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底辺冒険者と初めての共同作業


 敵に囲まれる中、3人うつ伏せになって作戦会議をする。


「とっておきの作戦、ですか……?」


 怯えた小動物のような目で俺を見るアリシア。


「ああそうだ。その名も――」


「またわたしをオトリにするとかは無しだからね」


 そう言ってエルがジト目で睨みを利かせてきた。

 よっぽどこの前のことを根に持っているらしい。


「お、おお、オトリってどういうことですか!?」


 エルの余計な一言で、アリシアの表情がさらに怯えたものになる。


「ば、バカ! 今回は違う。ただ、この作戦にはエルとアリシアのコンビネーションが必要だ」


 疑心が拭えない様子の2人を無理やり口元に近づけさせ、作戦の内容を説明する。


「……ということだ。なかなかの作戦だろ?」


 誇らしげに鼻を鳴らす。

 さあ俺を褒め称えろ、崇め奉れ。


 しかし、作戦内容を聞き終えたエルとアリシアは称賛を口にするどころか、血相を変えて俺に言い寄ってきた。


「そんなのムリだよぉー!! だいたいそれじゃあわたしのマントはどうなるの!? わたし自身は転移できてもマントは転移できないんだよ!? 燃えてなくなっちゃうよ!!」


「わ、私にそんな大役、できっこないです……」


 口々に不満と不安を漏らすエルとアリシア。

 だが、この作戦の他に状況を打破する手は無い。


 ラパンの群れが一向に戦いの意思を見せない3人に向かって、じりじりとその輪を狭めていく。

 サンドバック祭りが行われるのも時間の問題だ。

 ここはなんとしても2人を説得しなければ。


「エル!!」


「な、なに!? ぜったいに反対だからね!? わたしの商売道具をなんだと思ってるのッ? ……あ、そうだ! 1人ずつわたしのマントで避難させれば――」


「それじゃあ結局、お前のマントはラパンの群れに囲まれたままだぞ?」


 エルのマントで1人1人脱出しても、最後にはマントだけがあの輪の中に取り残される。

 俺やアリシアはそれで全然問題ないのだが、持ち主であるエルはそうはいかないだろう。


「う、確かに……」


 自分のマントが回収できない未来を察したのか、エルはすぐに納得した。


「お前のマントは魔法耐性のある特別製だろ? そう簡単に燃えやしない。それに、もしこの作戦が成功すればラパン20匹分の討伐報酬が入る」


「そ、それがどうしたの……?」


「それはもうたくさんの報酬だ。俺たちが見たことない額のな」


 ゴクッと生唾を飲み込むエル。

 俺の言葉に聞き耳を立てる。


「その報酬は俺とエル、そしてアリシアで山分けするのが普通だが……」


「……う、うん」


「もし作戦に協力してくれるなら、お前とアリシアの2人だけで山分けしてもらって構わない」


 俺の話を聞き終えたエルが、飛び上がる勢いで反応する。


「えぇーッ!? ホントに!? じゃあやるッ!!」


 よし。まんまと引っかかりやがった。

 こういう時、アホの思考の身軽さにだけは助けられるな。


 このクエストを受けた経緯を忘れている時点で、エルの頭の中身はお察しのとおり。

 元々のこのクエストの目的は俺がエルを裏切ろうとしたことに対する罪滅ぼしなわけで、俺が報酬を貰える立場ではそもそも無かったのだから。


 問題はアリシアの方だ。


 俺が作戦を伝えてからというものの、杖を持つ手はカタカタと震え、唇はあわあわと波打っている。

 これは説得にも骨が折れそうだ。


「アリシア」


 俺が名前を呼ぶと、ビクッと大げさな反応を見せる。

 俺がこれから言う内容がわかるからだろう。


「頼むアリシア。俺の考えた作戦に協力してくれないか? アリシアの力が必要なんだ」


「む、無理です……。もし私がさっきみたいにミスをしたら、今度はみんな死んじゃうかもしれないんですよ!? 私は冒険者になったところで昔のままの……蕾のままの役立たずな私なんですッ! だから……」


「『だから私には頼らないで』ってか? 悪いがそれはできない」


「な、なんで――」


「それはッ!!」


 アリシアの声を遮る。


「俺は、アリシアみたいな病弱で気弱な新人冒険者に頼らなければいけないほどの――」


「ほどの……?」



「――底辺冒険者だからだ」



 3人を包む沈黙。

 

「うわ、カッコわる……」


 しばらくして、エルが蔑んだ目でこちらを見てきた。


「う、うるせぇ!」


 俺だってこんなカッコ悪いことをカッコつけて言いたくなかったさ。

 だが、必ず俺の思いは伝わるはずだ。


 俺は弱いから助けを求めている。

 そして、彼女は誰かに頼りにされたいと強く願っている。


 これほどまでに持ちつ持たれつの関係が他にあるだろうか。

 いや無い。泣けてくるほど無い!


 俺はアリシアを見つめる。

 エルには酷評されたが、やはりアリシアには多少なり効果はあったようだ。

 彼女の瞳が揺れているのがわかる。

 泣きそうだからではない。迷っているからだ。


「いいかよく聞けアリシア。昔のお前のことは知らないが、これだけはわかる。お前は冒険者になって確かに変わった。そして、これからも変われる。なぜならお前の冒険はまだ始まったばかりだからだ!」


 お、今のはカッコよくないか!?

 テンションが上がるに連れ、少しずつ体も動くようになってきた。


「お前ならできる。お前は今や誰もが羨むハイウィザード、アリシアーナ・フローレスなんだぞ! 自信を持て!! 俺なんてなぁ、こんなゴミみたいな職業のせいで、ラパン1匹倒すことすらできないんだぞ……この前なんて――」


「ちょ、ちょっと!? 説得するのか愚痴るのかどっちかにしよーよ!!」


 おっといけない。つい脱線してしまった。


「とにかくアリシア!!」


 かすかに動き始めた両腕でアリシアの肩を強引につかむ。


「ひっ……はい……」


「おまえ、”でっかくて虹色の花”を咲かせるんだろ!? こんなところでくたばっていいのかよ!」


「ッ!?」


 ”でっかくて虹色の花”。

 その単語を聞いた瞬間、アリシアの翡翠色の瞳が先ほどまでとは違う輝きを放った。

 決意は固まったようだ。


「やれるな? アリシア」


「……はい。私、やってみます……」


 迷いや怯えを振り払うように杖を握りしめる。


「アリシアちゃん……!」


「よし。そうと決まれば、エル!! アリシアをありったけ上に飛ばしてくれ!!」


「りょーかいッ! いくよ、アリシアちゃん!」


 エルの呼びかけにアリシアが語気を強めて返事をする。


「はい! お願いしますッ!」


 よし、作戦開始だ。

 成功すれば大金、失敗すれば共倒れのまさに、イチかバチかの逆転の一手。

 そのすべては、アリシアの魔法にかかっている。

 頼むぞ、アリシア!



「≪転移(テレポーテーション)≫!!」



 作戦開始の合図が鳴る。

 空をつんざくエルの声とともに、アリシアは俺たちの前から姿を消した――。


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