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底辺冒険者は厄介ごとに巻き込まれる


「た、たのむ……殺さないでくれ……」


 ランが手をコキコキ鳴らして”実演”の準備をし始める。


「ダイジョーブです! 今度はちゃーんとやりますから!」


「バカの言う『ダイジョーブ』に大丈夫だったことなんて――」


「ではさっそく」


「やめてぇぇぇ!」


 ランが布に包まれたエモノに再び手をかける。

 すると、エルが不思議そうに俺の後ろからひょっこりと顔をのぞかせてきた。


「ねえねえ、さっきからユーヤと楽しそうにお話ししてるこの人、だーれ?」


「今のやり取りのどこらへんに楽しそうな要素があったのか言ってみろ」


 俺の命乞いはそんなにコミカルだったか?

 だとしたら本当に命乞いするときに困るな。


「よっこらせと」


 そうこうしているうちにランが布包みを持ち上げた。


「ヒィッ!? 始まっちまう!」


「始まるってなにが!? もしかしてこれもパフォーマンス?」


「は?」


 もしやこいつ、買い物ついでに大道芸人のショーでも見ていたな?

 妙に帰りが遅かったのはそのせいか……。

 

「はい! 度肝を抜く技の数々をあなたにもご覧さしあげましょう」


 子供のように目を輝かせているエルに、ランがほほ笑み返す。


「やったー!!」


「……度肝を抜くって、物理的な意味じゃないよな」


「……」


 返答がない、というか。

 ランは俺の問いかけに応じないどころか、市場の方角を向いて、神経を研ぎ澄ませるようにして遠くをじっと見据えていた。


「うぉい! 無視すんな!」


「――いえ、違います」


「なに?」


「何やら騒がしい気配がします――こっちです!」


 そう言って、ランは武器のくるまれた布包みを担いで市場bの方へ走り去ってしまった。

 わけがわからない。

 ……が、これは思ってもいないチャンスだ。


「よし、俺はこの隙に逃げ――」


「ユーヤ、わたしたちも見にいこーよ! ほら、アリシアちゃんもちゃんと担いで!」


「なッ!?」


 エルに気絶したアリシアを背負わされ、強引に腕を引っ張られる。

 ウキウキ顔で軽足を弾ませるエル。

 明らかにパフォーマンス見たさでランについていこうとしている。


「待て、エル! これは明らかに何かしらのフラグが立っている! 関わったら大変なことに!」


「もーまたわけのわからないこと言ってー。ほら、早くしないとパフォーマンス見れなくなっちゃうじゃん! ほらいくよー!」


「いやだから! あいつはパフォーマーではなくてだな!」


 俺の抵抗なんてなんのその。テンションアゲアゲのエルに力負けする形で引きずられる。


「離せこらァッ!」


「パフォーマンス♪ パフォーマンス♪」


 結局、いつものように面倒ごとに巻き込まれるのであった。



◆◆◆

 


『おい! そこをどきな、ねえちゃん』


『どきません! あなたたちこそ、その盗んだ品を返しなさい!』


『ヘッ、断る!』


『断るを断るッ!』


『ナニィッ!? じゃ、じゃあ断るを断るを断る!』


『私だって! 断るを断るを断るを……』



 広場を抜け大通りにつくと、人だかりの中心に2人組の黒マスクの男とランがいた。

 彼女たちは通行を遮るようにして、頭の悪い問答を延々と繰り広げている。

 やっていることは両者アホらしいが、周りの人間の怯えた様子から、ただ事では無さそうな雰囲気を感じ取る。


「えぇ!? なになに!? あの子、劇の人だったの!? 確かに格好もなんか独特だし、カッコいいもんね!」


 そして、いつもどおり何の危機感も感じ取れないエルが、その3人の中にテクテクと割って入るところまで1セットだった。


「おい、なんだそいつら? お前の仲間か?」


 立場が一気に傍観者から当事者へとランクアップする。

 もう言わんこっちゃない。


「はい。私の体の大事な部分を見せた仲です」


「ハァ!?」


 真面目な顔で答えるラン。

 おそらくあの入れ墨のことを言っているのだろうが、俺とラン以外にその真相を知るすべはない。

 あちこちから変態を見るような侮蔑の視線を向けられた。


「くっ……もうだめだ……」


 もう誰もこの流れを止めることはできない……。


「ヘッ、お前さんの仲間ってわけか。丁度いい、お前ら全員まとめて地獄行きだ!」


 物わかりの無駄に良い黒マスク2人が殺気を漂わせる。


「ヒェ……」


 ビビる俺。

 そして動かないアリシア。


「もしかして、これがウワサの一般人参加型パフォーマンス!? ユーヤ! わたしたち超ラッキーだよ!」


 状況を全く把握できていないエル。


「そうはさせません! 私のパーティーは私が守るッ!」


 俺の知らないうちに、勝手に仲間に加わったカンフー少女――ラン。



 総勢6名による、世にも奇妙な寸劇が開幕しようとしていた――。



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