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底辺冒険者とハチミツ狩り⑤


「まさか、またこんなところで出くわすとは……」


 驚き後ずさる俺に対し、黒マスクは首を傾げる。


「『また?』……ああ、そうか。アイツらが帰ってこなかったのはお前の仕業ってわけか」


「"アイツら"……? ということはお前、あの時とは別の――」


「おっと、おしゃべりはここまでだ。まずはそいつから手をどけてもらおうか」


 そう言って、黒マスクがハチミツバチを指差す。


「くっ……」


 渋々ハチミツバチから手を離すと、黒マスクがそれをすぐさま奪い取る。


 おそらくこいつはこの前の黒マスクとは別のやつだ。

 よく見ると、手にしているエモノが弓ではなく刀身の長い剣になっている。


 だが、いったいなぜ闇ギルドの連中がハチミツバチなんかを狙っている?


「おい貴様」


 黒マスクがナイフをしまう代わりに、腰から長い刀身の剣を抜いて切先を俺に向けてきた。

 まだ何か要求するつもりか!?


「な、なんでしょうか……?」


 剣から目を背けて返事をする。

 額からは脂汗が垂れる。


「お前、ハチミツバチの巣に特攻して中からハチミツを奪ってこい」


「はぁ!? そんなの無理に決まってるだろ!」


 自殺行為とも呼べる作戦を強要する黒マスクに、俺は思わず声をあげて反抗する。


「なら今ここで死ぬか?」


 しかし、喉元に近づいてくる切先に、


「喜んでさせていただきます」


 2つ返事で応じるしかなかった。

 クソ! 獲物を横取りされるだけでなく、こいつらのハチミツ狩りに利用されるなんて……!


「俺に、俺に力があれば……!」


 ……とまあピンチに立たされた主人公風に呟いてみたはいいものの、特に何も起こるはずはなく相手を睨みつけていると、



「(ユーヤ! こっち向いてください、こっち!)」



 黒マスクの背後、遠く離れた木の影からブンブンと手を振る人物がいるのに気づく。


 ランだ!


 黒マスクに剣を向けられているこの状況。ドジなランと言えど緊急事態だと察してくれたらしい。

 必死でこちらに手を振っている。


 ランは俺と目が合ったのを確認すると、身振り手振りを交えて何かを伝えてきた。


「(私が)」スッ


「(背後からヤツに)」ススッ


「(一撃喰らわせます……)」グッ


 おぉ!

 近接戦闘が得意なファイターであれば、不利な状況も一転。こちらの有利になる!

 頼んだぞ! ラン!


「(この棍を投脚して!)」シャキーン


 やめてくれ! ラン!


「(ふざけるな! それはさっきやって失敗してただろうが!)」ブンブン


 先ほどと同じように棍を担ぐランを止めようと、俺は慌ててジェスチャーを送り返す。

 しかし、ランはそれを無視して黒マスクに狙いを定め始めた。


「(このバカ! 後ろから忍び寄って一撃喰らわせれば済むことだろうが!)」


「(さ、さっきは久しぶりということもあり失敗しましたが、本来の私なら造作もないことです! 今度は失敗しませんとも! 今度は!)」


 どうやらランは先ほどの失敗を取り返そうとしている様子。

 どうにかしようにも、この距離では彼女の愚行を止めることができない。


「(見せつけてやりましょう! 私たちのチームワークを!)」(ニコッ)


「(……)」(……)


 もういい。勝手にしてくれ……。


「おい。さっきからなんだその妙な動きは」


 俺の不審な動きに気づいた黒マスクが詰め寄ってきた。


「まさか、味方がいるんじゃないだろうな……」


 黒マスクが俺への警戒を保ったまま、後ろを振り向こうとする。

 まずい! これではランの奇襲がバレてしまう!


「おい、黒マスク!」


「あ? 何だ小僧?」


 俺が叫ぶと、黒マスクは一旦後方確認をやめ、殺意のこもった眼球をこちらに向けてきた。

 超怖い。


「お、お前ら闇ギルドの目的はいったいなんなんだ……!」


「それを聞いてどうする」


「フ、フン。冥土の土産にな」


 俺がそう答えると、黒マスクの眼が殺意のこもったものから慈愛に満ちた眼差しに変化した。


「俺たちの目的なんかが最期の土産でいいのか……」


 俺が土下座した時に幾度となく向けられてきた可哀相な人を見る目だ。


「な、なんだよ! いいから言えよ!」


 なにか恥ずかしいことでも言ったか、俺?


「まあいいだろう。可哀相なお前に少しだけ話してやろう」


 か、可哀相って言うな!


「俺がこの森でハチミツ狩りなんかをしているのは……ボスの命令だからだ」


「ボス?」


 そう言えば、前にも黒マスクが同じようなことを言っていた気がするな。


「そう、ボスだ。ボスと言っても俺より年下だがな……」


 黒マスクの表情がマスクの外側からでもわかるくらいに歪んでいくのがわかる。


「あのクソガキ、『キラキラしたのが来ないからイライラしてお腹すいたの! だからなんか甘いもの持ってきて!』とかなんとか言って、偶然目に入った俺を無理矢理城の外に放りやがった……。ほんとどうかしてやがる……」


 そしてブツブツと愚痴り始めた。

 このやり取り、どこか既視感がある。

 闇ギルドも下っ端は大変なのだろうか。

 だが、おかげで時間を稼げそうだ。


「ランの様子は……」


 俺は黒マスクに警戒されないように、ランの方を盗み見る。


 ランはまだ黒マスクに狙いを定めている最中だった。

 ……2本の棍を頭に突き刺しながら。


「あいつ……俺が必死で時間稼ぎしている間に2回も失敗しやがった……」


 一向に攻撃してこないと思ったらそういうことか……。

 ランは半分泣きそうになりながらも3本目の棍を相手に……いや、自分の後頭部目がけて投げようとしていた。

 性懲りのないやつだ。


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