップで大丈夫なのだろうか?


 だが、そのガキのおかげで黒マスクは隙きだらけ。

 今がチャンスだ!


「うおおおぉぉぉ!!」


「――なっ!? しまった!」


 大声をあげながら突進する。

 俺の突然の襲撃に面食らった黒マスクは、剣を防御にまわすしかなかった。


「俺の狙いはこっちだぁー!!」


 俺は黒マスクの防御には目もくれず、持っていたハチミツバチを奪い取る。

 そしてそのままランのいる方向へ走りだした。


「くそっ! 逃がすかぁッ!」


 我に返った黒マスクがすぐさま攻撃に転換する。


「――《斬空撃(ザンクウゲキ)》!」


 黒マスクが剣を縦に大きく振ると、風を纏った魔力の塊が放たれた。

 周りの草花を蹴散らしながら進む衝撃波。

 俺は走りざま横に転がりそれを回避する。

 

「あの黒マスク……やはりスキルを使えるのか!」


 闇ギルドのメンバーは元冒険者で構成されているというのは間違いなさそうだ。

 アリシアが戦えない今、まともにやりあったら敗北は必至。

 逃げるしかない!


 俺は黒マスクの後方を指差しながら大声で叫ぶ。


「あー!? あんなところにハチミツバチが!!」


「なに!? どこだ!?」


 振り返る黒マスク。

 よし。今のうちだ!


 俺は未だに黒マスクを狙い続けているランに声をかける。


「ラン! 当たらないものは当たらないんだ! さっさと諦めろ!」


「し、失礼な! 今度こそは当たリます! 今度こそは!」


「今は逃げるのが優先だ! アリシアを背負ってお前も逃げろ!」


「ぐぬぬ……」


 歯を食いしばるラン。

 よほど悔しいのか、武器を離そうとしない。

 こうなったら……


「チームワークだ! チームワーク!!」


 適当にチームワークと叫んでみる。

 なぜだが知らんが、ランはチームワークという言葉に弱い。


「くっ……チーム、ワーク……」


 やはりランには効果てきめんだったようで、あれだけ頑固に離さなかった武器を渋々置き、アリシアを背負って駆け出した。

 さすが武闘派の師匠に鍛えられただけあって、アリシアを背負っていることを感じさせない軽やかな走りだ。


 ランはその健脚をフルに活用し、脱兎の如く森の奥へ消えていった――と思いきや帰ってきた!?


「うぉい!? 何やってるんだラン! ふざけている場合じゃ――」


「ユーヤ! 逃げてください! 早く!!」


 全力ダッシュで逆走を続けるラン。

 青ざめながら走る様子は、慌てているというよりも恐怖で震えているように見える。


「『逃げてください!』って、今黒マスクから逃げようとしてるだろ!」


「違います! アレが来てるんです! アレが!!」


 ランが必死の形相で後方を指差す。


「アレ……?」


 木しか見えないぞ?

 そんな逃げるような物など何も――



『た〜……て〜』



 ん? 遠くから何か聞こえる……?



『た〜す〜……て〜』



 俺は音のする方向に目を凝らす。

 遠目からはよく見えない。

 ……が、しばらくすると、どこか聞き馴染みのある声がはっきりと聞こえてきた。



『た〜す〜け〜て〜〜!!』



 森の中を駆け巡る甲高い声。


「あの声は……」


 暗闇の中から声の主が姿を現す。

 大きなマントをバサバサとたなびかせ、金髪を振り乱しながら助けを求めていたのは、先ほど見事な敵前逃亡をしたエルだった。


「あいつ、逃げたと思いきやノコノコと帰ってきやがって……!」 


 ケツに思いっきり蹴りを入れてやる!


 こみ上げてくる怒りとともにエルの方へ走りだそうとしたその時だった。


「あれ? なにかおかしいぞ……?」


 微かな異変に気づいた俺は上げた足をその場に一旦下ろし、再び目を絞る。

 涙をちょちょ切らせながら走るエルの周り――細い林道をこじ開けるようにして、周囲の木が不自然になぎ倒されていく。

 エルの仕業ではない。

 エルの後を追うようにして、道が大きく開かれていくのだ。


 ミシミシ……

 べキッ、バキッ!


 太い幹が踏み抜かれたようにへし折れる音。

 足元からは段々と地鳴りが伝わってくる。

 そんな自然味外れたけたたましい伐採音とともに現れたのは……


 人の大きさほどの太い四肢に、大木を軽々粉砕する鋭いかぎ爪。

 黄色く彩られた剛毛を怒りに逆立て獲物を追う――



 1匹の巨大なクマだった。



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